1.決戦の策
セルリアン城落城による戦勝の雰囲気は長く続かなかった。
翌日東軍の元へと入った北軍の動向は、変わらず北へと向かってきていること、その進軍速度が予想以上だというものであった。既に南西側の関から15日の地点に到達しているという情報は、我々が非常に困窮した状況にある事を示している。
セルリアン城が落城した日の内にカーマイン辺境伯へと使者を送ったが、その到着は早馬でも3日程かかる。更に軍をまとめて動き出すまでに2日程、そこからセルリアン城にカーマイン辺境伯軍が到着するまでは、最短でも6日以上を要するだろう。
セルリアン城からカーマイン辺境伯領のノルデン城までは、かつて帝国領と接する土地だった名残で道幅が狭く、荒れている所も多々あった。これによって行軍には時間が多くかかる事が予想されるからであった。
つまりカーマイン辺境伯軍が東軍に合流するまでには、10日近くを要するのだ。更にセルリアン城から丸5日を要する南西の関での戦となると、戦闘開始になんとか間に合うかといった所だ。
「という訳だが、これからの我々の動きについて既に策は決めてある」
伝令から北軍の動きについての詳細が入って来た日の夜、セルリアン城にいる諸侯のみを集めて軍議が行われた。東方大公が決めたという策があることに驚く者はいない。それは東方大公に対する東方諸侯の厚い信頼による物であろう。エメリヒ第三王子も既に内容を聞いているのか、特に驚く表情を見せるわけでも無い。いわば、これは軍議というよりも命令の下達と見る方が良いだろう。
「こちらとしては長期戦は歓迎だ。北軍南軍互いに牽制をしていることで東方地域に侵攻する動きもなく、我々が最北地域を落としたことで十分な食料も武器も手に入れた。一方の北軍は後背面に南軍を抱え、北には我々を抱えている事で挟み撃ちとなり、管轄する領地を奪取され諸侯の信望を維持する事が難しくなっている。時間を掛けることで、自然に窮地に追い込まれるのは北軍だ。よって、我々は南西の関の直ぐ北にあるセルリアン城方面とシャルトル城方面に向かう三叉路の中央、小高い丘に野戦築城を行い長期戦に持ち込む。その場所であれば彼ら北軍は、攻略するか迂回するかを強いられるだろう。これにはどちらも多大な時間が掛る」
東軍は北軍と比べ半数を少し上回る程度の兵力と言えど、広大な丘の上に陣地を築き待ち構える我々を攻略するのは簡単ではない。包囲するには兵力が足りず各個撃破されてしまう。つまり正面から損失無視の突撃か、迂回して我々の背面にある城を攻略し続けるしかない。
「ローシェンナ地峡の軍を抑えるために多少の兵力は残す必要があるが、長期戦に持ち込むことで、カーマイン辺境伯軍などの後続の軍と合流が可能になる。ほぼ我々の戦力に変わりは無い」
東方大公が考えるのは長期戦に持ち込み、北軍の瓦解もしくは南軍との挟撃を狙うということだ。これは戦略の素人である自分が聞いても理解できる程、分かりやすく強い策だった。
だが、勝手に納得した表情を見せる諸侯を、東方大公は一度見渡すとニヤリと笑った。
「と……北軍、北方大公とアルトゥール第一王子は思うであろう。これが一番定石通りで、堅実で確実だ……なので我々はこれを避ける」
「えっ?」
驚きで声を出す者もいる中で東方大公は続ける。
「我々は必ず北方大公に対して先手を取り続けなければならない……彼は自らが先手を取れる戦場はめっぽう強い、野戦築城して籠城してしまえば北方大公に先手を取らせることになる。これを避けるために我々東軍は更に”前へ”向かう」
「前とは?」
「関の南側にある丘陵に兵を伏せ、倍の兵力に対して奇襲を仕掛け野戦に持ち込む。数で劣り時間に余裕のある我々が、短期決戦を望み野戦に持ち込むのはおおよそ避けるべき事だ。つまり先手を取れる」
少しの間の沈黙で諸侯が悩んでいるのが分かる。かと言って余程不可能でなければ彼らが、東方大公が決めた策に対して否定することはなく、そのまま話は進み続ける。
「我々が兵を伏せる地点は南西の関の南2刻の位置、ここらの丘陵地帯で唯一三角形の平原がある。この両端はに我々は全ての兵を隠す。到着するカーマイン辺境伯軍は関を守るという形だ」
「全ての兵というのは?」
「ローシェンナ地峡を抑えている部隊も全て招集した全軍4000だ」
「ビスコット侯に動きは無いでしょうか?」
「その為の短期決戦だ。あとは近衛騎士団にいつも通りの威力偵察をして”負けて”もらう……それで関に籠る兵力を見せる事で我々の意図を誤解させたい。上手く負けて、撤退してくれよ」
言い切った東方大公に対してこれ以上の質問や意見は飛んでこなかった。諸侯も覚悟を決めたような表情をしている。
この軍議に参加するボウデン騎士爵と自分にも威力偵察についての指示と共に、絶対的な自信が籠った視線を貰い、深く頷くことしかできなかった。東方大公の自信のある表情を見ていると、正解を引いているような心持ちになるのだから不思議なものだった。
詳細な所まで決めるために、この日の軍議は夜更けまで続いた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




