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6.東方侵攻


 南軍の東への進軍は順調でなかった。

 春先、雪解け直ぐの道路は泥濘と化し、馬車の動きを度々止めた。王国内で自国民の食糧を奪い取る事を避けた南軍はこれに時間を取られた。これは北軍にとってかなり幸運と言っても良いだろう。

 南軍の進軍遅れにより生まれた猶予で東方諸侯は戦力を結集し、東方大公の居城であるボルダックス城に3200の兵が籠った。またそれ以外の城は”全て”もぬけの殻となっている。守備兵は丸ごと引っこ抜かれ、諸侯の家族と共にボルダックス城に避難したのだ。


 一方の我々東軍本隊は、雪解けが始まるまで動くことが出来なかった。

 東方の領地からの徴兵は雪の影響で遅々として進まず、現在タリヴェンド城に駐留している部隊はなかなか動くことが出来なかった。

 そしてようやく我々の足元に積もる雪が溶け始めた時には、ヴィアネッロ侯爵はもぬけの殻である城を攻略し続け、東方の中間地点程まで進軍していた。それはボルダックス城から4日の距離で、目と鼻の先である。


「ようやくか!!」


 我々の徴兵した兵士の第一陣が到着した時、自分の右前で城主の椅子に座るエメリヒ第三王子の背中が発した第一声がこれだ。


「それぞれが雪の中を進軍しています。春が近づいていますが、全軍の結集までは更に時間が……」

「分かっている」


 東方大公の諭すような口調に、エメリヒ第三王子は分かっていると大げさに手を振っている。分かっていても、口に出して言いたくなるほどの遅さである。


「東方大公よ、領地は大丈夫か?」

「優秀な片腕を残しております。何も心配いらないでしょう」

「全ての兵をボルダックス城に入れたと聞いたが」


 東方大公は直ぐには返答せず、彼は伝令に来た兵士が出て行くのを見届けた。その後で周囲を見回して、残っている人間の顔を確認すると話し始める。


「その通りでございます……メイズ大公国との国境警備も間に位置する砦や関の守備兵も含めて、全てがボルダックス城に」

「な……国境を開けたのか!?」

「左様にございます」

「何故だ?」


 その話を聞いたカーマイン辺境伯は、エメリヒ第三王子と共に目を見開いている。一方で東方から来ている諸侯は納得したような表情だ。なにか事前の取り決めなどがあったに違いない。


「メイズ大公国の兵を引き込む為です」

「……は?」


 オロール王国とメイズ大公国は、オロール王国が王国になる前のオロール侯であった頃、他の数多くの諸侯とメイズ大公と共に一つの国を形成していた。

 その国が瓦解した時にそれぞれ独立した諸侯は、血を血で洗う戦いを繰り返し、やがて勢力を増したオロール王国がメイズ大公国を旧領から、東の山中へと追い出したのだ。それ以来、メイズ大公国とオロール王国は長年の宿敵関係である。

 特に現在の東方大公が領有する地域がメイズ大公国の領地であった。その為メイズ大公国の悲願は、オロール王国の打倒と共に、東方大公の持つ王国東側の領地を取り返す事なのだ。


 そんな恨みの塊とも言えるメイズ大公国の兵を王国内に引き入れるとなれば、もしや裏切りかとエメリヒ第三王子の心の中を過ったに違いない。

 エメリヒ第三王子もこの内乱が起きなければ、メイズ大公国を含む東の諸国と王国を打倒するつもりだったらしいが、それはあくまで頭の中での話だ。これから支配しようとしている王国に実行するとなれば話が違ってくる。


「メイズ大公国の兵力は全力で動員しても約7000程度。直ぐに動くことのできる常備軍は1500~2000程度です」

「それが王国の土を踏むというのか!?もしや……」

「ハハハッ!!陛下…私に二心の心はありませんよ、奴らを利用するのです」


 東方大公は淡々と、防衛策を話し始める。


 元々、東方大公が自分の領地から離れる際に、南、北軍の急激な転進で自分の領地である東方地域が危機に陥る可能性があるのは十分考えられる事だった。その為、攻撃の矛先が向いた場合の方策を決めていたのだ。

 まずは、各地の城から留守を預かる親族や家臣、守備兵をボルダックス城に集結させる。メイズ大公国が進軍することになる東方の地域は、更に全ての領民がボルダックス城に入る事になっている。

 抵抗が無く進む南軍は、あっという間にボルダックス城に到達し包囲戦に入る。だが、いくらなんでも3000の兵が籠る堅い城を、一つの季節だけで落とせる訳もない。そこで時間を稼ぐうちに徴兵を終えたメイズ大公国が東方から軍を率いて登場する。

 これで南軍は包囲戦を辞めざるを得ず三つ巴の状況の完成だ。


 もし、南軍が包囲戦を止めてこちらに向かってくるのであれば決戦を挑み、向かってこないのであればその間に王都を含む南軍の領域を切り取るだけだ。

 どちらにせよメイズ大公国の軍は領内に侵入を許すが、南軍がそれを片付けるのであればそれで良し、無視するのであれば、内乱の決着をつけた後に自分達で排除するという防衛計画だった。


「なるほど、こちらも急がなければだな」

「我が配下たちは私たちが援軍に到着するまで決して降伏しないでしょうが、その時期が早いに越したことはありませんので」

「うむ」


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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