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7.政治屋


「別に良いんじゃねぇか?そんなもんだと思うぞ」


 少し考えこんでいたカールの返答は、特に内容があるものではない。


「えぇ……?いいのか?」

「俺が護衛で付いているカーマイン辺境伯だって、表では高潔な人間に見えるかもしれないが、普段は冗談が好きな普通のお方だ。それにアンタだって”サー・リデル”だろ?騎士爵とはいえど、俺達から見たら貴族だ」

「うん。確かになー」

「別に、殿下は善政を敷くつもりだって言っているなら、俺たちにとっては何も害がないどころか、嬉しいくらいだろう?俺達平民から見える表面が良ければそれでいい」


 カールの言っていることは理があり、言い返す余地はない。確かに為政者として有能であれば、それ以外の面について自分達が何か引っかかろうと、それは王国に生きる者達には関係の無い事だ。

 これについては隣に座っていたフレディも同意するようで、食事を口いっぱいに頬張りながら「ふぉうっす」と言って頷いている。途中から話を聞き始めた周りの人間もカールの意見に頷いているので、自分の感覚が少しズレていたのかもしれない。


「隊長も貴族なんですから!高潔な姿勢を見せてくれないと!」


 口の中の物を飲み込んだフレディが、軽口を飛ばしてきた。


「うるさいぞ、黙って食べとけ」

「全然高潔じゃないっす!」


 フレディの言葉に周囲が笑いに包まれたところで、我々の食事が終わる。


 ぞろぞろと部屋に戻っていく皆を見送り、残ったエドガーとサルキを伴って、今度は船長室に向かった。我々の食事が終わり次第、これからの動きについて話し合う事になっていたのだ。


「お待たせしました」

「いえ、大丈夫ですよ」


 船の中で揺れるろうそくの光に照らされた、獣人の女性は慣れているのか落ち着いた様子だ。


「まだ顔を合わせたこと無かったよな?紹介するよ、こちらがモーラ辺境伯の騎士団から来たアルフレッド・ボウデン騎士爵」

「よろしく」


 物静かなのはここでも変わらず、二人と交わす言葉も少ない。その隣に座っている第三王子の紹介はしなくてもいいのだが、今回使っている偽名が”トム”という事だけは伝えた。


「そしてこちらが隊商を率いる御用商人の二人だ。ジョンブリアン商会のアンサさんとポメラさんだ」

「御贔屓に」


 今は髪を結んでいる人間のアンサと、ゆったり腰かけている獣人のポメラを紹介して席に座ろうとすると、サルキが中々座らない。どうやら視線の先にポメラを捉えたまま、離すことが出来ないようだ。


「サルキ?」

「あぁ!すいません」


 獣人の美人・不美人はどうにも自分には判断が付きかねるが、普段冷静で男らしいサルキが我を忘れて見とれるという事は、ポメラは余程美人なのかもしれない。

 一方のポメラはというと、どうも美人扱いをされるのは慣れているのか、サルキの様子を気にする素振りも無かった。逆に眼中にも無いようなサルキが可哀そうになる。


「では、皆さま揃った所でこれからの話をしましょう!」


 自分とボウデン騎士爵が話し出す機会を探り合っている所で、今回話を切り出したのはアンサだった。商売柄話をするのに慣れている彼女の話し方は、朗々として淀みがない。


「一応船は16日でスマルト共和国の港に到着します。その間に協商国に1回寄港があります。朝に到着して日没前に出港という感じですね」

「そこで荷物の積み下ろしがあるから、”傭兵団”の皆さんにも手伝って貰います」


 ポメラがこちらに視線を向けている。横に座っているサルキの表情を見てみたが、あらぬ方向を見てなんとか誤魔化している様子だ。


「分かりました」

「あとは港に到着次第、一日使って荷物を馬車に積み替えるといった所ですね。それ以降は、そちらに付いて行く形になるかと」


 ポメラが自分達とボウデン騎士爵を交互に見ている所を見ると、どうにも主導権がどちらにあるか分かりかねている。

 第三王子の護衛が完全にボウデン騎士爵率いる騎士団に持っていかれてい今、これ以上主導権を渡す訳にもいかないのが自分達だ。この話し合いを進める役目を担おうと、少し前傾して話を始める。


「我々としては、到着後10日、遅くとも12~3日でスマルト共和国を横断し、東方大公の領地に直接入る形で行こうかと……そこから東方大公の居城までは恐らく10日ほどで到着できます」


 これでどうにかカーマイン辺境伯の言っていた期間の間に到着できる。


「……異論はないです」


 ボウデン騎士爵が納得した様子を見せたので安心したが、それに続いて出た言葉に不安が煽られた。


「ただ、スマルト共和国は今、政情が不安定になっていますし、我々の王国で内乱が起きた事で、国境の警備がかなり厳しい事が予想されるのだけが懸念ですね。いざという時は突破できる場所の情報を調べてから行くべきでしょう」

「出来れば無理矢理は避けたいですね。東方大公の軍を動かしたい以上、無駄に刺激したくない」

「はい。それには私も同意します」


 第三王子の方に確認の視線を送ると、腕を組みながら静かに頷いている。これで全員の同意が取れたと言って良いだろう。そこから大体の行程の詳細が詰められて、蠟燭が短くなり灯りが消えそうな頃合いに話が纏まる。

 この話し合いで、我々カーマイン辺境伯領の存在感を示すことが十分にできた。政治屋みたいなことを自分がする時が来るとは思わなかったが、結局政治も人間の感情の上に成り立っているのかもしれないとも思える。


「あぁ、そう言えば、明後日からは少し海が荒れそうです。嵐が来そうですよ!」

 

 最後になんとも不安になる言葉を、ポメラが発した所でこの話し合いは解散となった。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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