3.冬の足音
小休止の翌日から我々は更に北へと進み続けている。
北へ向かう日々を重ねるごとに朝に感じる寒さが、徐々に迫る冬の季節を知らせていた。
王国の冬は厳しい、特に北方であれば猶更である。
雪は深く積もり、春まで閉ざされる村が出ることも珍しくない地域だ。とはいえ、雪が降り積もり始めるのは年が明けてからでありまだ先であることも間違いない。
我々が行うべきは冬が完全に北方を閉ざすまでの90日近くで北方地域を掌握する事。もし、北方大公がこちらに向かってくるようであれば、それを打ち負かす事。我々は敵軍と共に時間とも戦わなければいけない状況である。
「ついに……か」
我々は今、シャルトル伯領の南端に立っていた。先陣を切ったガランス子爵突破した関は門が破れ、幾つかの死体が転がっていた。彼らも同じ王国の民であるがゆえに残念でならないが、何故寡兵で抵抗したのかと言わざるを得ない。たった数十人の兵士で千を超える部隊を止める事など出来る訳ないではないか。
そうしてかつての同じオロール国民の屍を乗り越えて、東方大公の領地を出発して30日目の夕暮れに、我々はシャルトル伯領へと足を踏み入れた。
「明日からの話をしよう」
いつも通りの天幕の中に、既に慣れたいつも通りの諸侯が並ぶ。それを見渡して最初に声を発したのは東方大公であった。東方大公が見渡した諸侯の表情は、ここまで兵士を欠けることなく到達できた達成感と、これから起こる事に対する不安が両立した複雑な表情だった。
「攻略目標はケビ・シャルトル郡令伯爵が管轄してた領地全てだ。4つの貴族領に属する5つの城塞、3つの砦に3つの関所。これらに11か所同時に攻撃を仕掛ける。これまでの斥候の情報を、ガランス子爵…頼む」
「はい!5つの城塞に駐屯するのは最大100程度の兵士です。うち2つある男爵領の城は50程度だと判明しています。続いて3つの砦ですが、全て50~60程度の兵力。3つの関所は……とはいえ先程突破したので2つですが、20名程度の守備兵力となります」
「総兵力は600に届かないくらいで、しかもそれは分割されたままだ。各自の動きを決めるぞ、まずガランス子爵は……」
いとも容易く聞こえる数字だ。どれだけ堅牢な城塞であろうと、10倍の兵力を抑えるのは至難の業である。自分がカーマイン辺境伯領で経験した籠城、防衛戦も一方向から押し寄せる4倍の兵力だったが、凄まじい犠牲と苦戦を強いられた。
そのことを考えると、本当に5日でケビ・シャルトル伯が管轄する全土を掌握可能かもしれないと思う。それは諸侯も同じようで、先程から見せていた不安な顔も少し和らいでいた。
「シャルトル伯領地については以上だ」
東方大公の言葉に反応するように、数人の子爵や男爵が手を挙げた。
「どうした?」
「何故、我々は他の方々と一緒なのでしょうか?」
彼らはパーシアン侯爵とマロカン侯爵と共に行動する者達だ。それぞれ700以上の兵となるように調整されているのだが、彼らにとっては一人一人の諸侯が一つの城や砦を攻略して、功績を上げようとしているのに不公平だと言いたいのだろう。だが、それを察することのできない東方大公とエメリヒ第三王子ではない。
「それはローシェンナ地峡一体の郡令侯爵であるビスコット侯と、カーマイン辺境伯との間にセルリアン子爵が居る為だ。ビスコット侯は侯爵その人が残り500の兵を持ったままモーラ辺境伯の抑えと地峡の警備を行っている。セルリアン子爵も同様に300の兵を持ったまま領地に残っているのだ。それに対する備えを我々は行わなければならない」
「……なるほど」
「大丈夫だ……君達にも必ず必ず活躍の機会は来る。それに我の味方としてこの軍に参加しているだけでも大功としても良いくらいなのだ」
東方大公の説明とエメリヒ第三王子の取りなす言葉によって、少しその場の空気が落ち着いた。
それにしても聞き覚えのある二つの名前と接することが出来るのは嬉しい。最後にカーマイン辺境伯に連絡を行ったのは、モーラ辺境伯領を出発する時であったが、カーマイン辺境伯領も無事である事は故郷が無事であったような気持になる。それにルーシーとも再会できる機会があるかもしれないと淡い期待を抱かずにはいられなかった。
我々東軍の立場で見ると二人の辺境伯と協力体制を作る事が可能になれば、我々は東方地域と王国の最北地域を手に入れることが出来るのだ。この二つの点を結ぶ形で北方大公の領地を切り取ることが出来れば、我々にとって大きな前進となる。
「では、次に諸君に会うのはケビ・シャルトル郡令伯爵領を全て掌握した後、シャルトル城でだな。ここに居る者が誰も欠ける事無く再会できることを祈る」
軍議をしていた天幕から出て行く諸侯一人一人に、エメリヒ第三王子は声をかけていた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




