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1.スマルト共和国


 スマルト共和国の内部は意外にも荒れていなかった。

 というのも反乱したのは南部貴族のみで、そこを抜けてしまえば後方地域。戦乱とは無縁といった風情で、行き交う隊商にも暗い表情は見えない。

 自分がカーマイン辺境伯領を出発して、かなりの時間が経った。大陸南部のスマルト共和国は未だに残暑厳しく、夏の風情が残っているが、北のカーマイン辺境伯領は既に秋風が吹き始めるころだろう。大陸の反対側とも言えるスマルト共和国で、自分の第二の故郷となった場所に思いを馳せた。


 スマルト共和国内部は至って平和なお陰で、馬の限界まで馬車を飛ばし続け、限界が来たら近くの町で馬を新しく入手する。という手法を繰り返し使うことが出来た。これによってスマルト共和国を通過するのに大した時間はかからない。


「残念だな」


 スマルト共和国を抜ける前日、明るい内に馬車を止めて夕食をしていると、隣にいる第三王子が呟いた。目前に迫るメイズ大公国との国境である美しい山脈を見て、言ったわけではなさそうだ。

 先程まで話し合っていたこれからの行動の事だろうかと思ったが、完全に纏まった話を今更蒸し返して嫌味を言うような人ではないのを知っている。


「何がでしょうか?」

「こんな状況でなければ、共和国に少し滞在したいところだが」

「……はぁ」


 自分の目には王国と大して変わらない風景が広がるだけで、特に代わり映えしないように見えた。


「スマルト共和国は芸術品、輸入品が豊富で、音楽、文化面が発展しているんだよ」

「そうなんですか」


 今、第三王子が並べたもの全てに無縁で生きて来た学のない自分には、良く分からない話だった。強いて言うなれば、音楽は酒場や宿屋、街中の吟遊詩人が弾いたり、歌ったりしているのを見かけることはあったが、興味を持って足を止める事は無い。

 ルーシーは貴族教育の時に多少教えてくれたが、田舎貴族で自分には分からないと言っていたし、カーマイン辺境伯が芸術品を持っている所も見たことが無い。

 近衛騎士団に居た時には、そういった場所に足を踏み入れることは、憚られた。北方大公の所に向かった時に、良く分からない値段の張りそうな調度品や、大きな絵が飾ってあったような気がする程度。


「サー・リデルは興味ないか?」

「学が無いもので……良く分かりません」

「別に学は必要ないだろう?」


 第三王子の顔は心底不思議といった表情だ。


「そうなのでしょうか?」

「あぁ、別に知識としてあって不足は無いが、無くても良いではないか。ただ、綺麗な芸術品を見たり、絵画を見たり。音楽に任せて体を揺らす程度でも、楽しんだと言えるだろ?」

「はい……」

「ハハハッ!納得していない様子だな!」

「いえ!そういう訳では!」

「構わん、他にも納得していない者もいる様子だしな。私が国王に即位した暁には、ここに居る者達だけを招待して、音楽が流れ続ける晩餐会でも開こう」


 口では「是非ともよろしくお願いいたします!」と元気よく返事をしたが、この焚火を囲んでいる大半の者達の頭の中では、音楽ではなく満腹まで食べられる美味しい料理の想像をしているだろう。なにを隠そう自分もその一人だ。

 我々が引っ張って来た馬車のお陰で、目の前に旅としては十分以上な食事があるにも関わらず、ついつい次の食事の想像をしてしまうのは、明日食べることが出来るか分からない世の中では、仕方のない事だろう。


 明日からオロール王国へと再び足を踏み入れる。この場合は帰ると言った方が良いのかも知れないが、王国東方地域という慣れない土地に向かうのは、どうも帰るという気分ではない。

 最後に東方地域と呼ばれる東方大公が仕切る土地を踏んだのは、それこそ第三王子の初陣の時だ。自分にとってもそれが最初で最後だった。第三王子はどう思っているのか分からないが、それが自分にとっては何処か運命めいたものを感じた。

 今回も第三王子の初陣の時のように、上手く行って欲しい……いや、上手くやらなければならない。


 むしろこれからが本番だ。これまでは、第三王子を王座に就かせる為の準備みたいなもの。


 まず東方大公を説得するところから始まる。このファーストステップも簡単ではないだろう。

 説得できなければ、第三王子を伴って東方大公のもとから脱出するしなければいけない。全員が触れないようにしているが、東方大公との接触は間違いなく最初の難関だろう。


 もし、東方大公を説得できたならば、次は兵を集め戦に勝たなければならない。

 西方大公と南方大公の傀儡である第二王子に、戦上手の北方大公と第一王子の陣営。どちらも、数や兵の質のどちらか、それか両方、我々を上回っているだろう。

 この二つの勢力を打倒しなければならないし、それは完膚なきまでの勝利でならなければならない。2人の王子と3人の大公の誰かが生きていてもならない。それは将来の禍根となる事は誰の目にも明らかであるのだ。


「さぁ!明日に備えようか!」


 自分が湧き出て来る不安に圧し潰されそうになっている一方、第三王子はいつもの調子で明るく笑顔であった。これから始まるのは、第三王子の好きな”賭け”であることには間違いない。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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