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9.廃教会


「あくまで何代も前の話ですから、今は変わっているかもしれません。一度小部隊を確認に向かわせてみましょう」


 東方大公の言葉に「そうだな…」と頷きながらエメリヒ第三王子は振り向いた。その視線の先には自分がいる。身軽な小部隊である程度信のおける部下、となれば自分が団長を務める近衛第二騎士団が妥当だろう。


「承知しました。今夜の内に渡河致します」

「開かなくても良しだが、開くことが確認出来たらいい。もし、やむを得ず入らなければならなくなった時は……その時は…そうだな城内で火の手を上げてくれ。今夜は月も細く暗い夜だが、我々も陽動で夜間に攻撃を行う事にしよう」


 東方大公は「それに少数の兵も西と南に伏せておきましょう」と付け加えた後、「では、リデル団長。詳しい場所ですが……」と前の机上にある、地図を指さして案内を始める。その話を聞きながら自分達は近衛騎士団ではなく、便利屋だなと思い始めた。



「我々は便利屋ですね」


 自分が考えていた事と同じことを、隣で見張るサルキが呟いている。

 近衛第二騎士団は付近の村で回収した5つの小舟に分乗し、ヴァルリッカの南側を流れる川を渡っていた。各船にはそれぞれ森の手の者達が1人以上乗っていた。彼らは獣人で夜目が利く。


「そう言うな。もし小道が未だに使えて支障なく城内に入れるのであれば、俺達はまた功績を積み上げることが出来るぞ」

「それは、そうなんですけどね。いや、別に近衛って言葉に拘っている訳でもないですし」

「まぁ、俺も同じことは思った」


 「思ってたんじゃないですか!」と言いたそうに後ろを振り向いたサルキの表情が、薄い月明かりのなかで見えた気がした。正直、自分は今の便利屋扱いは気楽で嫌いじゃないとサルキに言いたいところだが、元東方騎士団の仲間がいる前ではこれ以上余計な事を言わないようにしよう。


 対岸に到着した我々はそのまま下流である王都側にある旧宗教の廃教会へと向かった。

 廃教会に到着するまでは松明も使わずに歩いたせいで、随分と転びかけたり足を軽く捻りそうになる。星と月の微かな明かりが無ければ、今頃そこらに転がっていてもおかしくない程、周囲は鬱蒼とした植物に覆われていた。

 廃教会は石造り以外の全てが朽ち果てていて、その石造りの壁も所々崩れて内部が露出している。やっと松明を点けて中に入っても、外から見た状況と変わらない。床に敷かれた石を貫通して草木が顔を出していて、足を取られる。

 ふと森の中にある廃教会の中から外を見ると、とても言いようのない不安に襲われた。周囲は漆黒の闇で、見えるのは空の薄明かりに照らされた木立の影のみ。思わず自分の松明で照らそうと掲げても、木を照らす光の方向が変わったのみで、松明の火が照らす自分の足元の円の光以外は何もない。


「どうしました?」


 自分の行動を見ていたエドガーが心配そうに声をかけて来る。一瞬襲われた恐怖を周囲に伝染させるなど団長失格だ。なんとか表情の強張りを抑える。


「いや、ただ深い森だなと…これなら松明の火は見えないだろう」

「そうですね、城の周りの木は防衛の関係上伐り倒しますし、これより東は穀倉地帯ですから唯一の森と言っても良いです」

「何故、この森を残していたのかな」


 ふと思い浮かんだ疑問を口に出してみた。軽い世間話の気持ちだったのだが、存外にエドガーが真剣に考え始めている。そんな深い意味は無かったと否定して廃教会の探索に戻った。戻ろうとした。だが、どうにも引っかかる。


「……この抜け道、あいつら知ってるんじゃないか?」


 唐突な自分の独り言に、周囲の者達の視線が一斉に集まったのが分かる。松明で照らされ深い影を落とす沢山の顔が、こちらを見つめている。


「周囲にここ以外の森はない。しかも穀倉地帯と隣接しているし、耕作地は広げたいものだろう?何故ここだけ森を残す?」

「……でも確か王都にもありますよね?」

「あぁ、一か所だけな…それ以外だと王都から2日の距離にある、俺の生まれの村まで行かなきゃならん」


 もしかしたらという考えが過る。

 あの王都にある森にも抜け道があるのではないだろうか?であれば王族は知っていても不思議でない上に、向こうに利用される可能性もあるという事だ。


「団長、知ってるとも限りませんよ。取り敢えず探索しても良いんじゃないですか?」

「そうだな…そうしよう」


 トルガーの代わりに東方騎士団出身者のまとめ役をしてくれているウラシヌと言う男が、自分達の不安と期待を落ち着かせるようにゆっくりとした口調で喋りながら、松明で周囲を照らしている。

 ウラシヌは黒髪と黒髭を持つ落ち着いた顔の男で、それと同じく性格も冷静な奴だ。トルガーの後釜を任せるに足る人物と言える。


 廃教会の中を探索すると、昔の祭壇のような場所があった。石造りのそれは、言われてなければ階段だと思ってしまうような高さをしたものだ。その祭壇の前に同じく石造りの演台のようなものがある。そのちょうど真ん中が隠し通路らしいのだが……


「ここかな?」


 綺麗に切りそろえられた石畳を叩いてみると、6つ分の石が周囲より軽い音を奏でた。その石を引っ張りたいところだが、間に土が詰まっていて指を掛ける隙間も無い。


「カール」

「はいよ、叩き割ればいいんだろ?」

「あぁ」


 カールはひとつ戦鎚を握り、振りかぶると地面に向かって思い切り叩きつける。

 下の石が砕けた音がした。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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