12.初動
我々がペルシア城前に陣を張り軍団の集結を始めてから18日後、当初の予定よりも早く、そして多くの兵が揃っていた。エメリヒ第三王子を王とする為に集結した貴族の数は大小合わせ23、軍の総勢は3800を超えている。
「集まったな」
集まった貴族全員で軍議を行うため更に広くした天幕の中に、軍装を身に着けた貴族たちが隣と肩をぶつけそうな距離で並んでいた。それを取り仕切るのは、最奥中央に座すエメリヒ第三王子の右を陣取る東方大公だ。
近衛騎士団の団長である自分とボウデン第一団長はエメリヒ第三王子の後方1歩の位置に立ち、出入口は今日の担当である第二近衛騎士団の内をエドガーとカール、外をサルキとトルガーの二人が固める。獣人のサルキが出入口を警護している事に驚いた貴族も少なくないようだが、表立って何かを言われた様子はない。
「では……始めさせていただきます」
立ち上がり静かに深く息を吸い込んだ東方大公が、朗々とした声で隣に座るエメリヒ第三王子の肩書を喋りはじめた。
「こちらにおわすは、色彩の玉座の正当なる後継者にして、オロール王国の王。オレンジの独立君主にして首位の公爵。カピュシーヌ、アプリコット、マンダリン公爵。オロール侯にしてペーシュ侯、アブリコ伯であり……」
長々とオロール国王に付随する領地とその爵位、称号が読み上げられる。その長さたるや到底覚えきれるようなものではないが、これは正式な軍議を始める際に必ず行われる貴族の礼儀だ。
「……オロール王国の正当なる王である”我らが王”からお言葉を頂きたく」
静かに立ち上がるエメリヒ第三王子に合わせ、全諸侯が一斉に立ち上がり膝を付く正式な礼を行った。
「皆の者、楽にしてくれ……まず最初に、私のもとに集まってくれたことに礼を言いたい。ありがとう」
立ち上がり、席についた諸侯の一人一人の顔を見ながらエメリヒ第三王子は、落ち着いた口調で話し始める。諸侯はこれから従う事になるエメリヒ第三王子を、静かに見つめ返していた。
「私はオロール王国の王と成る為にここに立っている。諸君にあっては……」
この場に集結した諸侯への決意表明が始まり、その長さは今までのエメリヒ第三王子から考えられないほど長く丁寧であった。諸侯はそれを身じろぎせず、衣擦れの音さえ一つも聞こえないほどの静けさの中聞き入った。
一方の自分と言えばエメリヒ第三王子の演説はそっちのけで、周りの諸侯の表情を確認している。この中で裏切りそうな者や、乗り気でない表情をした者を探しているのだ。これは自主的にではなく、東方大公とエメリヒ第三王子からボウデン団長と共に依頼されている事であった。
だが今見たところ、良く分からないというのが回答だ。強いて言うなれば、東方大公とエメリヒ第三王子を見つめる表情に違いがあるという事ぐらいか。ここに居る諸侯は東方大公を信頼し、敬愛しているから集まっているという側面が大きそうな気がした。
「……では挨拶はこれくらいにして、これからの話をしよう」
いつの間にか終わった演説の後、東方大公へと視線を向けたエメリヒ第三王子に応えて、東方大公が立ち上がる。それを合図に中央に置かれている大机の上に、自分とボウデン団長でオロール王国の地図を広げた。
「まず、我々は北へと向かう」
東方大公は半分のワイングラスの形をしたオロール王国のグラス底をなぞるように杖で指した。
「では、我らの最初の標的は北軍という事でしょうか?」
最初に声を上げたのは、諸侯の中でも席次的に高位にいる人物だ。その声に東方大公は首を振る。
「我々の標的はここ。ケビ・シャルトル伯爵領だ」
少しの間、諸侯たちに不安を隠さないざわめきが広がる。それも当然でシャルトル伯爵の領地は王国の最北に位置し、敵地の最も奥となる場所にある。後方の連絡線を断たれれば、東方大公の領地に帰還することは叶わなくなり、本拠地の防御が手薄になる。
「強行軍だ。30日で到着し、5日の内にシャルトル伯領を掌握する」
「……不可能ではないですか?」
「不可能ではない……ここの兵力の大半は北方大公に徴兵され、残りは各城に50ずつ程度だ。それに実はシャルトル伯は既に死亡している。討ち取ったのは近衛第二騎士団団長のリデルだ」
東方大公と目が合うと同時に、全諸侯が一様に驚きを隠さずにこちらを見て来た。先程真っ先に声を上げた高位の人物なんか、口が半開きになっていた。突然出て来た自分の名前に、同じような驚きの表情をしてしまった気がする。
「……真ですか?」
「本当だ。現に情報によると両辺境伯領と接する領地は備えの兵力は残しているようだが、シャルトル伯が管轄している郡には既に有力な貴族も指揮官も、兵力も残っていない。シャルトル伯の郡を急襲、ローシェンナ回廊を分断し降伏を迫り、その間にカーマイン辺境伯との連絡を回復して、我々の兵力の増強を図る。以上が初動の動きだ」
「我々の領土の防衛はどうなりますか?」
「この東の土地に北軍が来る可能性は少ない。現在北軍は王都の北、10日の位置に布陣し7日の場所にいる南軍を睨み合っている状況だ。こちらに兵を向けると背中を討たれるから身動きは出来ん。仮に動いてきた場合は、現存の兵力で出来る限り籠城を行い、時間を稼ぐ事になる」
納得できていない表情の者もいるが、表立って東方大公の話した策に反対する者はいない。それは東方大公が、この王国の東で幾度となく寡兵を以ってメイズ大公国の軍を退けた実績があるからだ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




