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12.強弓


 沈没船の船員たちを救助する作業はさながら戦場の様子だった。

 海から引き揚げられた船員は誰も彼もが疲弊していて、大蛇との戦いや海に投げ出された後、押し寄せたウミヘビたちに噛みつかれたりなど、傷がある者がほぼ全員といった様子だ。

 結果的に助けることが出来たのは30人程で、60人近くいたらしい船員の半分の数だった。その中でも、この船の中で十分な治療を受けられない者達が、更に命を落とすことになってしまうだろう。


「傷の深いものをここに運べ!!魔導士が治療する!!」


 そんな中で声を上げたのがモーラ辺境伯の騎士達で、彼らの中には魔導士が同行してきていたらしい。普段は軍医をしている事が感じられるその魔導士は、手際よく次々と負傷者に治療を施していく。15覚醒の者が成る事が多い軍医といえど、一つの領地に4人いると多く、少ない所だと1人しかいない事もある。そんな中引き連れて来たという事は、モーラ辺境伯にとってかなりの負担だろうという事が分かる。

 風魔法しか使えない自分には出番はなく、必死に治療する軍医に綺麗な水を持っていく程度の雑用しか出来ないのがなんとももどかしい。


 一応あの巨大なウミヘビが片付いたことで、再び我々は船を進めることが出来る段階になったのだが、沈没船の船員達を陸に上げるために一度近くの港に寄港することになった。

 半日の航海の後、夜中に到着した我々は、スマルト共和国の一つの港町に入港する。入港と言えど小規模な町でほぼ漁船が停泊しているのみの港は、水深が浅く、比較的大きい部類に属する我々の船が入ることが出来ないと予想され、更には夜中の到着という事もあり沖合に船を停泊し、端艇で何度も往復することで船員たちを送り届けることとした。


「傭兵さん。本当に助かった、ありがとう」

「良いんだよ、シーマンシップとやらだ」

「本当にありがとう。それに騎士さんたちも、軍医さんも本当に助かった」


 端艇へと降りていく沈没船の船員たちは、それぞれにお礼を一言づつ残して去って行った。

 陸の上であれば、お礼としてお金を渡したりなんだりとあるものだが、海の上では違うらしい。誰も彼もが互助精神を持っていて、褒賞を要求することも渡すこともしないそうだ。「助けられたなら今度は自分が助ければいい」という具合らしい。

 なかなか、心地の良い心意気であるとは思うが、「俺は是非とも金貨が欲しいがね」なんてカールが端艇を見送りながら言っていた事に思わず頷いてしまった。


「少し……話せるか?」


 後ろから話しかけてきたのは第三王子だった。だがその後ろに静かに付き従っている者が数名、ボウデン騎士爵に商会の女性二人。用件は大体予想できる。


「あの大蛇を射抜いたことについてでしょうか?」

「あぁ……そうだ」

「わかりました」

 

 そうして呼ばれた船長室には、第三王子とモーラ辺境伯の騎士団長含め騎士が3人、あとは商会の長である女性の二人が同席した。アンサとポメラの表情は、自分が沈没船を助けた事で好意的な事が把握できるが、残りの第三王子を始めとする騎士たちは、疑うような感情を覗かせている。


「さて……サー・ホワイトよ、まずは良くやった。あの巨大なウミヘビから人々を助けることが出来たのは、君のお陰だろう」

「はっ」


 一瞬窓から覗かせる満月に目線を送った第三王子が、こちらを向いて目を合わせるとお褒めの言葉をいただいた。それに同調するようにアンサとポメラも頷いている。


「して、だ。あの弓はなんだ?強弓と言うには強すぎる……見た事も無いぞ?魔法…か?」

「風魔法にございます」


 風魔法という言葉に、第三王子の後ろに控えていた二人の騎士が目を見開き驚いている。


「馬鹿な。あれが風魔法?我々は長いこと魔導士をしているが一度見た事が無い」


 そのうちの一人、ブラウンの髪を持った壮年の男が呟くと、第三王子も同意するように首を縦に振っている。そして二人の魔導士の言葉を繋いだ。


「この二人はモーラ辺境伯領の火と土の魔導士で、20年近く仕えている。その二人が知らないというのもおかしな話ではないか?」

「こちらをご覧ください」


 腰の矢筒に手を伸ばし、マジックアローの一本を引き抜き二つの玉を強調するように手の平に乗せて見せる。すると全員がマジックアローを覗き込んだ。


「なんだこれ……二つ……綺麗な玉が付いてる矢だ」

「左様にございます、殿下。この二つの石は魔石と増幅石と呼ばれるものです」

「魔石は分かるが……増幅石?初めて聞いたな」

「増幅石はカーマイン辺境伯領で最近発見されたもので、まだ有名ではないかと……増幅石で魔力を増幅させ、魔石で溜めて放出しますと、先程の様な威力が出せるのです」


 周囲から感心したような「ほぅ」声が漏れ出て来た、興味深そうにのぞき込むそれぞれの表情を見て、思わずルーシーの誇らしげにする顔を思い出してしまう。この状況を彼女が見たら大喜びするだろう。


「これは、誰でも扱えるのか?」

「恐らくは……まだ他の者で試すことが出来ておりませんので確かなことは言えませんが」

「先程のような強弓を魔導士が誰でも使えるようになると……かなりの脅威が生まれるな」

「更に私は15覚醒です……」

「それは真か!!」

「はい。ですが先に申し上げておかなければいけない事として、この増幅石の増幅限界が大魔導士ほどになります。なので、7覚醒の魔導士の方には少し効果が薄いかと」

「それは……そうだな。それ以前に7覚醒は数が少なく、元々の仕事がある以上難しいだろう。にしても15覚醒の風魔導士が扱えるというのが大きい」


 このマジックアローの価値を大いに認めるように、第三王子は頷いていた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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