8.威力偵察
「これは……時間が掛りますな」
エメリヒ第三王子に向かって深刻な顔をしているのは東方大公だ。いま我々が居る天幕の中にある机を囲むのは、1300の軍の指揮官の貴族達。その中心には偵察などの情報と周囲の領民からの聞き込みによって急いで用意された、簡単な城の構造図がある。
その構造は大きくそして堅く、唯一の弱点を挙げるのであれば中にいる兵士の数程度のものだった。だがそれも弱点にならなさそうと思わせる城壁の高さと尖塔の数だ。兵糧攻めするにも、近々で収穫を終えたばかりで潤沢な食料が城内に溜め込まれているのは分かり切ったことで、時間との勝負の我々にとって取ることのできない選択肢であった。
「少しつついてみましょう」
「ふむ……魔導士が一緒に籠っているかだけでも、知りたいところだな。リデル団長、近衛に頼めるか?」
「お任せを、直ぐに出ます」
エメリヒ第三王子は自分に任務を振って来た。自由に動かすことのできる機動性のある部隊で、魔導士付きは近衛が最も適任だ。それにこれは威力偵察の延長線上にあるようなもので、実践で試すには城に籠った相手は丁度いいだろう。
諸侯の話し合いが続く中、天幕を出た自分は近衛騎士団の天幕から第二騎士団を招集した。そして今回最も重視することを伝える。
「弓兵の中で騎射が出来ない者はいるか?」
問いかけにいくつかの手が挙がった。近衛でないので期待していなかったが、その数は弓兵の3分の1に及び、これでは人が足りない。騎射が出来ないもの以外に集合を伝えると、もう一度エメリヒ第三王子が居た本陣の天幕へと戻る。
余りの戻りの速さに驚いたような諸侯に軽く礼をすると、引き続き護衛を行っていたボウデン騎士爵の元へと向かう。
「ボウデン団長、近衛の中から騎射が出来る騎兵を貸して頂きたい」
「……なるほど、分かった。連れて行ってもらっていい」
流石の理解の速さでこちらの意図するところを察したボウデン騎士爵に許可を貰い、近衛第一騎士団の天幕から騎射が出来る者達を出来る限り招集した。これは、弓兵に限らず騎兵にも範囲を拡大して募ったためそれなりの人数が集まった。
「よし、それじゃあみんな聞いてくれ!騎士団のアーチャー以外に騎射が出来る者は?」
本陣出口近くで集結した近衛第一・第二騎士団混成部隊に問いかけると更にいくつか手が挙がった。その者達に弓と矢を与え、結果として騎射が出来る者は30名と十分な数を確保、それに護衛の騎兵30と魔導士を加えた61名で威力偵察をする形となった。その全員が勿論、近衛騎士団らしく全員が馬に跨る。
「さぁ!我ら近衛騎士団としての初めての威力偵察だ!!近衛の花たるこの任務、失敗は許されんぞ!!」
「「「おう!!」」」
「近衛騎士団…”前進、前進、前進”!!!」
近衛騎士団伝統の”三号令”を自らが発する日が来るとは思わなかった。この号令を最後聞いたのは1年以上前、自分が近衛騎士団を追放される前の最後の戦いだった。その時の立場、その後の道のりを考えると我ながら幸運だったとしか言えない。
今は自分の人生を振り返っているような時間ではないと、無駄な思考を振り払うために頭を少し振り周りを見渡す。
見栄えの問題で自分を含めたカーマイン辺境伯領から来た人間も東方騎士団の鎧で統一された近衛騎士団は、光り輝く銀色のチェストプレートが眩しい。既に見栄えだけで言えば、十分近衛騎士団を名乗れる物である。
前進を開始した常歩の馬が徐々に速歩へと切り替わるのに合わせて、自分のヘルムを被った。聞こえるのは馬の荒い息と、それぞれのアーマーがこすれる音、そして隣に並ぶフレディとカンブリーの息遣い。
だがその音も、駈歩へと切り替わる馬の歩様に合わせて、徐々に風を切る音にかき消され始める。駈歩へと近衛騎士団が完全に移った所で周囲を囲んでいた天幕が途切れ、広い畑とその先にまだ小さく見えるセルリアン城を捉えた。
畑の道を外れ徐々にセルリアン城に近づくつれ馬の速度を上げ、遅めの襲歩へと切り替わる。今回は騎射に慣れていない者もいるので襲歩での射撃は行わない。それにこちらには魔導士もいるので、ひとまずの所敵の矢が命中する危険性は考えなくて良いだろう。
目前に迫る城壁は高い。だが我々は近衛騎士団だ、臆する訳にはいかない。
「左せんかぁーい!」
陣形を変え自分とアーチャーを先頭とした騎士団は、左に回り城壁を右に見ながら進む。
「右せんかぁーーい!!弓を構え!!」
180度向きを変え城壁を左に見ながら、城壁を矢が超すギリギリを狙って並走する。
「うてぇ!!!」
近衛騎士団から放たれた30本の矢は城壁に半数が弾かれ、残りの半数が向う側へと消えて行く。アーチャー以外も居る以上仕方のない事であるが、何とも情けない状態だ。
自陣側の城壁に沿って矢を撃ち込み続けて、距離を取りもう一度同じ経路で放った所で、相手からの矢のお返しを受け、こちらの矢は空中で何かに当たったかのように降下し始める。これで我々の偵察は終了だ。
相手は魔導士が居る。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




