表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/106

10.抜け道


 カールの戦鎚の下には、ひび割れて砕けた石が見える。そのまま連続して振り下ろし全部の石を砕き切った。今度は掴むことが出来るようになった石を摘まみ上げて、小さい切っ掛けから穴を広げていく。


「「おぉ~」」


 全ての石片の除去が終わった時に、何人かから感嘆の声が漏れた。

 目の前には露出した地面の他に、周囲をレンガで囲まれ木板で塞がれた場所がある。人が一人通る事の出来そうな大きさのそれは、事前情報を知っている我々からすると明らかに抜け穴だった。


「よいしょ!」


 カールが更に木板を引っ張り上げると、その下から黒い円が出て来た。


「カール、ありがとう」

「おうよ」


 一歩引いたカールの代わりに穴の側に立ち、ゆっくりその穴を覗き込む……

 見えるのはひたすら黒い空間。明かりも何もなく、その穴からはかび臭く湿った匂いが漂って来た。


「は、入るか」


 思わず尻込みしているのが、言葉として出てしまったような気がする。それを隠すために「カールの幅じゃ無理そうだな」なんて冗談を言ってみるが、周りの男達は愛想笑いを返すのみ。誰がこの穴の中に最初に入るのか、それに選ばれたくないといった感情がありありと伝わって来る。


「入る前に、紐で縛って中に松明を入れましょう」


 勇猛なサルキが珍しく尻込みしているように見える。明かりが無いと入りたくないといった所だろうか?


「何故だ?」

「時々洞窟なんかであるんですが、入った途端に気を失ってしまうものがあるんです」

「なんだそれ」

「多分体に有毒な何かがあるんですよ」

「ふーん」

「絶対ですよ」

「分かった」


 サルキにそこまで言われたら仕方がないと、ゆっくりと松明を下に垂らしてみると何も起きない。

 分かったことと言えば、少し下の場所から鉄の梯子が打ち付けられていて、錆びてボロボロであるが使えそうだという事だ。あとは、意外に底は浅いというところか。どちらにせよ、下に降りなければ始めらない。


「この狭さだと、体の大きい奴は無理だな」

「では、俺が行きます」

「フレディ、気を付けろよ」

「はい!」


 我々はフレディを先頭に一人づつ穴の中へと入って行った。

 その数11人。騎兵は動きやすくするために鎧を脱いで穴の中へと入る者もいる。


 中は狭くそして天井が低い。子供でも働くような年齢になっては閊えて(つかえて)しまいそうなほどで、自分達は常に中腰を強いられた。レンガの竪穴から続くのは石造りの横穴で、傾斜はゆるい下り坂となっている。これは深い川の下を通すためだと思われた。

 ゆっくりと中腰で進むのは腰に来る。しかも体を伸ばす場所もないので、時々しゃがみこんで体を伸ばしては、前進してを繰り返した。これでは迅速に移動できず、抜け道の意味があるのかと思ってしまうが、そこにある事が重要なのだろう。


 腰をさすりながら前進すると、やがて地面は平坦となりそして上り坂になった。これで恐らく川を越したのだ。暫く上り坂を登ると徐々に天井が高くなり、やっと腰を伸ばせる状態になった。

 普段であれば「いや、やっと体伸ばせるな!」とでも言って笑いたいところだが、いつ目の前から敵が来るか分からない、どこから音が漏れているか分からない状況で話す気にはなれなかった。


 狭く暗い穴の中を我々の足音が反響する。たまにどこかから滴り落ちる水音を聞いて、先程川の下をくぐった事を思い出して少し嫌な汗をかく。もし今、後ろの天井が崩壊して川の水が流れ込んだら…もし後ろを塞がれたら。そういった不安に常に苛まれながら歩いていた。

 話によればこの抜け道は東方大公の先祖が作った道だというじゃないか。それは何年前の話だ?ルーシーの授業ではメイズ大公国が現在の形になったのは60年近くも前だ。少なくとも今は亡き祖父と同じ年だと考えると、いつ崩壊してもおかしくないのではないか?

 あまりに静かで暗い空間に答えのない思考が常に頭の中を回り続ける。


 その思考の渦から自分を引き戻してくれたのは、先頭を行くフレディの「着きました」という小声だった。反響して後ろまで伝わった声で、全員が一斉に足を止める。もうヴァルリッカ城内という訳で、敵のど真ん中だ。


「本当か?」


 前を覗き込み抑えた声で問いかけると、先頭のフレディは松明を掲げて前を照らす。そこには入り口と同じようなレンガ造りの円筒の空間に打ち付けられた鉄の梯子。

 そして目的地の証拠と言わんばかりに、遠くから怒号のような歓声のようなウォークライのようなものが聞こえる。東軍が陽動で夜襲を敢行しているのだ。


「よし、登って確認しよう」


 自分の前にいるひとりの騎士と狭い通路の中で入れ替わり、最初から2番目で入ったらよかったと後悔しながらも何とかフレディの真後ろに付く。

 フレディはゆっくりと鉄の梯子に手を掛けて、落ちない事を確認してからひとつづつ登り始めた。

 徐々に上へ上へと離れていく松明の光を見ながら、先程よりも梯子が長い事を察した。そして、出口は入り口と同じように木板で塞がれている。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ