5.シャルトル城攻略
我々がシャルトル城に到着したのは、2日後の夕方であった。通常の進軍速度で向かうと4日使う距離だが、東方騎士団と近衛騎士団常備軍の編成である我々は、騎乗兵の比率も高く、かなり早い速度を維持することが出来た。
シャルトル城に到着してから最初に行われたのは、陣地の設営でも攻城戦の準備でもなく、シャルトル城に対する降伏勧告だ。
だが、流石は郡令伯爵の城である。我々からの降伏勧告は無視され、むしろ正当な王位継承権を持つアルトゥール第一王子と北方大公に剣を抜く反逆の徒と、低い城壁の上から罵りを受ける。
「戻りました!!」
降伏勧告を行うために馬に乗ってシャルトル城を一周した東方騎士団の兵士が、東方大公の下に帰って来ていた。彼は持っていた東方大公の旗を器用にそして丁寧に馬上で畳み、下馬すると報告を続ける。
「籠城している者が予想以上に多いです。おおよそ見た限り各方面の城壁に30以上は」
「では150程度の兵士が籠っていると見るのが良いか……」
「恐らく……年寄りと少年もいたので無理矢理徴兵したのでしょう」
周囲の住宅は固く扉を閉ざしているかもぬけの殻であったことから、どれだけの住民が城内にいるかも把握できない。稀に城内に保護して欲しくば、子供であろうと老人であろうと兵役をせよと対価を要求する城主もいる事から、城壁の上に見えた兵士はその類であろう。
「偵察の情報と随分違うな」
顎に手をやり考え込む表情のエメリヒ第三王子を見て、東方大公が口を開く。
「我々の進軍速度は異常でした……彼らに我々の存在が露見したのもここ数日でしょう。事前偵察の情報は古いですから致し方ないです。見て下さいあの低い城壁と疎らな尖塔を……我々が恐れる必要はありません」
「そうだな」
「……如何されましたか?」
エメリヒ第三王子は、まだ浮かない表情を浮かべている。
「違う……違うのだよ。私は今から守るべき国民と戦おうとしているのだと、急に実感が湧いてしまってな」
「はい、”エメリヒ王”左様にございます。心苦しい事は私にも理解出来ますが、覚悟を決めなければなりません。我々は最小の犠牲と最短の時間で、この国の分裂を収めるべきなのです」
「国民の為という事か」
「それとも、今からでも我々が剣を収めますか?」
余りに失礼とも取れる東方大公の物言いに、エメリヒ第三王子はゆっくりと東方大公の顔を見るとかぶりを振った。エメリヒ第三王子がどこか恨めしいといった表情をしたのは、彼から始めようとする行動の結果であることを更に自覚させた東方大公への逆恨みとも取れる。
「ない……ないな。私は進むのみだ」
「では、攻城戦を始めます」
「あぁ、かかれ」
エメリヒ第三王子の言葉を待っていたかのように、我々は宿営の準備もせずに攻城戦の準備を始めた。
とはいえ攻城塔や破城鎚を作り始めるような本格的な攻城戦ではない。我々が用意するのは、本陣のみを守る事の出来る簡単な柵で囲んだ陣地と、周囲の木を伐り出して作った何本もの梯子だ。
その梯子や陣地を作っている間に弓兵は少しの護衛と共に前進し、城壁の上に並ぶ兵士を射かける。勿論近衛騎士団からもフレディを隊長とした弓兵部隊を派遣した。
共に弓を撃ちあう様子を見ていると、如何にこの攻城戦が簡単かが分かってしまう。相手に魔導士はおらず、こちらの矢が一方的に降り注ぐのに対して、相手の矢はこちらの風魔導士によって叩き落され届くことが無い。
それでも必死に応戦する城壁の上の兵士達は、所々崩れた胸壁の隙間から入って来る矢に撃ち抜かれる。城壁が低くこちらの矢は彼らの頭上に簡単に届く上に、シャルトル城の城壁の上からは投石機もバリスタも飛来しなかった。正確には設置されているが機能していない所を見るに、平和が続いたことによる整備不足か、扱える者がいないか、弾の不足だろう。
この調子であれば歩兵たちが取り付く段階になっても、城壁の上に兵士が立つことはままならず、胸壁の隙間から顔を覗かせると撃ち抜かれるという事が簡単に想像できた。
シャルトル城攻城戦は陽が落ちることで1日目を終える。
圧倒的な兵力差に相手の防御力不足をみるに被害が増える夜襲をする必要が無かったのだ。
2日目。
数的不利にあるはずのシャルトル城側からの夜襲は無かった。我々の脆弱とも言える陣地に、彼らが夜襲を掛けられるほどの戦力が居ない証拠であろう。
早朝から始まった攻城戦は一方的な展開であった。無数にかかる梯子に対して十分な守備兵力が足りず、阻止されることなく我々東軍は城壁を満たし始める。わずかに抵抗の意思を見せる兵士が胸壁から顔を出すと、弓兵に撃ち抜かれて斃れてしまう。まさに攻城戦とも言えない圧倒的な蹂躙であった。
城壁の上に立つ兵士が一掃され開門されると、館の包囲を待たずにシャルトル城代であるシャルトル伯爵家家令が降伏を申し入れて来た。
彼の決断が1日早ければ、城壁の上に転がる15にもいかぬ少年たちも、60を超えるように見える老人たちも死なずに済んだに違いない。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




