4.フロレンツ・バーガンディー公爵
門を潜った先で目にしたのは、思わずたじろぐような光景だった。
先程の足音の主である騎士団が、綺麗に磨かれた鎧とどの角度から見ても綺麗に整列していたのだ。その数は50人以上と思われるが、一目見ただけでその高い練度と強さが理解できた。これが味方であるならば心強いことこの上ないが、誰の味方とも分からぬ以上、自分の中で虞の方が優先される。
自分達が家令の後ろに追い歩みを進めると、その騎士団が我々の後ろを追従するように動き始めた。彼らの足音は乱れておらず、まるで大きな足を持った巨人が後ろを着いて来ているようだった。先程は高い練度と考えたが訂正しよう、凄まじい練度だ。
もし、東方大公と敵対することになった場合は、脱出の際に彼らを倒して進まなければいけないという事になるが、その自信は一切ない。この場にカールを連れて来ておくべきだったかと、少しの後悔が沸いて来た。
「お供の方はここまででお願いいたします」
後ろから響き続ける足音に心を削りながら歩いていると、館の入り口に立ち塞がるように立つ衛兵たちの前で家令が振り返り我々に告げる。
本来であれば供回りの人数など自由に振舞えるはずの”王子”が、公爵家令如きにその権限を制限されるのは王子にとって屈辱としか言えないだろう。
勿論、慣習や礼儀の関係で様々な事が制限される事はあるが、それはあくまで第三王子側が示す事であって、家令の態度は暗に王子として扱うつもりが無い事を示すものだった。
「二人ほど連れて行っても?」
「ご遠慮願いたいのですが……」
それでもにこやかな表情を崩さず、下手に出る第三王子は忍耐強い。お互いに笑顔であるにも関わらず、異様な空気が漂う。
「二人の辺境伯の名代として”騎士”を連れているのだ。許してはくれまいか?」
「二人しかいない両辺境伯の名代ですか?」
「そうだ。モーラ辺境伯からサー・ボウデンとカーマイン辺境伯からサー・リデルだ」
「……分かりました。構いませんが武器はこちらにお預けください」
渋々と言った様子で承諾した家令の指示で出てきた4人の兵士が、自分とボウデン騎士爵から剣と弓を受け取った。第三王子から剣を奪うような事をする程、敬意に欠いた愚かな事をするつもりはないようで、そのまま兵士達は元の位置まで下がっていく。
「では、こちらへ」
家令の後ろを追いながら歩く館の中の雰囲気は城下とは違い、落ち着いたものだ。
それは、北方大公の居城であるタリヴェンド城や、国王の住まう場所である王城より装飾の類が圧倒的に少なく、飾られている芸術品は大きな絵が二つほど位で、飾り気がないというのも大きい。
静かで機能を優先したかに見えるボルダックス城は、まさに前線の城という感じを受け、無駄を良しとしないのであろう東方の大公爵一族の家風が見える。
「オロール王国第三王子、エメリヒ・フォン・オロール殿下、モーラ辺境伯名代、アルフレッド・ボウデン騎士爵、カーマイン辺境伯名代、リデル・ホワイト騎士爵、ご到着!」
先程聞かれた名前と所属が読み上げられ、大ホールへと続く大きな扉が内側へと開かれる。
ホールの中は廊下と比べて明るかった。よく陽が入る高い位置に大きな窓があり、静かに舞うホコリがその日に照らされてよく見える。その奥に立つすらりとした高身長がよく目立つ二人が居た。
中に入ると、そのほかの人物は扉の内側両脇に立つ騎士の他、3人の高位の武人と思われる体格をした男達、5人の文官が我々を見つめている。彼らも貴族であろう。
領主の椅子に座らずに立ったままの二人はよく似た親子だ。2人に共通する綺麗な黒色の髪を後ろで結び、薄いブラウンの瞳がこちらを見つめる様子は、醸し出る雰囲気まで似ていた。
「遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」
膝をつきエメリヒ王子に挨拶する武官と文官の前を通り過ぎ、高身長の二人の前に立つと膝を地面に着かず、右手を胸の位置に当てて頭を下げる礼を第三王子が受ける。
王族に対してこの簡易礼が許されるのは、4人の公爵とその跡継ぎのみであるから、彼らが東方大公
フロレンツ・バーガンディー公爵とその息子であることが把握できる。
「お久しぶりですね、バーガンディ公爵。最後に会ったのは3年前でしょうか?」
「左様にございます。あれは……」
形式ばった挨拶の応酬が続いていく、二人のにこやかな表情からはどうにも相手を牽制しているような色が見え隠れする。話を聞きながら初めて見る東方大公を観察していると、高身長で意志の強そうな目元は年齢を感じさせる皺が見えた。見た目が若く、動きの機敏さを伺える東方大公だが、隣に並ぶ自分より少し年上に見える跡継ぎを見ている限り、40は越えていそうだ。
「後ろに控えるのが2人の辺境伯からの名代ですか?」
こちらに順番に視線を送る東方大公に、第三王子の紹介と合わせて形式通りの名乗りと礼をした。
「挨拶はここまでと致ししましょうか……この飾り気のない城にエメリヒ殿下と二人しかいない辺境伯からの名代が来たのですから、大事な用件とお見受けいたします」
東方大公は大方の用件を察しているに違いないが、わざとらしく口に出して見せた。自分には良く分からない駆け引きという奴なのだろうか。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




