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3.パウラ


 久しぶりに帰った兵舎の自室は埃っぽかったが、剣を枕元に置いておかなければならない状況から比べたらかなりマシだ。安心できる環境だったからかもしれないが、久しぶりに深い眠りを得ることが出来た。


「おはよう」

「……」

「おはよう!!!」


 誰かが自分の部屋で朝の挨拶をしてきている。

 今日はここ半年間で初めての何もない休日だった。これまでの睡眠不足を取り返してやろうと昼まで寝るつもりだったのに、どこの誰が朝早くから自分の部屋で大声を出しているのか。


「朝!!」

「うぅ」

「朝だって!!」

「……誰だよ」


 はっきりとしてきた意識の中で声を聴いたので、大体察することが出来た。だが、面倒臭い上に起こされて腹が立っているので、わざと聞いている。


「パウラだよ!!」

「…オヤスミ」

「なんで?」

「……そりゃ、眠いからだ」


 布団を頭まで上げたところで、朝の3つ目の鐘が鳴った。

 部屋の中は暗いが、窓の木の隙間からは若干の光が入って来ている。朝と昼の丁度真ん中と言った具合の日の光だ。


「ちょっと!帰って来たのに私に何も声かけないの!?」

「……わーったよ」


 ゆっくりと体を起こすと、ベッドの足元にパウラが立っている。いつも通り弓を持っているが、この状況だと物騒なのでやめて欲しい。


「…今日行こうと思ってたんだ」

「ふーん、そう」

「貰った地図はかなり役に立った、あれが無かったらかなり厳しかったよ。ありがとう」

「それは良かった」


 自分がこの場で言えることは言った気がするが、立ち去る素振りを見せないとなると何かがあるのだろうか。


「…パウラはどうしてた?」

「自分の村の片づけを済まして、完全にこっちに移住したの。いまは北方樹海に住むエルフたちと、カーマイン辺境伯領の人達の窓口役をやってる」

「パウラにしかできない仕事だな。ここが居心地良さそうで俺も嬉しいよ」

「もう故郷は無いからね、私にできる事は他のエルフの村に行くかここに住むかだけど……」

「ここに居たら良い」

「うん」


 パウラは全てを故郷や家族を失ってしまっているのだ。この世界は戦争だらけでそうなった者は少なくないが、自分の手が届く範囲の人は出来るだけ助けたい。それに自分はカーマイン辺境伯領に来てから、北方樹海に関わる事が最近多く、その中で彼女に散々助けられた。恩返しをすこしでもしておかなければならないとも思う。朝無理矢理起こされるのは別だが……


「パウラ」

「何?」

「風魔法を使える奴を集めてくれないか?出来れば15覚醒で」

「エルフも必要?」

「知り合いがいるのか?」

「いや……村の位置を知ってるくらいだから」


 自分の中に少し腹案があるのだ。それには風魔法を使える人間が必要で、それを集めるためにはカーマイン辺境伯領にいる15覚醒の魔導士だけでは足りないのだ。


「そうだな、出来れば年が明ける前までに集められるか?」

「年明け前!?どれだけ北方樹海が広いと思ってるの!?」

「分かった、そうだよな。一応年が明けてから、もう一度帰って来る時がある。その時に頼む」

「それくらいなら……まぁ。期待はしないでね!エルフは積極的に人間と関わる事はしようとしないと思うから」

「頼み事ばかりで悪いな」


 パウラは「感謝してね」と言い残して、自分の部屋から出て行った。都合のいいように利用している感じがして、申し訳ない気持ちがある。今度会った時には、どこかの店屋で美味しい物でも食べてもらう事にしよう。

 その後の一日は、休暇らしく昼間から酒を飲んで寝て過ごした。明日からまた訓練の生活が始まるのだ、その為に一日怠惰に過ごしても誰も責めないだろう。



 翌日、早速パウラが北方樹海へ向かった事を聞いて自分も仕事を始める。

 自分の配下の近衛騎士団がカーマイン辺境伯領に来ている訳ではないので、出来る事は個人の弓矢と剣の訓練、あとはルーシーの貴族教育を受ける。もはや一日の最後にあるルーシーの貴族教育だけが楽しみと言っても良い。


 そんな日々を繰り返してカーマイン辺境伯領で10日ほど過ごし、あっという間に休暇が終わった。

 次にカーマイン辺境伯領に帰ってくる事が出来るのは、年が明けたあと春の手前くらいだろう。何事も無ければ……

 今回の出発は見送りなども無い、見送る側であるカーマイン辺境伯も一緒に行くのだから当然でもある。ただ、一緒に行く人物は変わった。

 騎兵を連れて行くためにノルデン騎士団のナッフート騎士団長、それにバーミリオン男爵に変わり、直接自分の目でエメリヒ第三王子を確かめたいと言ったベゴニア子爵だ。


 自分の部下で変わったのは、先の戦いでなくなったアイゼンデの代わりにノルデン騎士団から、片手剣を使うソルディという男が合流した。茶髪に茶色の目を持った背の高くない少し痩せた男だが、ナッフート騎士団長曰く「より誠実で忠誠心を持った奴を選んだ」だそうだ。

 そして我々は積雪で使えない馬車の代わりに大量の荷物を馬の背と自分で背負い、再びタリヴェンド城の東軍の下へと向かった。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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