12.落城
「セルリアン子爵は館の中か?」
最後にゆっくりと入城したエメリヒ第三王子が、城壁の上に掲揚され揺れる王国旗を背に馬上から自分へと問いかける。
「はい。30程の兵士と共に最後の抵抗を……彼の一族もそこに」
「そうか、投降は?」
「する様子は無く……多くを道連れにしてみせると」
「……分かった」
口元を歪めたエメリヒ第三王子の心を推し量るに、引っ掛かりを覚えているのはセルリアン子爵の家族の事であろうことは想像に難くない。だがエメリヒ第三王子は、一度決めた道を変えるつもりも無いようだった。
「東方騎士団で館を落とすことは出来るな?東方大公」
「問題ないかと」
「やってくれ……一人残らずこの広場へ」
「承知いたしました」
セルリアン子爵一族の死体を持ってこいと言わないのは、エメリヒ第三王子の覚悟の無さか、良心か望みかは分からない。
その心を察する事の出来ているであろう東方大公は、あえて東方騎士団に全員を殺してここに持ってこいと明確に指示した。エメリヒ第三王子に見本を示すかの如く指示する東方大公に、エメリヒ第三王子は一切視線を向ける事は無い。
既に夕日が城門を内側から照らし、高い城壁の下の影が伸びた頃、セルリアン城の広場には処刑されたセルリアン子爵一族の遺体が並んだ。悲劇的な最期の表情をする彼らに対して同情的な反応をする者は、東軍の兵士が占拠するセルリアン城にはいなかった。
城内は既に戦争を終えたかのように戦勝の雰囲気で、浮かれた調子であった。大人数の被害が出ると予想されていたこのセルリアン城攻めにおいて、両手で収まる程度の死者と両手両足の指で足りる程度の重傷者で済んだのは奇跡というしかなかった。
その中心で褒めたたえられるべき立場にある自分は、今もエメリヒ第三王子に付いて護衛を行っている。今はこれがありがたい。
エメリヒ第三王子の護衛を始めるまでは、出会う人全てと言っても良いほど攻城戦で正門を破った方法や、マジックアローについて質問攻めにされるのだ。これは諸侯も例外ではないく、指揮官級であっても顔を合わせると必ず聞かれた。だが、エメリヒ第三王子に秘密にしておこうと言われた以上、一度皆の前で使ったからと言っておいそれとマジックアローの存在を教える訳にもいかず、自分より爵位が上の者の諸侯にも「エメリヒ王からの許可が無ければ…」と、のらりくらりと躱していた。
結局その質問攻めから逃れる方法は、城内の巡回を終えて戻って来るエメリヒ第三王子の護衛に戻るしかなかった。本来、今日の護衛を担当する筈であったボウデン騎士爵に、半ば無理を言って後退してもらった形だ。結果として近衛第一騎士団の指示も今日のみであるが担当することとなった。
「見事であった、リデル団長よ」
「はっ」
持ち主が変わった城主の部屋の中に諸侯が揃って座っていた。北方の貴族らしく執務室と大ホールも兼ねているその部屋の中央に鎮座する、柔らかい毛皮が掛けられた城主の席にエメリヒ第三王子は座り、横に立つ自分にわざわざ目を向けた。
「君のお陰で我々の損害はほぼ無いと言って良い」
「ありがとうございます」
自分とエメリヒ第三王子のやりとりを待ちに待ったかのように、東方大公を始めとした諸侯が次々に自分とエメリヒ第三王子に、質問を浴びせる準備をしているのが彼らの落ち着きのなさから分かる。
「陛下……質問してもよろしいですか?」
口火を切るのは東方大公だった。
「リデル近衛第二騎士団長の、あの……弓?は何でしょうか?私はあのような攻城戦を見た事がありません」
「そうだな、私の口からよりリデル団長からの方が良いだろう。彼らに説明してくれ」
「はい……あれは、マジックアローというものでして、魔石とカーマイン辺境伯で採れた増幅石というものを組み合わせて作られた矢です。製作者はルーシー・マクナイト男爵令嬢です。このマジックアローを使うと7覚醒であろうと15覚醒であろうと、風魔導士であればあの威力の弓が撃てるのです」
ルーシーはすごいんだぞ!と自慢したくなる気持ちを抑えて、落ち着きながら語った言葉に諸侯は目を輝かせながら聞き入っている。
「ほうほう!!ぜひうちの魔導士にも持たせてみたいのだが……弓を射る事のできる魔導士はいないな……」
「それならば私の所に弓を使える者が居ますぞ!!」
「ではその者にも使ってもらいましょう!!」
東方大公を始めとする貴族たちが発するこの言葉に、自分は少し焦りを感じた。
「申し訳ありません……皆様の兵士に配れると良いのですが、今手元にあるのが8本のみでして、これを使うのには修練が必要なので、お渡しすることは……」
8本しかないマジックアローを手放すわけにいかないという本心と、自分が必要とされなくなってしまうのではないかという不安が修練が必要だという嘘を口に出させてしまう。
「成程、でしたらリデル団長が持っているのが一番よろしいか」
「そうですな」
自分の言葉を丸々信じて納得した諸侯に少し申し訳ない気持ちが沸いた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




