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8.死せり


「下郎共が!!離せ!!!触るな!!!!」


 馬の下敷きになっていたアルトゥール第一王子を引っ張り出した途端にこの有様だ。

 手に武器を持っているわけでも無いが、大柄な男が暴れるだけでも十分手を焼く。その様子をみてエメリヒ第三王子に救いを求める視線が注がれる。


「生け捕りにしろ」


 誰がその役割をするのかと、周囲の者達が顔を見合わせている。少なくとも通常の行軍のように手を縛って縄に繋ぎ、馬の後ろを歩かせるわけにもいかない。ここは敵地の真ん中なのだ。

 となれば誰かの馬の後ろに乗せるしかないが、意識のあるままであれば暴れるだろうし、気絶した奴を馬の後ろに乗せると絶対に落馬する。馬の前に乗せると今度は敵陣を突破する際のスピードを出せない。


「エメリヒ王、無理です」


 これを言うのは自分の役割だと思った。


「…リデル。何を言っている?」

「生け捕りは不可能です。意識が有るか無いかに係わらず、馬車も無い我々の騎馬に乗せると、敵陣の真ん中で落とす可能性が高いです」

「…生け捕りにしろ」


 エメリヒ第三王子は意見を曲げない。彼は肉親の処刑を躊躇っているのだろうか。だが、自分の目にはエメリヒ第三王子が怖気づいているようには見えない。むしろ、復讐に燃えるような表情だ。


「エメリヒ王!無理です!!必ず逃してしまいます!!此処で!!此処で倒してください!!」


 鋭い目つきで睨んで来るエメリヒ第三王子に対して、心の中で反逆で処刑されるのではと恐怖が浮かんだ。


「奴は、王都で!民衆の前で!!我に首を切られなければならないのだ!!」


 自らの政治の宣伝の為に利用しようとしているようだ。

 そうこうしている間に、追撃の部隊と交戦しながら後方を守っていた部隊が遅れて我々に合流しようとしているのが見える。彼らの後ろには、未だに主君が生きていると信じ、守ろうとする近衛騎士団の生き残りと北方騎士団の姿が見えた。


「エメリヒ王、それは必ずなのですか?今ここで”王”を守らんが為に戦っている者達の命を大量に引き換えにしてもでしょうか!?」


 自分も焦りからかついつい強い口調になってしまう。もはや、処刑されても仕方のない言い草だがここでこれ以上の問答をする気はなかった。もし、それでも生け捕りにしろと言われるのであれば、今すぐに自分がアルトゥール第一王子の眉間を射抜いて終わりにしようと思う。

 その為に腰の矢筒に手を伸ばしかけた時、エメリヒ第三王子が口を開いた。


「……分かった」


 そう一言だけ言い残すと、丸腰のアルトゥール第一王子のもとへ馬を動かした。


「エメリヒ!貴様ぁ!!妾の子のぶ……」


 アルトゥール第一王子は全ての暴言を吐き終える前に、エメリヒ第三王子によって剣で首をひと突きにされ、自らの血に溺れた。彼はそのまま首を抑えながら力なく倒れる。

 エメリヒ第三王子は倒れたアルトゥール第一王子の首にもう一度剣を刺すと一気に切り落とし、槍を受け取るとそれに突き刺した。


「誰ぞ!首を持て!!胴体も馬に縛り付けろ!!そっちの北方大公の死体もだ!!」

「「はっ!!」」


 ついに状況が動き出したが、エメリヒ第三王子が出発の時まで自分を見る事はない。

 ボウデン騎士爵は一度こちらを向いて頷いたが、それ以上の事は無かった。どうやら周りの人間は、強く諫めた事を理解してくれている様子だが、自分の”近衛第二騎士団長”という地位が長くないかもしれないとも思う。


「撤退だ!!槍の先にアルトゥールと北方大公の首を掲げよ!!!そして我々の勝利を喧伝せよ!!!」


 エメリヒ第三王子の言葉を合図に、我々は来た道を引き返した。

 後方で戦闘していた足止めの部隊は、元気がまだある者達と変わり、再度近衛騎士団と北方騎士団の騎士の塊を突破する。

 彼らは我々の部隊が掲げている二つの首にいち早く気づき、奪還の為に遮二無二突撃してきたが、完全な勝利を確信した我々は士気が回復しており、余裕を持って弾き返していた。


 敵本陣にいる従者たちにも聞こえるように、左右に散らばる敵軍にも届くように、戦場を駆け抜けながら我々は大声で「アルトゥール第一王子死せり」「北方大公死せり」を叫び続ける。

 しつこく追撃してくる近衛と北方騎士団を引き連れ、カーマイン辺境伯率いる歩兵が構える陣へと帰還した我々は、反転して歩兵と共同し、それを散々に打ち破った。散り散りになった近衛と北方騎士団の残党は、更に両側にいる味方に敗報を伝えるだろう。


「良くお戻りに」

「待たせたな。カーマイン辺境伯」


 エメリヒ第三王子はカーマイン辺境伯を労い、カーマイン辺境伯はそれに嬉しそうに頷いた後、自分に視線を向ける。だが、自分は我々の勝利に上手く笑うことが出来なかった。


 歩兵隊の存在は雪が降っていたこともあってか、全く気付かれていなかった様子だ。我々は更に強く降り始めた雪の中、ルイジア関へと撤退を開始した。

 あとは、戦場全体に北軍の大将2人が討ち死にした事が伝わり、自然に崩壊していくだろう。我々は待つだけで良い。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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