7.剣戟
2人でも苦戦しているカールだ、更に後ろから迫る2人の近衛騎士が追い付いてしまえば、太刀打ちできない事は目に見えている。自分の為に戦おうとしている人間を見捨てて走り抜けようとは思えない。
手綱を引き速度を緩め、振り返りながらカールに迫りくる2人の近衛騎士のひとりに狙いを定めた。だが、その男はこちらが弓を向けていることを確認すると、カールに向かうのではなく、こちらに狙いを定めた様子で、真っ直ぐに突っ込んでくる。
予想外だった。
たった今、目の前で仲間を殺したカールを仕留めに向かうものだと思っていた。彼らが近衛騎士でなければそうだったのかも知れないが、近衛騎士は敵の部隊長が孤立しているのであれば、危機的状況に陥っている味方を置いてでも仕留めに来る。それは近衛騎士団に所属し、彼らを内側から見続けた自分は分かっていた筈だった。彼らは全体の勝利を優先する、非常に良く訓練された騎士なのだ。
「……だぁ!くそ!!」
一度緩めてしまった馬の速度を回復する前に、自分に狙いを定めた2人は確実に追い付いて来るだろう。間に合わない。カールは何とか2人と拮抗した状態を作るのが精一杯で、こちらを援護する余裕はない。自分に残された選択肢は、退きながら戦うのみだった。
乗騎に加速を促しながら、先程一度狙いを定めた男に、再度弓を構えて矢を放つ。
真っ直ぐに進む矢は、姿勢を低く保つ男の額に向かって吸い込まれるように向かって行った。心の中で(中った)と確信した瞬間に、下から振り上げられた剣が、矢を弾き飛ばした。
理解している。彼らは近衛騎士団で、日々修練を積み上げ続け、戦場で戦果を挙げ続けている男達だ。簡単に矢が当たるとも思っていない。
2の矢、3の矢と放っていくが、次々に反応され、弾かれ続ける。徐々に距離が詰まり、反応する時間も短くなっているにも関わらずだ!
彼らを正面から射抜くのは不可能だ。そう判断したからには、次の標的に狙いを定める。ならば、次に標的にするべきは、カールを囲んでいる2人の近衛騎士だ。彼らは味方の動きを見て、もうこちらに意識を向けていない。ならば、射抜くこともできるはずだ。
自分の矢でカールが1対1を出来る状況に持っていくことが出来れば、彼ならば近衛騎士をも簡単に倒せる。あとは自分が2人の近衛騎士に囲まれても、少しの間耐える事でカールが助けに来てくれるだろうという打算であった。
即座に狙いをカールの右にいる男に定めて、その横顔に向かって弓を放つ。
放たれた弓はその近衛騎士の意識外を進み、こめかみへと吸い込まれた。一瞬にして力の抜けた近衛騎士は、その場に体を残すようにして、馬の背中から転げ落ちて行った。これでカールにも少しは余裕が出来るだろう。
その間に自分と迫る二人の近衛騎士の距離は詰まり続けている、あと5駆けもしない内に追いつかれる距離だ。弓を体に通して剣を鞘から素早く抜き取った。
馬の上下する頭の影から半分見える、2人の近衛騎士の眼光に昔の記憶が蘇る。剣術の訓練では、近衛騎士に一度も勝てた事は無い、手も足も出た覚えも無く、弓兵隊長には手加減があったが、下っ端でいじめるには都合のいい自分は、徹底的に甚振られた。
(マジックアローを使うべきだったかもしれない)
自分が生き残るためにはそれが最善だった気がした。
いや、無理だ。
一直線上にカールが居た。もしマジックアローを放てば、カールごと撃ち抜いてしまっただろう。
近衛騎士団に居た頃の記憶と、短い後悔をしている内に、一人目の近衛騎士がこちらに剣を振り上げた。斜め右後ろから振り下ろされた剣を、両手で受け止めて、何とか受け流す。
感心した表情をした近衛騎士の顔に見覚えがあった。
アーロンだった。
アーロンも自分の顔を確認すると、表情から憎しみと怒りに溢れた表情に瞬時に変わった。
「てめぇ!!!」
アーロンの怒声に反応する余裕はない。今度は左から自分の横腹を目掛けて横薙ぎに剣を振るって来た近衛騎士がいる。
彼の剣を体を右に少し倒しながら、剣を馬に突き立てるように縦に構えて剣を受ける。二の腕で剣の腹を支えて、足で馬の腹を締め付けながら、落馬しないように重い剣を受け流した。
そしてもう一人の男はいつもアーロンについて回り、いつもニヤニヤ笑っている金魚の糞。名前は、ローザ家の次男オリバーだ。その彼も自分の正体に気づいたのか、真剣な表情を少し崩して、口元を緩ませた。彼にとって、余裕な相手だという認識になったことはそれで分かる。
実際そうだ。今完全に馬の足が止まり、王国近衛騎士団が最も得意とする馬上の戦闘に、たかだかいちアーチャーが挑もうとしているのだ。自分にできるのは、何とか生き残りながら、カールがいち早く駆けつけてくれることを願うだけだった。
「よぉ、こんなところで何やってんだ?”アーチャー”如きが」
少し間合いを取った所で、この乱戦の最中にアーロンが睨みながらこちらに話しかけて来た。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




