4.緒戦
我々が布陣を終えても北軍の先行偵察部隊は現れなかった
我々も先行偵察を出していない。自分達が待ち構えられるようにかなり早めに陣地を出たのと兵を既に伏せているのが理由だ。北軍がルイジア関の奥に進軍しようとするのであれば必ずこの道を通らなければならず、どうあっても先行部隊がここを偵察することは決まっていた。
馬上で待つこと半刻も無いほどの時間が経った後、ようやく北軍の先行偵察が現れる。
平原の真ん中を貫く道の先に見慣れた近衛騎士団の鎧が現れる。鉄のプレートアーマーに金色の装飾、鉄のヘルムの上にオロール色の羽飾りが風に吹かれて靡いている。寒さの為に口元まで布で覆った彼らの顔は見えない。だが、彼らが北軍にいるアルトゥール第一王子の護衛をしている近衛騎士団であることは間違いないであろう。恐らくは近衛第三騎士団か近衛第四騎士団のどちらか。
彼ら3騎の近衛騎士団は、自分達が既に平原にて布陣を終えているのを確認すると、馬首を返して来た道を戻っていく。大方彼らの予想通りの場所で、予想通りの兵力が居た事が確認できたので仕事は終わりという所か。これが先行偵察同士であれば小競り合いをすることもあるが、今回は兵力に差があり過ぎた。
「……来たな」
さらに半刻が経った頃、先程まで弱まっていた雪が再び勢いを増して視界が悪い中、平原の奥にある丘陵の谷間から次々に騎兵が吐き出されるように出て来た。予想通りの兵力、王国近衛騎士団総勢50名だ。
ゆっくりと肩に付いた雪を手で振り落とした。その手についた水分で指先が冷たくなっていくのを感じて、少し後悔をする。その間にも北軍の近衛騎士団は、次々と谷間から現れて、自分達と同じ手順で布陣を開始していく。
儀礼上相手の布陣を待たなければならない威力偵察というもの、その形式に苛つくのは手の冷たさや寒さのせいだけではないだろう。彼らの動きは整然としていて早く、そして自分の立ち位置を完全に把握した完璧な物であった。
付け焼刃の”偽物”近衛騎士団の我々は、先程まで自分達の完成度に満足していた。だが”本物”の行動を目の当たりにすると、我々の練度不足を実感する。先程までどう”負けよう”か考えていた思考が、どう”生き残るか”に変わった。自分達がここで半壊するのだけは、これからの行動を考えるのであれば避けなければならない。
北軍の近衛騎士団が準備を完全に終えて布陣を終えた頃、弓兵部隊が前面に出て来た。
ついに始まる。
「弓兵隊前進、以後弓兵隊は隊長指示!」
「弓兵隊前進!」
自分の声に反応してフレディが声を張り上げる。
フレディの言葉に反応した弓兵たちが全身を開始すると、その方に積もっていた雪が振り落とされて地面へと落ちていく。その下の白いマントは雪が溶けて、色が少し変わっていた。
徐々に離れていく弓兵たちの姿を見守るのは不安で仕方がない。彼らは上手く出来るのだろうか、彼らは生き残ることが出来るのだろうか、フレディの指示は大丈夫か、フレディは上手く号令できるだろうか。
この不安は自分が近衛騎士団に居た時に指揮していた、50を過ぎた割に声も体も大きい団長も感じていたのだろうか?いや、感じていないだろう。彼にとって騎兵達はかわいい部下であっても、騎士団のアーチャーにおいては嫌い以前に興味がない人間だった。
北軍も我々に少し遅れて弓兵部隊が前進を開始する。
駆け足でも歩調どころか歩幅も乱れているように見えない彼らの中に、自分が居た事が信じられない。
まず最初に足を止めたのは北軍の弓兵部隊だった。
彼らは斉射の構えで、上空に向かってあっという間に弓を放つ。その瞬間に我々の弓兵部隊の上を漂う雪が下へ向かって加速し、叩きつけられ、まるで吹雪の中にいるかと思う程彼らの周囲を白く染めた。
そこで、こちらの風魔導士に指示不足があったことを実感する。雪や砂が舞い上がる地形では、草原で行うように縦に風を吹き下ろしてはいけない。必ず横でなければ今回の様に、お互いの視界を奪う事になるからだ。
東方地域は雪が降らない訳ではないと思うのだが……この基礎知識を知らなったか、失念していたかのどちらかだ。
状況は非常にまずい。
既に白い雪の中にいる彼らの姿を我々は捕らえることが出来ないが、その代わり雪が少なくなった上空に弓がお互いの方向に飛び交い、それが落とされることで撃ち合いが始まったことを理解する。間合いは良く、フレディが斉射の指示を出した場所も間違っていなさそうだ。
だが、撤退することが頭にない様子で、安心は全くできない。この視界不良の中で騎兵に突撃されることになれば、なすすべなく弓兵部隊は刈り取られてしまう。
「王国近衛第二騎士団ー!騎兵隊!突撃隊形!」
彼らを救う方法はひとつしかない……騎兵の突撃だ。
「視界の悪い場所を迂回して叩く!!」
張り上げた声が弓兵部隊に聞こえていればいいのだが……
「粉砕するぞ!突撃!突撃!突撃!」
三号令と共に駆け出すと、自分の後ろに鏃の形に整列した騎士達がしっかりと付いて来ていることが音で分かった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




