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3.ボルダックス城


 我々がボルダックス城に着いたのは、姿が見えた日の夕方だった。そして入城できたのは翌朝だ。

 城内は王国の内乱から逃げて来たと思われる難民と、隣国のスマルト共和国で起きた内乱から逃げた者達がそれなりの数が居て、賑わっているというより雑多な印象を受ける。

 このボルダックス城は今まで見て来た大公の居城や街よりも、より防衛に特化したように感じた。それは、城壁や尖塔の高さ、複雑に入り組んだ道のみではなく、街中を歩く兵士が難民や商人に向ける目を見たら分かる。彼らは一人一人疑うような目線を向けて、警戒を怠ることが無い。


「殿下」

「サー・リデルか、どうした?」


 街中をゆっくりと走る馬車の後ろの幌を開けて第三王子に話しかける。


「私の部下を城下に待機させますが、よろしいでしょうか?」


 これは我々の目論見が外れた時に、第三王子を守る為の方法を用意する為だった。

 東方大公が我々の味方をしなかった場合、既に加勢する側を決めていた時に窮地に陥る第三王子を脱出させるために、城下に自分の部下を待機させ脱出の手助けにする。

 そもそも城内を抜けることが出来るかどうか分からないが……何も策を持たずに向かうより良いだろう。


「……分かった」


 第三王子は全て言わなくても把握してくれた様子だ。

 その表情に緊張が見えないのは、上手く行くと確信しているからか、それとも諦観なのか。聞くことが出来ない疑問が頭に浮かんだ。


「カール」

「なんだ?」

「城下で商会の人と共に待機しておいてくれ、場所はそうだな……アレだ、あの宿が良い」


 進行方向左側、少し先に見える宿屋の看板を指さして伝えると、カールは頷いた。


「ボロいな、だが人はいなさそうだ」

「あとは馬だ。馬を10頭用意してくれ、なるべく早いのだ」

「はいよ、隊長はどうするんで?」

「ここで降りるよ」

「そうか、じゃあまた”後で”な隊長」

「また後で」


 隊員達と挨拶を交わし、馬車の後ろから飛び降りてボウデン騎士爵の元へと向かうと、部下の一人と交代してもらった。久しぶりの馬上は、馬車の中に詰め込まれていた時より大分開放的だ。

 第三王子とボウデン騎士爵に馬上で仔細を伝え、宿の前で停止した馬車を置き去りにした我々は、そのまま一路、ボルダックス城の東方大公が居住する館まで向かって行く。

 


「東方大公、フロレンツ・バーガンディー公爵にお目通り願う」


 丘の一番高い場所、後ろを振り返ると城下を一望できるその丘の上に建つ巨大な城門の前で、ボウデン騎士爵が衛兵にこちらの要望を伝えた。陽の光に照らされたボウデン騎士爵の茶髪は、後ろから見ると普段より明るく見えた。


「は!?貴様は下馬もせずに何者だ!?いきなり大公様にお目通りできるわけが無かろう!」


 至極当然の言葉を返されるボウデン騎士爵を見て、「ボウデンは口下手すぎる」と呟き第三王子が頭を抱えた。

 これまでの旅路から分かった事だが、ボウデン騎士爵はどうにも喋る事が得意ではないようだ。言葉が足りないと言った方が正確な表現なのかもしれないが、言葉少なに剣を振るう長身が目立つ彼の姿は、皆が想像する騎士を体現しているかもしれないが、今求められているのはそうではない。


「これは失礼した」


 前に出ていった第三王子がボウデン騎士爵の代わりに謝ると、「私はオロール王国の正当なる統治者であり……」と、わざとらしく仰々しい自己紹介を始める。最初は敵愾心丸出しにしていた衛兵が、疑いの表情に変わり、みるみる顔が強張っていくのが分かった。


「しょ、少々お待ちください!」


 全ての名乗りを聞き終わると、先程までの態度を一変させた衛兵が城内へと駆け出して行った。王国で絶大な権力を握る公爵家の門を叩き、その門前で主たる王家の王子を名乗るの者は、”頭がおかしい奴”か”その人”以外にあるまい。

 先程の名乗りを見て緊張した様子の残された衛兵と我々は、秋にしては日照りが強い中放置され、暫く時間が経った。気温は高くないが、陽に炙られ続けることで体はじんわりと汗をかき、どうにも不快感を感じてしまう。

 これが平時であれば、王子を門の外に放置したままという許されない。特に性格が苛烈な第一王子であった場合、この城門周辺に居る者達は、残さず処罰を受ける若しくは処刑といった所だ。

 あまりにも時間が経つのが遅く、余計な事を考えていると、城門の裏から大量の足音と鎧がこすれる音が響いて来た。その数に無意識に体が身構え、胴体を通している弓に片手を当てた。


「お待たせいたしました」


 城門の奥から登場したのは身なりが綺麗な老齢の男性で、綺麗な白髪は後ろにしっかりと撫でつけられている。丁寧な所作からは、それなりの地位に居ることが分かる。


「家令殿ではないですか、久しぶりですね」


 第三王子が持ち前の記憶力の良さを発揮して挨拶したことで、我々の前に立つ老齢の男性の正体を把握することが出来た。家令と言えば、この東方公爵家の家の諸事を監督する人間で、この館内に限定するのであれば、公爵の次に偉い人間だ。


「第三王子殿下におきましても、ご機嫌麗しゅう……僭越ながら私めがご案内いたします」


 我々は城門をくぐり、ついにボルダックス城の館へと足を踏み入れた。



はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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