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4.ケビ・シャルトル郡令伯爵


 敵は伯爵の周辺を固める十分な訓練を積んだ騎士達だ。いくら我々が、辺境伯領で選りすぐりの者達だと言えど簡単に行かない。一斉に斬り合いの乱戦となった森の中の少し広い道は、敵味方の怒号が飛び交う戦場となった。

 自分とフレディ、カンブリーの三人は一歩後ろに下がり、荷物の間に隠した弓と矢筒を取り出して、味方へ援護の準備をする。乱戦の中で既に数人の敵が倒れているのは、ライアンが切りかかると同時に、それぞれが手近にいた敵を倒していたのだろう。


 敵から矢が飛来することはない。幸運なことに相手には、アーチャーが居ないようだ。それだけでこちらの人数不利が多少はマシになる。


 矢筒の中から一本の矢を取り出して、引き絞った。まず最初に狙うのは、敵の指揮役。郡令伯はどうせお飾りなので、実際に指示を出している奴を狙う。

 放たれた矢は、真っ直ぐ指揮役の首元に吸い込まれていった。


 いきなり指揮役を喪失した敵に、少しの時間動揺が広がる。その隙を見逃す程甘くない我々だが、敵の練度も高く、直ぐに次の指揮役が出て来る。だが、その男も再び放たれた矢によって絶命した。

 二人目もやられたところで学習したのか、三人目は味方二人の盾によって守られながら指揮を執り始める。しっかりと守られている敵の指揮官を射抜く術はない。あとの仕事は味方の援護だ。


 戦闘は人数不利にもかかわらず、我々の有利に進んでいく。主たる原因は、敵にアーチャーが居ない事。例え1人に3人で当たる事ができても、間髪無く飛んでくる我々の矢に妨害され、射抜かれる。矢の方向に盾を向けようものなら、我々の前衛が切り伏せる。


 最初は人数差で押し切れると思っていた敵も、一方的に倒されていく状況を見て、援軍を呼ぼうとしているようだ。二人の男が馬首を返し、軍団が居た方向に向かって行こうとしている。


「フレディ!カンブリー!少し皆を任せた!!」

「「はい!」」


 走り出した2人組は、まだ300ftも離れていない。

 風は左から吹いている。ゆっくりと引き絞った弓から軋む音がした。


 風切り音と共に進んで行く矢は、先を急ぎ真っ直ぐ進む左の男に吸い込まれていく。

 敵を貫くのを見届ける前に、二の矢を継ぎ、放った。


 最初に喉を貫かれた左の男が馬から崩れ落ち、続いて驚き振り返った右の男の首に矢が突き刺さったのが見える。2人は落馬して、暫く地面でのたうち回った後、動かなくなった。これで平原にいた軍団に伝令が行くことはないだろう。

 

 乱戦はまだまだ続いていて、まだまだ終わる気配がない。味方に斬りかかろうとしている敵に矢を放ち、小隊の指揮をしている熟練の騎士に向かって矢を放ち、逃げ出そうとした敵に矢を放ち、その後もひたすら敵に向かって矢を放ち続ける。

 馬に乗っている敵は粗方倒し切った。あとは我々と戦っている徒歩の前衛と、目立つところでオロオロしているシャルトル郡令伯爵と、その周りを固める二人の騎士くらいなものだった。


「ケビ様!お逃げください!」


 そうひとりの敵騎士が叫んだのは、我々との人数差が完全になくなった頃だった。大きな腹を揺らしながら、二人の騎士に守られて離脱しようとしているシャルトル伯を、そう簡単に逃がすわけがない。


「フレディは右、カンブリーは左だ」

「はい」


 両隣の騎士に狙いをつけた二人が矢を放つ。それに続いて自分がシャルトル伯に矢を放った。

 両隣でシャルトル伯の後ろに盾を掲げていた二人は、自分の方向に向かってくる矢に思わず盾をずらした。その盾の隙間を自分の矢が通り、シャルトル伯の首に突き刺さった。そのまま首を抑えながら落馬するシャルトル伯を見た護衛の二人が馬脚を止めた所に、フレディとカンブリーの二の矢が突き刺さり、苦しそうにしている。


 これで全ての決着が付いたと言っても良かった。あと残っているのは、漏れなく数本の矢が突き刺さっている前衛の騎士達だ。彼らが必死に逃がそうとしていた伝令も、伯爵も既に命を落としている。それでも投降しないのは、彼らの騎士としての誇りだろう。



「片付きましたね」


 広がる惨状を目の前に次の動きを考えていると、ローブを赤黒く染めたエドガーが隣に並んだ。


「あぁ、負傷した奴はいるか?」

「細かいのは全員です。深いのは3人」

「動けないほどか?」

「いえ、ですが傷は焼きたいですね」

「分かった」


 3倍の人数といきなり乱戦になったのだ。一人も死ななかっただけで、かなり上出来と言える。だが、傷を焼くとなると、火魔導士の医者がいる街に行かなければならない。


「全員、巡礼者の格好を捨てよ!次の街に今日中に向かって、今日中に出発するぞ!」


 赤黒く染まった巡礼者のローブなど、自分達が怪しい人物だと主張するだけだ。

 ローブを脱ぎ捨てた我々の格好は、そこらの冒険者や傭兵が着るような革鎧だった。この革鎧は特別で、胴体のみ裏側に鉄板を張っている。


「傷はしっかり止血しておけ!先を急ぐ!」


 先に進み始めた我々にとって、今の敵は時間だ。平原にいた軍団が異常に気付き、シャルトル伯が死んだことを知り、周囲に急使が走る前に、街に入って傷を治し、出発しなければならない。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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