4.越冬
東軍はタリヴェンド城でひたすら戦力の増強と練兵に励んだ。
ローシェンナ地峡の降伏した諸侯から最低限の守備兵でさえも徴兵した上に大量の食糧や軍需品を徴収し、それぞれの貴族に自らの城において謹慎させた。尚、モーラ辺境伯はこれらの監視と、周辺諸国へ対する牽制の為に100名程度の兵士を我々に送り出すのみだった。
北軍に所属していた諸侯のうち、領土を我々に制圧された、若しくは当主が拘束された者達は悉く我々の軍門に下り、南軍に鞍替えをしたのは僅かな数の貴族で、より中央部の南軍に近い場所に領地を持つ者達のみだ。
さらに東軍は、春先には各地の兵を限界まで徴兵する旨を布告していた。これに反応し、南軍も同様の布告を冬の内に各地へと走らせている。とはいえ春先は農作業の季節であり、ほぼ夏に近い時期か雪解けしたばかりの頃になると予想されていた。
この間の各国の動きとして、同時期に内戦となっていたスマルト共和国は、軍を掌握した共和国議会議長の派閥が完全に勝利している。これによってスマルト”共和国”は共和制ではなくなった。
東方大公の管轄地域に隣接する仇敵であるメイズ大公国は、農作物の収穫が済んだ時期に2度、東方大公領に少ない兵力で攻め寄せているが、東方大公領に残っている各将が見事防衛を成功させている。門にさえ触れさせることが無かったというのだから完勝だ。様子見程度だったのだろう。
だが、彼らの南方に位置するスマルト共和国との外交を積極的に行っているらしく、これからはどうなるか分からない。話が纏まり次第、王国に対して2カ国連合を組み攻めてくる可能性は少なくない。
海賊国家ヴァトーは引き続き我々との同盟を維持、モーヴ協商国との協定も同様、南西に位置する諸国家連合はいつも通りの我関せず。
唯一オロール王国に対して大きな動きを見せて来たのは南部のムタルド教国だ。かの国は王国南部に攻め寄せていくつかの城を攻め取ったらしい。その対応に南軍きっての防衛戦上手であるカタラーニ侯爵が、8000の兵を率いてこの厳冬期に交戦中だ。もっとも南方であれば雪も降らず、肌寒い程度で済むらしいので戦に丁度良い季節なのかもしれないが。
各地で内乱や小競り合いが発生している一方、我々が最も懸念するスプルース帝国の動きは全く王国を向いていなかった。勿論不戦協定を結んでいるのもあるが、彼らは国力の回復と周辺国への侵攻準備に忙しくしているようだ。
最も敵対視されているのは、帝国の北西側に位置する獣人国家のモルドレであろう。
”人間の誇り教”を国教とするスプルース帝国は、国内の獣人の権利を著しく規制している。その為多くの亡命者が、獣人の国家であるモルドレに渡った。大陸全体でみると獣人の数は多くないかもしれないが、大陸の約3分の1の土地から集結するとなれば、それなりの大軍となる。しかも、全員が帝国に深い恨みを持つ者達だ。
人間至上主義の”人間の誇り教”を国教とする帝国に取ってこれ以上背中に敵を抱えたくないのだろう。この戦争は激しいものとなりそうだった。
ここまでが我々がタリヴェンド城で年を越すまでに得た、各国の情報だった。
情報を冬で閉ざされた北方で集める間、我々は交代で兵士を帰郷させて、維持しているのは2000程度。これは兵站の担当であるパーシアン侯爵の節約術だ。
雪に閉ざされた北方から出るのも、攻め寄せるのも容易ではない。それならば帰郷させてしまおうという考えだ。特に東方大公領の兵士は、メイズ大公国に対する牽制としても帰郷は有効だった。
一方南軍は、領地が攻め取られたことも相まって常に2万2000の軍を維持している。これは相当な負担である事は間違いなかった。それに北軍の残党も合流したらしく、これから数が増えているらしい。
冬の間も休まず戦闘を続けなければならない南軍と、十分な休養と練兵期間を設けることが出来た北軍。実戦経験を積んだ南軍か訓練のみの北軍のどちらが有効かは置いておくとして、英気を養うことが出来ているのは間違いなく北軍だろう。
そうこうしている内に年を越し、エメリヒ”王”主催の簡単な年始の宴がタリヴェンド城で開催された。
参加を許された貴族は東方大公とその配下の貴族、2人の辺境伯のみで他の貴族はおらず寂しいものだった。それでもこの内乱を勝ち抜くことが出来れば、この少人数の男達がエメリヒ王の下で権勢をふるう者達になる。
更に年が明けて70日が経とうとした頃、我々カーマイン辺境伯領の者達の2度目の帰郷が目前に見えていた。
「10日後にはもう一度帰れますね!!」
いつになく嬉しそうな声なのはアントンだった。どうやら前回の帰郷で結婚が決まったらしく、次の帰郷で結婚式を故郷の村で行うらしい。
「そうだな」
「団長は勿論お祝いに来てくれますよね!?」
「そりゃな、なんやかんや長い付き合いだ。お祝いの品も持って行ってやるよ!」
「そりゃ楽しみだ!!」
と、アントンと次の帰郷について話していても、自分の頭の中にあるのはルーシーに勝っていく土産の事のみだったのだが、どうやら悟られていないようだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




