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9.ウミヘビ


「そこの傭兵さん手伝って貰っていいかい?」

「あっはい」


 船員たちが荷物の積み下ろしを始めていて、それの手伝いに呼ばれた。船の下では既に商会の代表である二人の女性が、第三王子とボウデン騎士爵を護衛として伴い港の商人と話を始めていた。


 モーヴ協商国旧首都での滞在は短いもので、荷役の手伝いや買い出しで時間は過ぎ、市井の屋台や大きな店を周る余裕は無い。だが違う都市の風景を見るものはいいもので、その景色のどこかに平和な世になった時に訪問できることを、となりにいる人も含めて夢に見てしまう。


 航海を再開したのは夕刻、陽が落ちる寸前だった。

 手早く出港作業をしている乗組員に手伝いを求められて、もやい綱(係留ロープ)などの巻き取り作業をしていると、自分の隊員達が慌てて出て来て手伝い始める。ライアンなんかは「貴族の方がやる様な作業ではありません。我らにお任せください」と耳元で囁き、自分を船室へ向かわせようとしていたが「いきなり自室に帰るのは不審だろう?」と断った。

 そもそもついこの間まで平民であった自身に貴族の自覚は無く、別に貴族扱いされなかったからと、へそを曲げるつもりもない。むしろ知らない事を体験する機会があって嬉しいくらいなものだ。



 協商国を出てからの航海は順調そのもので、特にどこかの国の軍艦に見咎められることも、海賊に出会う事も無かった。自分自身の船酔いも、モーラ辺境伯領を出港した当初より幾分かマシになっていて、波が比較的大人しい大陸南岸を航海している大半は、大人しく自室で寝そべっていることで乗り切る事できた。


 だが、惰眠を貪るだけの安寧が長い事続くわけがなかった。


 目的地であるスマルト共和国の港まで、あと二日となった日の昼、食事を終わらせて自室に戻ろうとした我々カーマイン辺境伯領の者達を、すっかり顔馴染みになった二人の航海士が呼びに来た。


「傭兵さん方!珍しいものが見れるぜ!」

「珍しいもの?」


 大した説明も無く歩き始めた航海士の後を追い、甲板に出てみると、そこには既にこの船に乗っている者達がほぼ全て集合している。皆一様に舷側から身を乗り出して、興味深そうに海面を眺めていた。珍しいもの見たさか、普段はあまり表に出て来ないモーラ辺境伯領の騎士たちも居て、勿論その中に第三王子もいる。

 俄然興味が沸いた我々も舷側から海面を覗いてみると、海面が赤く見えた。正確に言えば赤と不透明な白色。これは酔いそうだなと思いながらも、よくよく目を凝らしてみると、それは細い糸のような物で、どれも波打つように動いている。よく森で見る蛇を派手な色にしたようなものだ。


「こいつはなんですか?」


 隣で海面を眺めていた航海士がこちらを振り向き、「そんなのも知らないのか」と少し驚いたような表情をしている。その後に納得した表情になって


「あんたら、内陸から来たんだったな。こいつはウミヘビだよ」

「随分と…そのままですね。どこが珍しいんですか?」

「別にウミヘビ自体は珍しくないんだ、珍しいのはこの数だよ」


 確かに言われてみれば、見える範囲のほぼすべてが赤色のように見えていて、北方大公の所でみた深紅の絨毯を思い出す。どうやらこの状態は普通ではないらしい。


「俺は海の仕事やって長いが、群れているのは初めて見たよ。これだけの数が居ると少し気持ち悪いがな、ハハハッ!」


 普段通り豪快に笑う航海士を見ていると、気持ち悪いと本当に思っているのか疑問に思うが、確かによくよく見てみると、蛇が大量にいるように見えて気分の良いものでは無い気がする。これが森の中だったら絶叫モノだが、船に乗っている分には、見世物を見ているような感覚だ。ただ、目が良いからか、その一匹一匹がくっきりと見えてしまい、船酔いかウミヘビを目にした気持ち悪さか分からないものが、胃から喉にかけてどんよりと溜まっている。


 ウミヘビは船に被害を与える生物ではないらしく、その姿を見飽きた者達からぽつりぽつりと自室に戻り始めた。自分も船酔いの吐き気との戦いが始まりそうな予感がして、自室に戻ろうとした時、船首付近でウミヘビを眺めていた男が叫んだ。


「おい!おいおい!!みんな、あれ!!」


 頭に青い汗の染みた布を巻いた彼が指さす先には、一隻の船が見えた。


「あの船がどうしたんだよ」


 周りの反応は一様に鈍い。それもその筈で、目のいい自分も陽の光が海面に反射して、遠くにある船の姿を捉えるのは苦労している。普通の人なら遠くに何か船が居る程度の情報しか得られないだろう。彼は船の乗組員で慣れているから見えているのだ。

 つまり遠くに見える船の様子が明らかにおかしいと気付いているのは、自分と船の乗組員だけで、その乗組員も船が傾いている事について、すわ沈没の危機だと叫んでいるのだろう。だが、自分の目には違うものが見えた。

 太陽が雲で隠れ、一瞬海のきらめきが収まった時、その船に”巨大な何かが巻き付いている”のが見える。それは今まで見てきた海の生物よりも確実に太く巨大で、近寄ってはいけないモノだという事は、本能的に感じることが出来た。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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