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5.出港


 船長室で話していたことを、荷物の積み込みをしていた者を集めて説明し、あとは急いで自分達に割り当てられた船室に荷物を積み込んだ。そこから大した時間が経たず、出港準備がかかり、あっという間に船は港から離れた。

 太陽が中天に登る前に出港した商船は、ゆっくりと港から出て陸地が徐々に小さくなる。船で海に出る旅というのは初めてなので、少し冒険心をくすぐられて、期待してしまう。


「随分と希望に満ちた表情じゃないか?」


 船の後ろの甲板に一人で立っていると、唐突に後ろから聞きなれない声がする。振り返るとそこには護衛も連れずに立つ第三王子の姿があった。出航前から姿を一度もみなかったので、どこにいるのかと思っていたが、意外なところで遭遇した。


「初めて海に出るもので……先程、水が塩辛い事に驚きました」

「ハハハ!そうか、そうか。確かに塩辛い水が見渡す限りあるなど驚く物だよな。かく言う私も、モーラ辺境伯領に来てから初めて海を見た時は驚いたよ」

「はい……ところで、護衛の方はどちらに?」

「あぁ、この船の中は信頼できる者ばかりで大丈夫だから、自由にさせてもらっているよ。久しぶりに一人で時間を楽しむ余裕が出来ている……良い事だ」

「……左様ですか」


 そう言う第三王子の表情は、少ない自由を味わう表情をしている。

 いくらモーラ辺境伯を始めとする人たちが第三王子を丁重に扱っているとは言え、王子という生まれとその立場、辺境へと放逐された事実は変わらず、エメリヒという自分より少し年上の一人の青年の肩にのしかかっているのだ。その事実を猟師の子供として生まれた平民の自分が、完全に理解することは出来ない。


「あぁ、もしかして……君たちが東方大公の下へと向かうという案をくれたのに、完全な部外者の様な立場に置かれている事を気にしているのか?」

「いえ!そういう訳では!」


 確かに少し不満があるのだが、わざわざ第三王子に言う必要が無い事を、こちらから口に出す必要はない。自分の言い方が悪かったのかと少し反省する。


「すまんな。私は別にどうでも良いのだが、モーラ辺境伯の騎士達にも”第三王子を今まで守ってきたのは自分達だ”という誇りがある様でな……事実”そう”なので無下には出来ん」

「勿論……承知しております」

「ところで、まだ名前を聞いていなかったな。教えてくれるか?」

「はい!リデル・ホワイト騎士爵と申します、カーマイン辺境伯により叙爵されました」

「ふむ、よろしく頼む。君の連れていた者達の中にも、他に騎士が居るのか?」


 第三王子が今自分に訊いているのは「自分以外に”騎士爵”が居るか?」という事だろう。

 辺境伯以上の爵位の者は、叙爵できると同時に私兵団ではなく”騎士団”という名称の組織を持つことが許される。かと言って実情は私兵団の様な物で、実際の騎士爵はそれぞれの爵位によって人数が決められている。

 近衛騎士団のみは例外で、平民が多い”アーチャー”を除いた全ての者が準騎士であり、将来的に最低でも騎士爵が与えられる。それは王族を護衛する近衛という、信頼が必要な状況が生み出すものだ。


「いえ、私のみです」

「そうか、分かった……ところでリデルよ、君にはどこかで会ったことがあるか?」


 気づいてみれば、自己紹介をまともにして、第三王子にしっかりと顔を見せたのは初めてだ。だが、第三王子の初陣に同行したしたのはもう何年も前の話で、記憶に残っていたのは少し驚く。


「はい。殿下の初陣にお供させて頂きました」

「ん?初陣?」


 自分の返答に、第三王子は空を見つめて記憶を探っている様子だ。


「……という事は、近衛騎士団に居たのか?」

「はい。そのころは平民のアーチャーでした」

「あぁ!思い出したぞ!行軍中に、私の馬と君の馬を交換したか?馬の世話もしていたな!!」

「はい、仰る通りにございます」


 第三王子は相当な記憶力の持ち主らしい。初陣という緊張し続ける場面で、馬の世話をする程度の関りしか無い者を覚えているのだ。人の上に立つ者は人の顔と名前をよく覚えるものだ。と、ルーシーは貴族教育の時に言っていたが、その通りなのかもしれない。


「よく、お覚えで」

「あぁ、俺は人の顔と名前を覚えるのが得意でね。寧ろそれ位しか特技がないのだよ」

「そんな事は……」


 そんなことは無いというのは十分知っている。初陣の指揮は上手かったし、剣の腕も相当なものだったと記憶していた。他の王子がお膳立ての元に初陣を終えたらしいのに比べて、疎まれていた第三王子は最初から最後まで自力だったというのも、当時の近衛騎士団で広まっていた。


「私も普通の人間なんだ。確かに王子として生まれたが、正直な所そこまで王国に思い入れは無い」


 第三王子の口から出た言葉に背筋が凍った。もしや、このまま第三王子は逃げるつもりなのかと、思わずにはいられない。だが、自分の表情を見た第三王子は、少し口角を上げた。


「あぁ、誤解を招く言い方をしたな……責任から逃げるつもりはないよ。ただ……私の力の源は親兄弟への憎しみだ。私を疎み蔑んだ兄弟と二人の王妃に、私を見捨てた父である王」


 第三王子の瞳の奥には、静かな力強さがあった。


「必ず善政を敷き、王国の力を増して、そして……この大陸を統一する初めての男として歴史を刻む。そしてあいつらは、私を蔑んだ暗愚な者達として歴史から消える。それが私の望みで……その為に私は、賢く強く、優しいオロール国王となる事を、この世の全てに誓おう」


 呆気にとられる自分をよそに、第三王子は静かに自分の隣に並び、遠ざかる陸地を共に眺めはじめた。どこか人間としての危うさを感じさせる彼に、果たして自分達の未来を託していいのかと不安になってしまう気持ちと、逆に同じような人間だから信頼を置くべきなのかも知れないという気持ちがせめぎ合う。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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