2.奇襲
我々は平原の入口へと到達した。
確かに東軍の奇襲に備えるように張り巡らせた木柵と、こちらに向けて木を尖らせて設置された逆茂木がある。だが、そこを守る人の姿はおらず、その奥に天幕まで見えていた。
正面に軍隊がいるとは思えない静かな光景で、音も雪にかき消され聞こえない。さながら、大軍隊が一晩で消えてしまったような光景だ。だが、どこからか腹から響くような地響きがする。
「もう始まっているな」
先頭の自分に追いついたエメリヒ第三王子が、隣に並び周囲を見渡した。
その視界のどこにも敵である北軍の兵士一人も見当たらない。奇襲を受けたとはいえ、いくら何でも敵軍と正対する筈の正面に軍隊を置かないのはおかしいと言わざるをえない。
「はい、両翼からの奇襲は成功のようです。ここまで正面が手薄になるとは……」
「いや、手薄になったわけではない。恐らく左右に軍を分けた事によって手薄になる正面を守る為に、本陣付近に後退して陣を厚くしているのだろう」
「それでは左右の軍は横腹や背後から攻撃を受けた時に対処できないのではないでしょうか」
「実際のところ、奴らは余裕が無いのだろう。奇襲を受けたばかりなのだ」
「はぁ……そうですか」
「東方大公が言っていたであろう?北方大公は後手に回ると弱いと…これが先手だ」
「成程」
「まぁいい。我々が目標とするのはアルトゥールと北方大公だ、進もう」
「はい」
戦斧を持つサルキが主となり、軍隊通過の為に木柵や逆茂木が撤去作業が開始される。3層に渡って設置された木柵と逆茂木は、横から避けることが出来ない程の長さとなっている。到着から昼までの短時間で3層もの設置を終わらせることが出来るのは、北軍がこれまでの戦いで経験を積んできた証だろう。
自分とカンブリーは壊されない木柵の上に登り、周囲の警戒を続けた。東軍と北軍のどちらの姿が見える事も無く、中央部の見張りや巡回をしている様子もない。我々の作業は順調に進んだ。
設置された木柵と逆茂木の撤去作業は直ぐに終わった。そこから我々は2列縦隊となって、天幕の間を縫うように敵陣の真ん中を堂々と進んで行く。本当は少し急ぎたい所だったが、雪の降りが少し強くなってきたので視界が更に制限されている。
「リデル団長よ、君は北方騎士団というものが、どんな奴らか知っているか?」
敵陣の真ん中で神経をとがらせて、目をあちこちへ向けている自分に、エメリヒ第三王子が随分と呑気に話しかけて来た。正直鬱陶しいが相手は我らが王とした方だ、答えないわけにはいかない。
「いえ、詳しくは……戦勝会でタリヴェンド城にお邪魔した時に、門番をしていたくらいでしょうか。体格が大きい人が門番をしていました」
「良い視点だ。北方騎士団は、北方大公ウルリク・セレスト公爵の大きな槍だと思え」
「槍、ですか?」
「まず身長6フィート以上でないと入れない」
確かに、北方大公の周りに居た騎士は大柄であったが、それは見栄を張る為だけだと思っていた。
「使っている馬も特殊だ。北方騎士団の馬も”デカい”ぞ」
「え?王国の馬に大きいとかあるんですか?」
「我々が今乗っている馬は、南方種のアレブレットと北方種のシューロンの交配種だ。馬格も帝国の馬と比べて大きい割に、スピードもスタミナも両立している良馬種なんだ」
帝国の馬との比較は、近衛の時によく聞いた。それが我々と帝国の騎兵の決定的な差とも。
「北方騎士団の馬は、ほぼシューロンの原種という奴でな。スタミナもスピードもこちらと比べて2枚ほど格落ちだが、馬格とパワーが段違いだ。奴らはその馬の前面に鉄板をつけている」
「それは…堅そうですね」
「弓矢など効かない。スピードはないが衝突力が段違い。一度突っ込まれると、そこから止まることなく大きな穴を広げ続ける。それにシューロンのパワーを生かして乗っている騎士も重装だ」
「……」
「勿論守備力も段違いだ。我々はその中へと突っ込むことになる」
自分の考えでは、騎兵を突撃させて、それに護衛される形で魔力を温存しながら自らは弓矢を放ちつつ突破し、北方大公をマジックアローで狙撃するつもりであった。馬に弓矢が効かないとなれば、騎士を正確に狙わなければならないが、その騎士も重装ときたもんだ。これは簡単にいかない。
「マジックアローの使い方が難しいですね…」
「もしかして、北方騎士団の事を全く知らなかったか?」
「……はい」
「確認のつもりでこの話をしたのだがな…まぁ、今話した通りだ。マジックアローに頼る事になる」
出来れば、この敵陣の真ん中、交戦寸前ではなくもっと事前に聞いておきたかった。今更文句を言ってもどうしよも無い事だというのは分かっているので、対応策を考えなければならない。
おそらく北方騎士団の全てが我々の正面に居る訳ではないだろう。であれば、突破に1本、狙撃に1本、撤退に1本、不測の事態を考えてもう一本分の余力を残すといった所か。マジックアローであれば何とかなるであろうが、間違いなく自分の少ない魔力が枯渇することは間違いなさそうだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




