6.本題
「して、その後は?」
「隘路の前には、予め北軍の野戦築城が行われており攻めるには時間が掛ると判断したヴィアネッロ侯爵は側面の奇襲を警戒して、王都まで後退を開始した模様です。ここまでが今朝までの情報です」
「……まだまだ、長引くな」
聞いた限りだと追撃で北軍の完勝だが、話し込むエメリヒ第三王子と東方大公からは違う状況が見えている様子だ。50人程度という小さい隊を指揮した経験しかない自分には、数千を率いての戦争は良く分からない話であった。
「はい。南軍が王都まで無事後退することになれば……ヴィアネッロ侯爵はその能力を備えていますので」
「二人の侯爵は、大公や王の下などの判断が出来る絶対権力の下で戦うと、連携が取れる上に優秀な指揮官なんだがな……」
「はい、間違いなく」
一通り起きた事を聞いたエメリヒ第三王子は、東方大公へと向き直った。その表情から本題に入る決意が読み取れる。
空気が変わったことを察してか、だれも身じろぎ一つせずホールの中に響くのは、外で風に揺られ騒めく葉の音だけだ。
「フロレンツ・バーガンディー公爵よ、私に力を貸して欲しい」
主語は無い。
だが、そこにいる誰もがその意味を察することが出来る言葉だった。
第三王子の表情は今まで見た事も無いほど自信に満ち溢れ、その姿は全てを統べる覇気を持っていた。今までの親しみと人間味に溢れる一人の男から、王者の風格が溢れ出している。
カーマイン辺境伯やモーラ辺境伯、北方大公やアルトゥール第一王子もこの目で見て来たが、自分は王と成り得る人間を初めて実感を持って見れた気がした。
「……エメリヒ殿下、我々東方を堅守する諸貴族は、メイズ大公国を始めとする諸国に対しての備えを外せません」
長々とした前置きから、その後に続く丁寧な断り文句を想像するのは難しくない。現状、彼らに利点も無く、この内乱の先行きが見えないという現状を見て、東にメイズ大公国とスマルト共和国、南にムタルド教国を接する東方大公は、彼に従い頼る諸貴族を守らなければならないのだ。
今は東方大公の表情にエメリヒ第三王子に対する敵対の意思は見えないが、それを隠すことが出来なければ大貴族を維持する事は出来ないだろう。もし、東方大公がこの場でエメリヒ第三王子を捉える命令を下した場合の事を考え始めた。
身構える自分を他所に、エメリヒ第三王子と東方大公の会話は続いて行く。
「……我々の出せる兵力は少ないでしょう。防衛の為に動員は済ませていますが、それでも自由に動かせるのは3000となります。それでも勝てるとおっしゃいますか?」
「勝たなければならない……オロール王国の未来の為に」
モーラ辺境伯領を出発する時に、船の上で王国に思い入れは無いと言っていたエメリヒ第三王子からは想像できない言葉だった。だが、同時に善政を敷くと言っていた事とも矛盾はしないその言葉には、人を頷かせるような不思議な説得力が籠っていた。
「……であれば私に頼むのではなく、我ら東方の貴族にお命じ下さい。オロール王国の正当なる王位継承者として……その号令に我らは答えましょう」
東方大公が口にした言葉を咀嚼するように、ゆっくりと頷いたエメリヒ第三王子は再び目線を前へと戻す。
「我は……我は先王、獅子王メレディス・ヘルムート・オロールの子にして、王国の正当なる後継者であるエメリヒ・フォン・オロール第三王子である。此度の王国の混乱は、兄であるダミアン・エーリヒ・オロール第二王子が国王を僭称した事に端を発したものであり、その責を逃れることは出来ない。長兄のアルトゥール・ヘルムート・オロール第一王子は、守るべき民を焼き殺し、政に興味を示さず武働きのみに傾倒している。これも又、王国を乱した原因である事に相違ない。この二人の男に、王国を統治することは到底できないのだ!」
エメリヒ第三王子は、ゆっくりと息を吸う。
「我はここに擾乱の徒たる我が兄弟と、それを囲む諸侯の討伐を宣言する!東方の守護者たるフロレンツ・バーガンディー公爵、そして王国東方を統治する諸侯よ、我が軍旗の下へと集い、王国を乱す者共を討ち果たすのだ!!!」
「……はっ!!」
東方大公とその息子は地面に膝を付き、拝命を受ける形でエメリヒ第三王子に礼を示した。
続けて「先程までの家人の非礼をお許しください」と言葉を繋ぎ、先程まで家令が失礼な物言いや行動をしていたのは、辺境の地へと放逐されたことによって、人間が変わっていないかを試したかったと言っていた。
本来であれば王子を試すなど失礼極まりないが、それを咎めることは出来ないのだ。彼らも次期王を見極めなければいけない状況であった。
東方大公親子と共に膝を付く東方の武官、文官の諸貴族を見渡すと、ここまでの苦労が報われた気がした。そしてこれから立ち向かう事になる困難も、想像に難くない。
目の前に立つエメリヒ第三王子は、ここに集う者達を含めた諸侯を率いて、南北の大軍を打ち破らなければいけない。その手助けを自分の弓矢で少しでも出来たら嬉しく思う。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




