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9.出陣


「出陣が決まった」


 我々のもとにエメリヒ第三王子が直に出向いて来たのは、近衛騎士団が訓練を始めて15日目の事だった。


「急だが明日だ。8日のうちに兵の集結地点へと向かう。朝の2つ目の鐘が鳴り次第出発だ。正門に来てくれ、仔細は後ほど伝える」

「承知いたしました」


 そのまま中に戻るエメリヒ第三王子を見送り、近衛騎士団に休憩と準備を言い渡すとその日は解散になった。

 近衛騎士団としての完成度はこの15日間で良くなったが、完璧には程遠い。恐らく第一、第二王子それぞれに付いている”正規”の近衛騎士団と当たる事を考えれば、心の中で今か今かと待ち侘びていた出陣も少し憂鬱になる。

 それに今回は我々の動きも戦略も何も知らない。カーマイン辺境伯領に移り住んで以来、何故か重要な場面や会議に立ち会う事が多かった自分だが、今回は蚊帳の外。以前に王都の近衛にいた時は当然だったことが、情報に触れることが出来る立場を経験してしまうと、少し不満に思ってしまう。

 本来はそれが当たり前なのだと、自分に言い聞かせながら荷物をまとめて、翌朝に備えた。



 ボルダックス城正門前の広場には我々近衛騎士団を始め、東方騎士団300、常備軍の半数である500、徴発された兵士が600の総勢1500名もの兵士が揃った。

 第一王子や第二王子の揃えた兵数に比べると圧倒的に少なく、数字上は見劣りするが、目の前に整列する兵士たちを眺めていると、それはそれは大きな軍勢に見える。

 実際のところ、自分はここまで大規模な軍の整列している姿を見た事は無い。王都の近衛騎士団に入る前は勿論、入った後も小規模な戦闘や威力偵察程度の経験しかない。カーマイン辺境伯領に行ってからは、少数の精鋭を率いて動くことが多かった。押し寄せた帝国の大軍を撃退したと言えど、隘路の中に満ちる敵兵を必死にかき分けた記憶しかなく、印象に残らなった。

 整列した軍を目の前にして、更に近衛として最前列から見渡す景色は壮観で、自らが権力の中心にあるのではないかと錯覚してしまう程のものだ。


「……揃っているな」


 当の権力者側であるエメリヒ第三王子が、我々の前に現れて最初に発した言葉は力みも感慨も無い、普段通りと言って良い表情と言葉だった。


「さぁ、行こうか」

「はっ!」


 脇に控える東方大公に出発を促すと流れるように指示が伝わり、先頭を東方騎士団として徴用兵、常備軍、近衛騎士団が王子を挟む形を取って隊列が組まれる。自分とボウデン騎士爵は、人の部下を連れてエメリヒ第三王子と東方大公の護衛に付いた。

 確かに昨日の段階で仔細を伝えられ、その通りの隊列となっているが、このような場面ではエメリヒ第三王子が、皆の前で出発前の演説なんかをするのではないかと思っていたので、拍子抜けしてしまった。

 派手好きなアルトゥール第一王子であれば、間違いなくあの少し高くよく通る声で派手な仕草をしながら、兵士たちを鼓舞するような言葉を発していただろう。それが良いか悪いかは置いておくとして、間違いなく兵士達は自分達の指揮官の存在と、その性格を知ることが出来る。


「サー・リデル……いや、リデル団長」

「はい!」


 エメリヒ第三王子の横顔をチラリと見た時に、先程まで考えていたことを見透かされたように声を掛けられたもので、少し声が上ずってしまう。


「何か考え事か?」

「いえ……いや、演説などをしないのかと思った次第で」


 いくら自分の中で考えても答えが出ない疑問を、不躾であるという事は分かりながら投げかけてみた。


「この場では……な。全軍が終結次第”する”」

「失礼いたしました」

「アルトゥールならしていただろうな。それに集結してからもする。更に機会がある度に演説するだろうな。自分が目立ちたい性分なのだ、そして世界が自分を中心に回っていると思っている」

「……悪い事とは思いませんが」

「ほう、何故そう思う?」


 前を向いていたエメリヒ第三王子が自分の方に顔を向けた。馬上で揺れる者達は、こちらの会話を聞いているのかいないのか、特に意識を向けるそぶりを見せない。


「あくまでこれは平民として従軍する者の立場からの話ですが……大げさに自分達を鼓舞しようとし、事あるごとに褒め称える方は、例えそれが本心の中では嘘だとしても、兵としては士気は上がると」

「ふむ……確かにな。リデル団長の言う通りだろう」

「それに、今回は帝国との戦争ではありません。明確な外敵でなく、王国の隣人と戦う事になる内戦では、自分の故郷と家族を守る為とは事情が違うと思います」

「余計に強く兵たちの心を私に惹きつける必要があるという事だな」

「いち近衛騎士である自分が言うのは差し出がましいですが……」


 謝罪を入れようとしたところでエメリヒ王子はそれを押し留めるように手で制す。


「いや、構わん」


 その言葉の後に、二度三度と頷いたエメリヒ第三王子は、隣に並ぶ東方大公と何やら話を始めた。

 今更ながら王国の第三王子という方に、畏れもなく意見を言いすぎてしまったと後悔が出て来る。カーマイン辺境伯が寛容過ぎたせいかもしれないという他責の念と共にだ。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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