10.シーマンシップ
「見えねぇのか!?あそこに沈没しそうな船が居るんだよ!助けるぞ!!!」
叫ぶ乗組員が急いで周りに説明している間、マストの上に立つ新人の見張りもその船を発見したようで、操舵に向かって方向を叫んでいた。
「待って!!近づいたら駄目だ!!」
「何故だ!?沈没しかかってるんだぞ!?」
周囲の者達の視線が鋭く突き刺さるように自分に浴びせられ、第三王子の目線も厳しくこちらを見咎めている。
聞いた話では、海の男達は例え敵対する立場の船員でも、命が掛かっている場面では決して見捨てないそうだ。それが海の男達の流儀”シーマンシップ”というらしい。それに反することを発言した自分の立場は、周囲の者達から見ると悪者だろう。
だが、このまま無闇矢鱈に危険に近づいてしまっては、自分たちも同じ運命をたどる事になるかもしれない。
「よく見てくれ!何か大きい”モノ”が船体に巻き付いてるんだよ!!」
「はぁ?なんだそれ……この距離じゃ分からないぞ?」
「本当だって!!」
周囲の船員たちが目を細めて船を見ていたが、その姿を捉えることが出来なかった様子だ。
「傭兵さん、それがホントかどうかは別にどうでもいい。俺達は海の男だ。沈没しかかっている船を見捨てる真似は、決して出来ない」
船員たちは自分に力を込めた目線を向け、有無を言わさない口調だ。これ以上何かを言っても無駄だろうという事が分かる。自分に出来る事はあの巨大な何かと対峙する準備をすることだけだ。
船員たちが、アンサとポメラに緊急事態を知らせに走り、縄や浮く物を用意し始めたりと忙しく立ち回り始めると同時に、船首が沈没しかけている船に向かって右に回頭し始める。
少し風の当たり方が悪いのか、速度は遅くなったがそれでも徐々に船が大きく見えて来た。そして船に巻き付いている巨大なモノの姿も鮮明に見え始める。
船に巻き付いているのは、先程まで海面で見ていたウミヘビによく似ていて、同じく赤と白の体を持った、まさしく大蛇と言える姿だ。森の中で会ったら間違いなく戦慄するであろうその姿を見て、思わず腰に手を伸ばすがそこには矢筒がない。船旅で不要な武器は自室に保管しているのだ。
「皆……武器を持ってこい」
「……はい」
まだ姿が見えていない様子のカーマイン辺境伯領の者達を連れ立って武器を取りに行く。彼らは、他の船員たちのように自分の事を疑う様子は無く、「隊長が言うなら必要だろう」と言った様子だ。こういった細かな所に彼らからの信頼を感じることが出来る。
剣を腰に吊るし、マジックアローの存在を確認して矢筒を身に着け、弓を手に取って再び甲板へと向かう。
甲板の様子は先程までと様変わりしていて、右へ左へと忙しなく動いていた船員たちが、手に荷物を持ったまま、船首の先へと視線を送っていた。沈没しかけていた船の姿はもう誰にでも見えるほど大きくなっていて、巨大な生物の存在にも感づいた様子だ。
遠くからだと傾き、沈没しかけている船に見えたのだが、近くによると更にひどい惨状だった。大きい船全体に大蛇が4周ほど巻き付き、その圧なのか分からないが2本のマストは完全に折れていて、海に浸かっている。船体は大蛇の締め付けによって、所々ひしゃげるように壊れていて、一番ひどい中央部など、大蛇が巻き付いているから原型を留めているだけで、離れてしまえば半分に折れてそのまま海の中だろう。
甲板上では船員や護衛の傭兵と思われる人たちが、必死にその大蛇の胴体と格闘し、船首付近では巨大な頭と戦っている。船の周囲にはその戦いの痕跡だと思われる人々の亡骸と、赤く染まった海が広がっているのが、落ち着いた波のせいでよくわかる。
「……おいおい、なんだありゃ」
言葉を失っているのは船員もモーラ辺境伯の者達も第三王子も一緒だった。我々も目の前に広がる惨状に、思わず息をのんでしまうがこのまま無視できない。
「アンサ!!ポメラ!!!船を平行につけてくれ!!」
船の甲板上で指揮を執り始めたが、どうしようかと戸惑っているアンサとポメラに声を掛けた。
「横にって……どうするのよ」
「倒します!!」
二人とも困惑した顔をしているのは理解できる。普通にあの大蛇と戦うことは不可能と言って良いが、自分が手を伸ばした矢筒の中には確かに、マジックアローの存在がある。マジックアローであれば、船首付近で船員と戦っている大蛇の頭のみを撃ち抜き、粉砕することが出来る確信があった。
「どうやってだ!?今すぐ離れるべきだ!我々に狙いを変えられたら堪らん!!」
先程までシーマンシップがどうとか言ってた船員が、明らかに態度を変えている。確かに陸地の上でもないこの不安定な船という足場で、一度海に落ちてしまえば大蛇に喰われるかもしれないという状況は、先程の意見を変えるのに十分な要素だった。
「大丈夫だ!!任せろ!!俺が倒すから!!」
「その手元の貧弱な弓でどうしようってんだ!」
「俺は魔導士なんだ!!」
「ま、魔法が使えるのか!?」
「あぁ!!だから任せろ!!」
「15覚醒だがな」というのは口には出さない。だが、それと同等の力がある武器があるのだ、嘘も方便という事にしておこう。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




