13.生い立ち
「ふむ、成程な……これの存在を知っている者は?」
ひとしきり説明が終わった後、マジックアローを観察していた第三王子が見上げるようにして眉間にシワを寄せながら自分に問う。この問いで自分は一つ大事なことを思い出した。
「……カーマイン辺境伯領の者、それに……王都に研究成果として送られている筈です」
「マズイな……これが”敵”の手にも渡っている可能性があるという事か」
今の今まで、王都にマジックアロー研究成果を送ったことを完全に忘れていた。
勿論、当時はこのような状況になると予想だにしていない上に、まさか研究成果を秘匿する訳に行く訳も無く、送ってからというものの、特に反応があったわけでも無い。そして今は海の上だ。
「分かりません……ですが、この増幅石はカーマイン辺境伯領で見つかったものですから、それに、直ぐにこの内紛が始まりましたので……敵の手中にあるかどうかは……」
おそらくマジックアローを手にしているとしたら、第2王子と西方大公、南方大公の陣営だろうが、もし彼らが、このマジックアローを数本持っているだけでも十分戦況が変わってしまうという事は、自分の経験上分かってしまう。その事実に、返答の言葉が多く、そして言い訳がましくなってしまった。
第三王子としても、明らかにマジックアローの存在を懸念したような表情で、今の話を聞いていた他の者達も、先程までの明るい表情から一転して不安を隠すことが出来ていない。
「持っているもの、運用しているものとして考えた方がいいな」
第三王子の表情はとても硬い。
「……仰る通りにございます」
その言葉に第三王子は少し頷くと、話題を変えるように表情を変え、自分に向き直った。
「15覚醒の風魔導士と言ったが、元々カーマイン辺境伯のノルデン騎士団に仕えていたのか?」
どうやら自分の出自について疑問がある様子だ。第三王子が知っている情報と言えば、自分がカーマイン辺境伯の騎士という情報のみ。その手元に強力な兵器があると知った今、深い所まで知っておかなければ第三王子も周囲を固めるモーラ辺境伯の騎士達も不安だろう。こちらとしても、隠し立てする必要はないので全てを正直に話して、信頼してもらわなければならない。
既に旅に出た段階で、多少順番が前後しているとは思うが、それが自分を任命したカーマイン辺境伯という人物に対して寄せられている信頼とも言える。
「いえ、自分の出身は王都近郊、東に2日向かった森の近くにある村で生まれました」
「ほう?ではなぜカーマイン辺境伯の下に居るのだ?」
「複雑な話で……少し長くなってしまいますが」
「時間ならある」
頭上ではランタンが我々を照らしているが、その影が前後、左右へと揺れている。少し圧を感じる第三王子の言い方に、少し揺れ始めた船によって感じていた吐き気が引っ込んでいった。
「で、では……」
古い記憶を探るように、自分の生い立ちを話し始める。
猟師の子供”リデル”として生まれ、幼い頃から弓矢に触っていた事。15歳で魔法が覚醒し、王都の魔法学校に入校した事、弓の腕を見込まれ、尚且つ風魔法も仕えた事で、平民ながら近衛騎士団のアーチャーとして配属された事まで包み隠さず話した。そこで一度ボウデン騎士爵が話に割って入って来る。
「待て待て、君は近衛にいたのか??」
「はい。短い間でしたが、去年まで第三騎士団におりました」
「第三か……私の遅い初陣に付いたのも第三騎士団だったな……」
「はい、殿下の初陣にもご一緒させて頂いております」
懐かしむ表情をしていた第三王子とは対照的に、ボウデン騎士爵は驚きと懐疑の表情に変わった。王族に誰よりも近い場所に居る近衛騎士は、王族に冷遇されてきた第三王子にとっては敵の可能性もある。
「そうなのか……」
ボウデン騎士爵は、その不安を言葉にすることをしなかったが、自分を見る目が猜疑心を物語っていた。簡単にその疑いを晴らせるとも思っていない、これからの行動で示すのみだろう。
「はい、光栄な事に」
「だが、だとしたら何故カーマイン辺境伯の騎士をしている?」
話の続きを聞きたい様子の第三王子に先を促され、喋り出したのは、揉め事により近衛騎士団を体よくカーマイン辺境伯の下へ追放された事、それからマジックアローを手にして北方樹海を駆け回った事、最後に帝国軍の指揮官を射抜いたことを含めた功績で騎士爵へと叙された事。沢山の物事があり過ぎて、本当に全てを自分がした事なのか今でも信じられない。
詳細の必要ない所を省いて要約したつもりが、語り終えて周りを見渡すと、最初に燈したランタンの蝋燭が3分の1程度の長さになっていた。
「……まるで英雄譚だな。カーマイン辺境伯が”サー”・リデルを寄越したのも納得だ」
第三王子の言葉にボウデン騎士爵以外の者達が頷いた。
「いえ、全ては私について来てくれる者達と、私を信用してくれたカーマイン辺境伯を始めとする方々、それにこのマジックアローの存在があったからです」
「……そのまま謙虚でいなさい。それは君の美点だ」
「はい」
英雄譚のような話を少しも疑わないのは第三王子の人が良いのか、それともカーマイン辺境伯が積み上げて来た信頼なのかは分からなかった。だが。自分の話が終わってから暫く歓談してから、その場は解散となった。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




