9.伝令
「相手は間違いなく魔導士が一緒に籠っています」
ヘルムを脱ぎ小脇に抱えながら本陣の天幕に入り、少し荒れた息も整えず報告を行った。その報告にエメリヒ第三王子と東方大公はゆっくりと何回か頷く。つづいてエメリヒ第三王子から質問が飛んだ。
「リデル団長はセルリアン城をどう感じた?」
「城壁は高く、堀も予想より深く広く感じました。弓を射かけるのは近くなければ困難です。風魔導士が居ない時間帯でも、厳しいものになるでしょう」
「やはりな……流石は北方の最後の要害といった所か」
橋は既に落とされていて堀に近づき埋めるだけでもかなりの被害が出るだろうし、その上行軍速度を優先して職人を連れて来ていない我々は、攻城兵器も十分に用意できていない。攻城戦はかなり困難を極めることが予想される。
悩ましいと言った表情を見せるエメリヒ第三王子の顔を見るに、今まで通り力攻めとはいかないのだろう。我々には兵力の余裕がなく、出来るだけ温存したまま北軍南軍と相対したいのだ。
「では、リデル団長がも……」
「伝令!入ります!!」
有効な手段を見つけ出そうと軍議が再開されようとしたところに、唐突に天幕前を警備する近衛兵が我々に声をかけた。それと同時に顔を紅潮させ、息を上げた泥だらけの兵士が滑り込むように天幕の中に入って来る。
「如何した?」
「ハァ……ハァ、北軍が陣を解き北上を開始しました!!」
エメリヒ第三王子と諸侯に動揺が走った。その動揺を必死に隠しながら、エメリヒ第三王子は伝令に声をかける。
「……それは、いつの話だ?」
「今から13日前の事にございます!!」
「確かなんだな?」
「はい、間違いなく!この目で!」
「分かった……伝令ご苦労である!他に何もなければ下がってよいぞ」
報告に接したエメリヒ第三王子は、ゆっくりと自分の髭を触り天を仰いだ。だが、その横に座る東方大公は最初から動揺を見せずにいる。
「予想よりも遅いな、北方大公も衰えたか?」
余裕の表情を見せる東方大公は、この事態を予想していたようだった。寧ろ遅いとまで思っているみたいだが、我々の状況に不安が無いのだろうかとも思う。
せめてセルリアン城が落ちた後であれば、後背面の心配が少し減るというものなのだが、東方大公はそれを気にする素振りも見せない。もう一方のビスコット侯はもとよりローシェンナ地峡一帯にて籠り、そう簡単には落とすことの出来ないという前提がある。
「東方大公よ、セルリアン城攻略の策が何かあるのか?」
「いえ、ありませんな。正面から当たるしかないでしょう……この兵力差であれば犠牲は多くなると言えども、必ず落ちます」
「それは、そうだが……」
「ここから、北軍の布陣していた場所までは普通の行軍で向かえば40日、ですが北方大公にとっては勝手知ったる土地で、何より自らの管轄する領地です。おそらく32~3日程で到達できるでしょう。もしかしたら、30日を切るかもしれません。我々にはあと15日程度の時間があります。内5日を行軍と布陣に当てるとして10日は攻城戦に使えます」
「犠牲が多くなりすぎては……」
「それは直ぐにカーマイン辺境伯に援軍の要請を致しましょう」
「ふむ……そうだな」
東方大公は多少の犠牲も覚悟で、アルトゥール第一王子と北方大公が率いる北軍との決戦に攻城戦の決着をつけようとしているのだ。確かに4倍以上の兵力差がある攻城戦は、無理に力攻めしても何とかなるだろう。だが、それは自分達の後々に響いてしまう。
「エメリヒ王、お耳を」
「ん、なんだ?リデル団長?」
そっとエメリヒ第三王子の横に立つ。
「……私の弓を使いましょう」
「ウミヘビに使ったアレか」
「はい…幸運なことに正門は木製です。内に落とし格子はあるかもしれませんが、木製の正門は間違いなく破壊出来ます」
「ふむ……皆に知れ渡る事になるな」
「この後に迫る北軍との戦いに負けたら隠していても意味がないですので」
「……よし、使おう!落とし格子も木製であれば良いのだが……」
「色彩の神々に祈りましょう」
話を終えて自分がエメリヒ第三王子の側を離れると同時に、彼は皆の方に向き直り少しの間無言となった。そして十分に注目が集まった所で口を開く。
「正面城門はこのリデル近衛第二騎士団長が突破する」
「は?」
「とはいえ、内側に鉄の落とし格子があった場合は難しい。取り敢えず正面城門前の堀を埋めるぞ」
「ま、待ってください!」「どういうことですか!?」
諸侯が口々に止めに入り、それは東方大公も例外ではなかった。
「彼の矢が正門を破壊する」
「え?矢で正門を破壊ですか!?」
「リデル団長には凄まじい威力の矢があるのだ」
「いくら威力があろうと分厚い木製の門は破壊できませんよ!?破城鎚でもないと!」
「それが出来るのだ……うーむ、これは説明するより見て貰った方が早いな」
「待ってください!」
「ここは私を信用して、正門前の堀を埋め立ててくれないか」
「ですが……!」
「これは王命だ」
「……分かりました」
全く納得いっていない様子の諸侯を無理やり王としての言葉で説得した形だ。当然この場でマジックアローの威力を知っているのはエメリヒ第三王子のみなので、この反発はやむを得ないものだった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




