4.商船
「ですが……」
それでも食い下がろうとするモーラ辺境伯に、第三王子は笑顔を向けた。
「モーラ辺境伯よ、以前から話していたであろう?私はこの機会を逃すつもりはない……それに、どちらにせよ動くつもりだったのは知っているであろう?」
「……はい」
「動き方の違いだけだ」
「”殿下”がそこまでおっしゃるのであれば……分かりました。ですが!こちらからも護衛は付けさせて頂きます」
何が説得の材料であったかは分からないが、モーラ辺境伯はやっと首を縦に振る。
「隊商を偽装するという話だったな?使者よ」
「そのつもりです」
「モーラ辺境伯、護衛と隊商を偽装する人間の確保、あと船の手配を頼みたい」
「承知いたしました」
領主であるモーラ辺境伯の協力を得た事で、話がトントン拍子に進み出発は二日後の正午となった。
第三王子を伴って出発できる事も決まり、まず一つ目の関門は突破した。何回か死にかけながら、東の果てまで足を運んだ甲斐があったものだ。
「準備は出来たか?」
ブルーエを出発する日の朝に散歩がてら港で乗船予定の船を見ていると、唐突に後ろから話しかけられた。そこには護衛二人を伴ったモーラ辺境伯が立っている。
「万端にございます」
「でないと困るのだが……まぁ、いい」
我々はもう味方だというのに、随分と嫌味な言い方をするのは変わらないらしい。
「第三王子の事を頼む。我々の王国を導く名君となれるお方だ」
モーラ辺境伯がこちらを見つめる表情は真剣そのもので、一切疑う余地のない第三王子に対する忠誠心が見て取れた。
「必ずや無事に東方大公の下へとお連れします」
「あぁ……”必ず”頼むぞ」
そこから少しの間モーラ辺境伯と雑談していたのだが、どうやら悪い人ではない事は伝わる。一言多いのが玉に瑕だが、それは王国と第三王子に対する忠誠心から来るもので、我々の遭遇したデンドロやグリフォンの話をすると、優しくねぎらいの言葉を掛けて来た。
モーラ辺境伯とこれからの事について長らく話した後、散歩を終えて宿に戻ると出発まで大した時間は残されていない。急いで準備を済ませて港に戻ると、既にカーマイン辺境伯領側とモーラ辺境伯領側の人間が集まって荷物の積み込みをしていた。
「隊長、モーラ辺境伯がお呼びです」
「ん?分かった」
大きな荷物を背負って言われた船長室に向かうと、そこにはモーラ辺境伯と二人の男女と、一人の獣人の女性がいた。
「お呼びでしょうか?」
「来たか」
呼び出された理由はどうやら顔合わせだったらしく、今回の旅の仲間を紹介される。
背の高い男はモーラ辺境伯の任命した騎士らしく、彼とその部下は護衛として参加するそうだ。「どうも」とだけ言葉を発して、物静かで優しげな印象を受ける彼だが、目線は鋭くこちらを見定めている。
見た目の美しい大人の女性と獣人の女性は、隊商を率いるモーラ辺境伯家の御用商人で、船を用意したのもこの女性達らしい。更にどうせならと本物の商品を沢山積載していて、この機会を使って商売するという話だった。
この状況でも商魂を失わないその気概は尊敬できるのだが、本人達は「これ以上に安心出来る旅路もないでしょう?」と言っている。
「エメリヒ殿下はもう少しでこちらに来られる。そうしたらすぐに出発してくれて構わない」
「はい」
モーラ辺境伯の許可も出ていざこれから出発だという所で、獣人の女性がこちらを向いた。いきなり何事かと身構えてしまうが、綺麗な声をした彼女の口から出て来たのは注意事項だ。
「今回我々の隊商で、エメリヒ殿下の存在を知っているのは私達のみです。私たち以外には、殿下の存在を口外しないようにお願いします」
「えっ?そうなんですか?」
「エメリヒ殿下の脱出を知られると、殿下も我々も、必ず面倒なことになる。知っている人間は少ない方が良い。これからは殿下は体調不良で部屋で療養している事にするつもりだ」
自分の疑問に答えたのはモーラ辺境伯だ。彼の言っていることは考えてみれば当然のことで、エメリヒ第三王子に及ぶ危険を少なくする意味でも、知る人間はなるべく抑えた方が良いだろう。
「分かりました。では、隊商の護衛以外には第三王子の存在を隠すように伝えます」
今回同行するのは、二人の女性を含む商会の人間が8人と、護衛としてモーラ辺境伯の騎士団から10名だ。それに我々が加わり、29人が船に乗り込む。それに船を動かすための船員が自分達より多くいた。部外者が自分達より数がいる以上、話す場所と内容には細心の注意を払わなければいけないだろう。
「あぁ、そうしてくれ。今回の取引は私の資産を扱う関係で、このアルフレッドが護衛の騎士団を率いて向かうという形を取っている。エメリヒ殿下はその騎士団の一人とする。君たちは料金を貰って乗せる傭兵団という感じだ」
「承知しました」
第三王子をモーラ辺境伯の騎士団の一人とするという事は、我々が簡単に接触できるような状況ではない。どうにも我々が完全に部外者のように扱われているようだ。東の果てまで足を運び説得したにも拘らず、信頼されていないというのはどうにも納得がいかない。
だが、第三王子をいきなり顔を出した他家の騎士に預けろという方が無理難題だという事は、こちらも重々承知しているので仕方がないと整理をつけた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




