5.戦況
エメリヒ第三王子の表情は変わらず、雑談するかの調子で話を始めた。
「本題に入る前に、兄たちの戦いの推移がどうなっているかご存じか?」
検問所で聞いたのは、内乱が続いているという事実のみで、詳しい戦況を知る事が出来なかった。そこらで聞くより、確実に多くを知る東方大公から知ろうとしているのだろう。
「戦況ですね…それは......」
両軍が集めた戦力は、アルトゥール第一王子と北方大公が率いる北軍8000とダミアン・エーリヒ第二王子と南方大公、西方大公が率いる南軍1万8000という大軍だった。この数はそれぞれの地域で隣国に対する備えを除いて徴兵できる限界の数と言って良い。
アルトゥール第一王子と北方大公は、前線となる場所から15日の距離に北側の要衝に陣を構え、迎撃の体制を整えた。一方のダミアン第二王子と南方大公の軍は前線より20日南側の場所、王都近郊にて集結する。互いの陣容が整ったのは内乱発生から80日が過ぎた頃だった。
何故ここまで戦力差が開くまで北軍が動かなかったのかと言えば、動けなかったと言う方が正しい。当初から王都を手にし近郊に陣を構えた南軍は、兵力が揃うまで王城での籠城が可能であり、寡兵で城攻めをする訳にいかない北軍は、アルトゥール第一王子と北方大公が得意とする野戦に引きずり込む必要があったのだ。だがそれに応じるほど、南方大公は易い人間ではなかった。
なにがしかの動きを必要とした北軍は”真偽の程は分からない”が、動員完了の直後から兵を割った。約1500の兵を未だに態度を明確にしない、二人の辺境伯の領地に向かって進軍させたのだ。
この催促の為の兵力分割を見逃す訳がないのが、賢将の南方大公である。彼は事実であれば良し、罠であればそれも打ち破る気概を持ち、強行軍を開始した。
実質の指揮官である南方大公は、軍を二つに分けた。1万の南方大公率いる本軍と、彼の腹心の部下が率いる8000の助攻。助攻は王国内側の城を攻略しながら進み、本軍はレイトリバー沿いの城を落としながら平原を突き進ませ、互いの連携を密に、どちらかに北軍が襲い掛かる事があれば、すぐさま合流し決戦を挑む算段だった。
「だが、ここで南軍に予期せぬ事態が起きました」
「予期せぬこととは?」
「進軍を始めて8日目に、南方大公が病床へ伏したのです」
四方大公の中で最も老齢である南方大公は、70を超える年齢で近年病気がちであった。特に帝国との戦争において、ダミアン第二王子が大敗したと言われているのは、彼が病に伏して指揮を執れなかったのも大きい。
そしてこれは南軍にとって一大事であった。
西方大公は政治家であり王都に在り、軍隊の指揮を執ることが出来ない。戦下手であるダミアン第二王子にも指揮を任せる事も出来ぬとなれば、南方大公の二人の部下以外に指揮を執れる人物が居なかった。そう、この二人が噂の、ダミアン第二王子が大敗した戦で意見を分裂させて敗北を招いたいた二人の侯爵である。
2人の侯爵は南方大公の盾と矛となり共に成長した貴族で、冷静沈着・堅守のカタラーニ侯爵と豪放磊落・猛攻のヴィアネッロ侯爵は、元々の性格が反対な上に領地も隣接していた事で、反駁し合う間柄だった。
カタラーニ侯爵は、同数であっても北方大公の攻撃に耐えうる守りを南方大公から信頼されて、8000の兵を率いており、ヴィアネッロ侯爵は南方大公が手綱を握る為に1万の兵と共に手元に置いていたのだが、それが仇になる。
南方大公が病で王都まで下がった後、ダミアン第二王子はまたもや全体の明確な指揮を執ることが出来ない状態になった。引き続き進撃を続けるべきとのヴィアネッロ侯爵と、一度合流し南方大公の復帰まで待機するべきと主張するカタラーニ侯爵の意見、どちらにするか決めかねたのだ。
「この隙を北方大公は見逃さない」
「はい殿下」
纏まらない意見に両軍はその場に停止することになり、早馬で3日の距離を伝令が行き来し続けた。そしてヴィアネッロ侯爵麾下の南軍1万の前に、アルトゥール第一王子と北方大公が率いる北軍6000が出現する。ほぼ倍の兵力を持つヴィアネッロ侯爵には、それが安易な獲物に見えた。
もはやダミアン第二王子はヴィアネッロ侯爵を止めることが出来なかった。
とはいえヴィアネッロ侯爵も突破力がずば抜けて高いだけではない優秀な将だ。平地の大軍という利を生かし堅い陣で圧を掛けながら、細かい戦闘を仕掛け6日続けて北軍を後退させ続ける。
平原北部の隘路に入る手前で停止した北軍を前に、最後の攻勢をかけるために停止したヴィアネッロ侯爵であったが、そこに急報が入る。
「堅守カタラーニ侯爵の敗報です」
北軍とヴィアネッロ侯爵が戦闘に入るという伝令を受けたカタラーニ侯爵は、陣を解き北軍と合流を急いだのだが、そこに北軍5000が奇襲を掛けた。元々の北軍別動隊2000と、ヴィアネッロ侯爵の前から1日ごとに細かく離脱した3000と共に離脱したアルトゥール王子が纏め、カタラーニ侯爵麾下8000の南軍を側面と後背面から奇襲し、散々に破り潰走させた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




