8.落馬
「俺は……近衛第二騎士団長だ」
「はっ!お前がかぁ!?」
「……そうだ」
明らかな侮蔑の表情がアーロンとオリバーの顔に現れた。それを隠そうともせず二人がこちらの顔をみてくるものだから、思わず昔の様に萎縮してしまう。
「ははっ!!アーチャー如きが騎士団長を名乗るとは、そちらさんは随分と人材不足の様だ!」
「……」
「それにプライドも無い!!」
「……クソ野郎どもが」
ニヤリと笑いながら、散々な言葉を浴びせ掛けて来る二人に対して、僅かに言葉を返すことが出来たのは、自分が近衛騎士団に居た頃に比べたら随分な成長だ。それでも言われたことに対して、少しの罵詈雑言しか出て来ない自分の語彙のなさが情けない。
助けが欲しくなり横目でカールの様子を確認すると、未だ一人の近衛騎士と戦鎚で戦っており、まだこちらを助けに来れる様子ではなかった。アーロンとオリバーはその自分の視線の動きを察して、馬を進めてあっという間に間合いを詰めて来る。
「それじゃあ、似非近衛騎士団長でも討ち取らせてもらうぞ!!」
”本物”の近衛騎士団の馬の扱いは格段に上手かった。二人は一息で間合いを詰めて来ると、自分の斜め後方と斜め前に位置取った。丁度対応の難しい場所に、馬を正確につけたのだ。その位置関係を何とかしようと、自分も手綱を操り馬を動かすが、彼らの動きと正確さにはついていけない。
こちらが不利な位置にアーロンとオリバーが付く度に、剣が降られ自分は必死に体を捩り、剣で受け流し、時に掠めて薄皮が切られて血が滲んだ。そしてただひたすらに、弓兵部隊のいち早い退却終了と、カールの到着を祈る。
だが、そんな祈りも虚しく、自分の体に付く傷は徐々に深くなっていく。特にオリバーが狙ったアーマーの隙間から、後ろの脇腹に少し深めの傷が出来た。これで自分は体勢を崩された所に、アーロンの追撃が入る。それを真正面から剣で受けてしまった自分は態勢を崩し、落馬してしまった。
鐙が上手く引っかかってくれたおかげで、空中で回転する形で足から着地することが出来たものの、手元から馬は離れ、騎乗の二人に対して地べたを歩く歩兵が対峙する形となった。
(カール!まだか!!)
目の前の二人の騎兵から目を離す事は死を意味する今、カールの方向を見る余裕は無かった。
自分の周囲を弄ぶかのようにぐるぐると周回し始めたアーロンとオリバーは、いつ自分を倒そうか、それとももっと遊ぼうかといったことを考えているのが顔つきで分かる。彼らは今まで近衛騎士団という組織の中に会って、リデルという平民出身のアーチャーを殺すに至る事は無かったが、今は敵として線上にいる以上、自由なのだ。
弓兵隊は撤退し、騎兵はその数を減らした上に包囲され、既に大勢が決したこの戦場で、アーロンとオリバーは自分を殺す事を焦らない。自分を中心とした円を描きながら、馬をゆっくりと周回させている。2人に余裕がある内に少しでも時間を稼ぐことが出来れば、助けに来てくれるかもしれないという僅かな希望を抱き、口を開く事にした。
「まだ、まだお前らは近衛のアーチャーを虐めてるのか?」
「虐めてるとは、人聞きが悪いな。今までそんなことした事ないぞ?」
素知らぬ顔で返してくるアーロンに、口元が緩み馬鹿にしたような表情のオリバーが、こちらを馬上から見下ろしてくる。その表情にマルセラの怪我と近衛騎士団からの退団を思い出し、僅かとは言い難い苛立ちが募る。
「まぁ、お前らが近衛騎士団から追い出してくれたお陰で、俺は爵位を持たない準騎士のお前らより”先に”騎士爵になることが出来たがな。お前らは随分と少しは”平民”としての自覚を持てよ?」
怒りからか、すらすらと口から出てきた嫌味は、自分が意図した時間稼ぎとは全く逆の効果を生んだ。
長男ではないとは言えど貴族の息子である2人に向かって、成り上がりの平民出身一代貴族が、見下したような言葉をぶつけたのだ。彼らにとってそれは決して看過することのできない言葉のようで、「……殺す」と短くアーロンが呟き、オリバーが先程まで下げていた目尻を釣り上げたことで、彼らの心情の変化と自分の時間稼ぎが失敗したことを察した。
2人が一度に自分に馬首を向けた。オリバーが枝を切り落とすように振り下ろした剣が、一歩下がった自分の目の前を通過していく。それとほぼ同時に下がった地点に、横薙ぎで胴体を剣を切りつけて来たアーロンの剣を受けた事で、体が宙に浮き、態勢を崩してしまう。そこに追撃を掛けるようにオリバーが再度上から剣を振り下ろしてきた。
(あぁ……まずい)
慌てて剣を頭上に掲げて受けた剣は、オリバーの体重も相まって身動きを取ることが出来ないほど重かった。そこに後ろからアーロンが迫る事を、馬の蹄が地面を蹴る音と振動で感じた。
「さぁ、”貴族様”よぉ…死んでもらおうか?」
自分を剣で押さえつけるオリバーの目は見開き、血走っている。オリバーがアーロンに追従する以外の言動を初めて見た気がした。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




