10.ペルシア城前
8日後、我々は東方大公の文官側であるパーシアン侯爵の領地にいた。
目の前にはそのパーシアン侯爵の本拠地であるペルシア城が見える。パーシアン侯爵は東方大公の配下の貴族の中で最も西側に位置する郡令侯爵で、現在目の前に見えるペルシア城は、東方大公の統治する土地の境目から、10日の距離にある。
王国の中心に近いこの場所は、防衛重視の形態をとる東方の城の中では城壁も低く、尖塔の数も比較的少ない城であった。城下の街は規模が小さく、穀物庫の方が目立つ印象を受ける。
これは、パーシアン侯爵領を境目として丘陵地帯から平野となる事で、更に耕作面積が増えているのが原因だ。パーシアン侯爵領を東端とする王国中央部を横切るように存在する中央平原は、王国の食糧庫と言われるほど広大なのだ。
「収穫はかなり進んでいる様子だな」
「綺麗なものですね」
エメリヒ第三王子が野営地に到着して最初に発した言葉は、風景についてだった。
実りの金色に輝く畑と、土の色が所々露出した畑が混在し、他の作物を作っていたと思われる場所は既に耕され、冬を越す準備を始めている所まである。季節は既に秋の中ごろを過ぎ、晩秋に入ろうとしていることが風景から見て取れた。
「この様子であれば、更に動員をかけることが出来るでしょう……我々も他の勢力も……」
現在は王子の供回りのような役目も兼ねている我々近衛騎士がエメリヒ第三王子の下馬を手伝っていると、隣に並び下馬を始めた東方大公も返事をした。
「兵站を担当する者としては楽ですがね」
東方大公の隣に並んだのはペルシア城主であり、兵站などの後方を担当するパーシアン侯爵だ。赤茶けた髪の毛が特徴で、いかにも文官風の体格と常に少し困った風の表情を持った30後半の男であるが、口調は砕けていて屈託がない。
「誰もお前の楽さは求めてないぞ」
その更に隣、一番奥で下馬したのは軍の前線指揮官となるマロカン侯爵。普段は東方大公の南方をまとめる郡令侯爵であり、優秀な前線指揮官らしい。黒い髪に茶色い瞳を持ち、細い眉から右の頬を通り首に至る傷跡が歴戦を伺わせる40くらいの男だ。身長は大きくなく体格も良くないが、彼の茶色い瞳には闘志が常に見える。
どうも東方大公の配下にいる貴族たちは、他の領地と比べて横の繋がりが非常に強いらしく、常に冗談を言い合ったりしているのをこの旅の途中によく見かけた。この仲の良さは権謀術策を駆使する貴族というものに似つかわしくなく、常にメイズ大公国などの外敵との戦いを強いられるものによる団結なのだろうかと思う。
その夜、軍議の場として設営された飾り気のない、机と椅子のみが置かれた天幕の中に主要な者達が集合した。
エメリヒ第三王子に東方大公、前線指揮官であるマロカン侯爵に後方担当のパーシアン侯爵、近衛騎士団長二人に、東方騎士団長と二人の侯爵の騎士団長。
通例であれば騎士団長はそれぞれのお付きの後ろに立つことになるが、今回の軍議では参加する者が少なく空席が多かったため、全員が着席している。後々徴募兵やそれぞれの常備軍を率いて来た貴族が到着次第、我々も立つことになるだろう。
「早速ですがこれからの見通しを」
口火を切ったのは東方大公だ。これはその場において2番目の立場の者が、軍議の進行をする慣習に則っている。今回は一緒に行動している者達ばかりなので、どちらかと言えば情報を整理し認識を共有するという側面が大きい軍議である。
「おおよそ軍の集結完了までは20日ほど、それまではこちらに野営します」
「分かった」
「その後も収穫が終わった地域から順次徴兵を致しまして、補充兵とする予定です。その数1000程」
「最終的な兵力は4000か」
「はい」
「やはり兵力は遠く及ばないか……」
全ての兵を集めた数でさえ、アルトゥール第一王子率いる北軍の半分に届くかどうかだ。東方大公自体が抱えている兵力は少なくないが、多くの敵国に接するために自由に動かせる兵は多くない。
「致し方ありません」
「こちらに寝返りそうな諸侯は?」
「北軍からは皆無、南軍からは幾つかといった所です」
「北軍は結束が固いですし、勝利したばかりです。南軍は先の戦の敗北と南方大公の病によるところが大きいでしょう」
「両辺境伯の動向は?」
自分にとって一番気になる話題が出て来た。モーラ辺境伯領を出発して以来、何も情報を入手出来ず、むしろ北軍が催促の為に軍を送ったなどの不安になる物しかなかった。
最後にカーマイン辺境伯にこちらの動向を知らせたのは、モーラ辺境伯にエメリヒ第三王子と共に出発することになったことを伝えてくれと頼んで以来だ。
「あぁ、その事でしたら続報があります。結局北軍が両辺境伯に軍を送ったというのは、誤報であったそうです。正確に言えば指揮官になる予定の、ケビ・シャルトル伯が何者かに暗殺された噂が……それで、軍を出せなくなったそうです。それを利用して南軍を罠に嵌めた形ですね」
ケビ・シャルトル伯というのは、どこかで聞き覚えのある貴族の名前だった。それも最近……
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




