1.ブルーエ
王国のワイングラスの底、東の果ての港町はブルーエと呼ばれている。
元々はモーヴ協商国を形成する一つの国家の首都であったが、最も弱いその国は王国が持った海への野望によって王国領となり20年が経った。
そして現在、港町と言うには少し規模が大きく、港湾都市と言うには規模が少し小さい”ブルーエ”は、王国に2つ存在する辺境伯家の一つ、モーラ辺境伯家の領地となっている。
我々がそのモーラ辺境伯家の本拠地となっているブルーエに到着したのは、カーマイン辺境伯領を出発してから43日後のこと。問題だった北方樹海からの移動手段は、一番近くの村から馬車を買い上げた。それなりの値段を吹っかけられたが、渋々承諾して男9人が幌馬車の中に詰め込まれている。
「街の大きさの割に人が多いですね」
馬車で隣に並ぶエドガーが、ブルーエの街中の様子を見て呟いた。
街の外観は低い城壁とそれなりの規模の市街地しか見えず、ノルデン城に近しいものかと思ったのだが、行き交う人の数も種類も様々で活気に溢れている。それは”王国の東の果て”と聞いていた雰囲気からかけ離れていて、十分な都市と言っても良いものだった。
「随分と栄えているな。ノルデン城以上、タリヴェンド城よりは流石に劣るか」
「正直なところを申し上げれば、東の果てと聞いていたのでもう少し寂れているかと」
「モーヴ協商国を形成している時は違ったのだろう?」
「はい」
このブルーエにあった協商国の一つは、最北であった為に北の海賊国家ヴァトーに貿易船の襲撃を受け続け、他の協商国家よりも軍事予算に金を割かなければならず、それでも貿易船の襲撃が有ることで慢性的に貧乏だったという事を、エドガーが言っていた。
「隊長、あそこに門が」
「ん?そう言えば手形を確認されていなかったな。ここはまだ中心街じゃないのか」
自分達が中心街だと思っていたブルーエの風景は、門外の自由市のような場所だったらしい。それにしては普通に建物も建っていて賑わっている。
門に到着すると長い長い行列を待たされ続けた。昼頃に到着した我々が審査を受けることが出来たのは、夕刻の鐘がに鳴った頃だった。既に日は落ちかけていているが、辺りは店の明かりや人が多い事で昼間の様な明るさをしている。
「はい次どうぞー」
「どうも」
「出発手形見せてね」
いつも通りの慣れた様子で確認した門番が、少し眉をひそめた。
「ローシェンナのどこも通ってないの?」
「はい、少し急いでたもので。お陰で食料も水も丁度無くなってしまいました」
「ふむ……ここに来た目的は?」
「避難ですよ。大陸中央がきな臭いもので、戦渦に巻き込まれるのは御免です」
「でも、格好からして傭兵団とか冒険者だろう?かき入れ時じゃないか?」
「戦争に絡んでも良い事ないですから」
「まぁ、それはそうだ」
「ところでお兄さん。この街でデカい酒場とかありますか?」
「あるよ。道を真っ直ぐ行ったら広場の手前に分かりやすいのが」
「ありがとうございます」
「まだ通すとは言ってないんだがな……まぁいい。行って良し」
途中のローシェンナ地峡で、どこの街にも寄っていない事を相当怪しまれている様子だったが、何とか嘘を並べて乗り切った。そして情報が集まる酒場の場所を聞けたのも大きい。我々は適当な宿を見つけて馬車と荷物を置くと、さっそく酒場へと繰り出した。
「いやぁ、正直疲れましたね~。デンドロとかグリフォンに遭遇した時は、終わりかと思いましたよ~」
「フレディ、少し黙れ」
「え~隊長~、少し付き合ってくださいよ~」
フレディは酒に弱いわけではないが、酒癖が悪いのを忘れていた。情報収集の為に周りの話に聞き耳を立てていると、ついつい量を飲んでしまっていたようで、目が座ってこれまでの旅の愚痴なんかを、聞いてもいないのに話し始めている。
ずっと喋る事を止めないフレディに呆れながら周りの様子を見ていると、隣にカールが滑り込んで来た。
「隊長、大体わかったぜ!」
大酒飲みのカールが少し顔を赤くしているので、かなりの量を飲んでいるのだろう。普段の周囲に響く熊の様な声をなるべく落とそうとしているのか、顔が近く随分と酒の匂いがした。
「本当か?」
「あぁ、第三王子はブルーエ城内にいるそうだ」
「監禁されているってことか?」
「まぁ、適当な郊外じゃなくて城内にいるんだから。そうじゃねぇか?」
「困ったな。まぁ他の奴が戻って来るまで待とう」
分散してそれぞれの団体から情報を集めていた隊員達が、続々と帰って来た。その口から決まって話されるのは「第三王子はブルーエ城内にいる」という事だった。全員集まった段階でそれしか聞かないのであれば、決定的と言える。
郊外の邸宅とかに軟禁されているのであれば、接触の方法は幾つかあるのだろうが、城内にいるとなると、必ずモーラ辺境伯に伝わってしまうだろう。そうなれば身分も明かさない訳に行かない上に、断られることは簡単に予想できる。もっと悪ければ捕らえられて、モーラ辺境伯が味方する勢力に急使が走るだろう。城に忍び込む選択肢を一瞬思い浮かべたが、そもそも城の構造を一つも知らないので不可能であった。
「さて、どうしようか」
酒場を出る前に最後の一杯を飲み干すと、本音が口から零れ出た。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




