2.続報
勿論、「第一王子と第二王子が協力して西方大公の暴走を止める」などという希望に満ち溢れた事が起こる筈もなく、辺境伯領へ事態を悪化を知らせる大量の続報が、急使によってもたらされた。
北方大公と第一王子は即座に西方大公征伐を掲げ挙兵し、動ける1200の兵力を伴って南下を開始した。一方の第二王子はなんと反乱の5日後には既に王都入城を果たしており、その報告を受けた第一王子の軍は中央平原北部にて進軍を停止し、第一王子派閥の貴族領で本格的な徴兵を始める。
第二王子と南方大公はこの一連の動きを事前に知っていたかの如く、西方大公が反乱を起こした時には既に王都から南に7日の地点まで2000の兵を伴って練兵名目で進出しており、その後第二王子は西方大公の呼びかけに呼応すると、迅速に王都へ入城し”ダミアン・エーリヒ・オロール4世”を僭称した。
「というわけだ、我々の動き方を決めるために皆には集まってもらった」
無表情で現在の状況をまとめた辺境伯は、感情を押し殺すかのように机を2回指先で叩いた。
国王崩御の急報を受けてから15日後、辺境伯領の名士たちが再び集められている。
「北方大公からの招集があったとお聞きしています」
ベゴニア子爵が口火を切った。
「あぁ、今朝な……全軍を率いて旗下に入るようにと」
「であれば、正当な王位継承権を持つ”王太子殿下”の下につくのが正しいでしょう」
正当性を重視するベゴニア子爵の主張に、バーミリオン男爵が結論を出すのは早計だと言うように手を挙げる。
「辺境伯、第二王子派閥からは何もないのですか?」
「……いや。2日前には”王”を名乗る書状が届いた。辺境伯領にて北方大公の軍を抑えるようにと」
「つまり動くなと?」
「そういう事だ」
「現在勢力が上回っている第二王子派閥につかなければ、第一王子と北方大公と運命を共にすることになります。ここは勝ち目のない第一王子に味方するよりも、第二王子に味方したほうがよろしいのでは?」
バーミリオン男爵の意見も十分に理のある事だった。
現在第二王子は、南方大公派閥と西方大公派閥のふたつの勢力を後ろ盾に持っている。一方の第一王子の後ろ盾は北方大公の勢力のみだ。これによってほぼ倍の勢力差がついている。
だが北方大公と第一王子は共に戦上手で勇名を轟かせた者達で、見立て上はほぼ拮抗していると言っても過言ではないのだ。
「そんなバカな話があるか!北方大公と第一王子だぞ!戦下手の第二王子なぞすぐに打ち破る」
正当性を重視しているベゴニア子爵としては、受け入れられない事だろう。それに同意する者も多数いるようで、何人かの頭が縦に揺れていた。
「二人の大公が後ろ盾にいる!それに第一王子は政治が下手じゃないか!それがこの状況を招いている!」
バーミリオン男爵の意見に同意する者も頷いている。
辺境伯はというと、腕を組み少し上を見て二人の意見に耳を傾けていた。
「政治だけで再び訪れる帝国との戦争に勝つことは出来ない!」
子爵と男爵は喧嘩のような意見のぶつけ合いを始める。
「だが、第一王子は苛烈すぎるそのお人柄に問題がある!そのような方が国王になられることがあれば、帝国と戦う前に再び反乱が起きることは間違いない!」
「何を言うか!優柔不断の第二王子が国を導けば、王国は迷い、そして国民も迷う事が目に見えているだろう!?結局、政治屋達の政争が始まるだけだ!」
「国民と野盗をまとめて焼き殺すような者が、国王に相応しいわけがない!」
「兵力に劣る帝国軍に大敗して逃げ帰って来るような者が、王国を導けると思うか!」
どちらも王子二人を表立って批判しているが、それを咎める者は誰もいなかった。二人の言っていることに間違いはない上に、これは辺境伯領の未来を決める話し合いで、忌憚のない意見が求められた。
「子爵殿、考えてもみよ……我々が第二王子派に加われば、第一王子は挟み撃ちで身動きが取れなくなる。我々が勝利の決定権を握っているのだ、これは戦後大いに評価される」
「それは第一王子が勝った場合も同じであろう?むしろ今動かずして不興を買う方が、状況が悪くなるのではないか?征伐軍の一部を直ぐにこちらに差し向けて来るやも知れん」
「だが、それは……!」
更に二人が意見を言い合おうとしている所を、辺境伯が小さく手を上げて制する。
「他の者の意見も聞きたい」
辺境伯の言葉によって順番に意見を発表していくが、どれも子爵か男爵の意見を肯定する物で新しい意見は無かった。追加で出た所と言えば「恐らく少数の第一王子派は兵力を分散させないし、第二王子はこちらに構う余裕はないだろう」という事だった。
「リデル・ホワイト騎士爵、君はどちらに付くべきだと思う?」
「私は……」
最初は正当な王位継承権を持つ第一王子に味方する意見を出そうと思ったのだが、それが口から出なかった。どうも脳裏に天幕でマルセラが見せていた第一王子に対する感情が蘇ったのだ。
負傷したマルセラは嫌悪を隠すことなく、王国民を殺した第一王子を語っていた。
「どうした?気にすることはない、君の素直な意見を聞かせてくれたまえ」
覚悟を決めて立ち上がると、周囲の視線が集まった。
「では……私は”どちらにも味方するべきではない”と考えます」
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。