11.大蛇
仕方なく納得したような船員の傍らで、少しモーラ辺境伯領と第三王子が疑うような表情をしていた。彼らの中で、自分はただの辺境伯領の騎士爵でしかない上に、持っているマジックアローの存在も知らないので疑いが生まれてしまっている。
周囲から注がれる疑いの視線を無視して船首に立つと、船と大蛇の様子が良く見えた。
ウミヘビによく似た大蛇は、色もよく似ていたがその肌質もよく似ていて、堅い皮を持っているわけではなさそうだ。普通の蛇の皮を持つならマジックアローの効果も十分発揮されるはずだ。
そして狙うのであれば、普通の蛇を狙うように頭だろう。その頭には危機に陥った船員たちが必死に付けたであろう傷跡と、頭の下に浅く刺さった2本の剣が見える。つまりは普通の剣でも通る場所には、マジックアローで貫けるだろう。
徐々に沈没しかけている船に近づいて行くにつれて、船底に何か硬い物が当たる音が頻繁に聞こえる。それが船の残骸なのか、積み荷なのか、はたまた死体なのかは分からない。だが、そのどれか、もしくは全てだ。
「剣を抜けぇ!!!」
後ろで聞こえるのは船員たちの声か、モーラ騎士団の声か。だが、剣を鞘から抜く金属の擦れるの数は、全員だと思える数だ。彼らも既に戦う覚悟を決めたようで、戦う前に興奮して息が荒れている者もいる。自分もさっきまで感じていた吐き気もどこかに行っていた。
腰元の矢筒からマジックアローを取り出して、自分の目で確認する。二つの綺麗な玉が付いた特製の弓は、いつも通りの姿ではない。太陽と海面に照らされてより透き通っていて指輪の宝石のようだ。
静かに弓にマジックアローを番えると、船底から響くの頻度が徐々に上がる。視線を上げ、沈没しかけている船がより鮮明に見えた。その船の上の人と、大蛇の大きく開けた口の中まで。
徐々にその船が大きくなり、徐々に右から追い抜かすような形で平行に並びかける。
「お前らぁー!!!離れろぉー!!!」
気を利かせたカールが野太い声で、必死に戦う者達に呼びかける。その声に驚いたように、そして助けを喜ぶような反応を見せた船員たちが、一歩後ろに引いたのが確認できた。それに合わせて船首の船員たちがバウスプリットと言っていた場所に足を掛ける。
重心を意識して、姿勢を整え、弦に指をかけた。
弓を持ち上げ、矢に魔力を込め始めて。
弓を引く時に鏃に向かって流すイメージに変えて引き切る。
船の揺れは、前にノルデン城に向かってレイトリバーを下っていた時より少なく、狙いもつけやすい。
狙うのは大蛇の頭の横、少し下の首辺り。蛇に首があるのかという疑問が浮かんだが、その雑念を頭から振り払う。
船が波の上下に合わせて自分の呼吸を合わせて……
こちらの殺気を察したのか分からないが、大蛇がゆっくりとこちらに頭を向けた。その眼は海のように深い青色をしていて、こちらを今にも飲み込もうとするかのような感覚を覚える。
「風よ」
3分の1ほどの魔力を使って放たれたマジックアローは、海面を疾走するように向かう。海水を巻き上げ周囲の視界を奪うように進んで行くマジックアローは、撃った自分の顔まで水飛沫が飛んでくる有様だ。だが、それも砂埃よりは大分マシだと言って良い。
マジックアローが巻き上げた水飛沫で白く染まっていた視界が、徐々に晴れて来た時に見えて来たのは大蛇の首に空いた大穴と、それでも生きようともがく蛇の姿。
だが、大蛇の必死の抵抗は間もなく落ち着き、力なく船首に首を落とした。そして力が徐々に抜けるように、船体に巻き付いていた太い胴体は緩まり、派手な水飛沫を上げながら大蛇の頭が海にずり落ちると、堅く結ばれた紐が解けるように、その長大な胴体も海の中へと消えていく。
「おぉぉぉ!!!!!倒したぞぉぉ!!!」
周りからにわかに歓声が湧き上がる。だが、その盛り上がりにすぐに焦りの声が混じり始めた。先程まで大蛇が巻き付いていたことによって保持されていた船体の崩壊が始まったのだ。更には、大蛇が船体から解ける際に、船体中央の亀裂を破断するように、体を海の中へと落としたことによって、完全に船は分断され、2つの木塊として海に沈もうとしていた。
「もっと船を近づけてくれ!!」「縄梯子持ってこい!!」「何か浮く物を!」
必死に救助を始める我々に追い打ちをかけたのは、海の中に徐々に見え始めたウミヘビたちだ。大群が海の中を覆いつくすように出現した姿を見て、海で必死に浮かぶ船員たちが叫び、恐慌状態に陥る。
周りの者達が動き回り、次々に樽が投げ込まれ、舷側から縄梯子が垂らされ、更には網のように編まれた大きな梯子代わりの物が海へと延びる。大蛇に散々痛めつけられ、二つに分かれてしまった船が沈む速度は速く、これらの準備が済むまでに船の姿は消え、海面には大量の船の残骸と帆布が漂っていた。もはや彼ら沈没船の船員は海に完全に投げ出されている。
「つかめ!!早く!!」「上がれ!!」
船員たちは”溺れる者は藁をもつかむ”という言葉の通り、必死に泳ぎ、もがきながら周囲に漂う浮かぶものを掴んでいた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




