6.再編成
南軍の後背面へ我々が出現するまでは大した時間はかからなかった。
我々は王都周辺の踏み固められた場所を抜けて、東に広がる麦畑の上に到達している。地面の軽く沈み込む柔らかさが、馬の背中越しに伝わって来た。これが春先や秋口の固まった地面であればもっと動きやすかったものの、春先に耕され雨季を通り越したばかりで背の低い青麦が生い茂る地面は、どうにも馬の歩様が緩やかになった。
別にこれが悪い事ではない、先程まで全速で敵陣を突破したのだ。白い汗をかいている馬にとっては丁度良い休憩であろう。
後方ではついに前線へと取り付いた歩兵達と、右翼の崩壊を防ごうと戦うカタラーニ侯の戦闘が始まっている声が聞こえた。
「団長前に!!」
後ろを振り向き歩兵隊の戦闘の行方と、追撃を仕掛けて来ている敵騎兵の姿を目で追っていると、隣に居たカンブリーが指を差していた。自分の前には背中がデカいカールとその部下たちが立っているためによく見えない。(もう反応したのか!?予想より敵の動きが早すぎる!)なんてことを考えていたが、カンブリーの表情はどちらかと言えば喜色を浮かべていた。
カール達の背中の隙間から首を伸ばし、やっとのことで正面を確認すると、そこには見覚えのある旗が先頭を走っているのが見えた。これを自分の口からエメリヒ王に報告する。
「陛下!正面よりマロカン侯の旗が!!それに奥には東方大公の旗も!」
「真か!?」
「はい、私の目にはハッキリと」
「よい!良いぞ!!」
エメリヒ王の考えた作戦はここまで順調であった。
ダミアン・エーリヒ第二王子の盾と剣であるカタラーニ侯とヴィアネッロ侯は、その相性から引き離さなければならず、必ず指揮をする為に両翼の中央部に居る。更に敵陣形の両端は、最近徴兵された兵士や北軍の敗残兵が入り混じり、練度がかなり低い状態であった。これを利用した。
南軍が到着したばかりの静かな朝に早朝の奇襲を行い敵の虚をつく。目標は簡単に崩れると思われた最両翼で、これを一瞬のうちに突き崩し、騎兵は出来る限り敵陣を押し込む。
この行動で、必ず両翼に配置される二人の侯爵はそれを食い止めようと増援を率いて来るだろう。この二人が目の前に現れると、簡単に突破は出来ないのは分かっているため、騎兵は歩兵に後を任せて敵後背面へと抜ける。
そして……盾と剣から引き離され無防備になったダミアン・エーリヒ第二王子の本陣へ、背面に回った東軍の騎兵が合流し突入する。無論これには多大な犠牲が出るだろうが、兵数で劣る我々には最も有効と思われる一手であった。
「投石が来たぞぉ!!!」
誰かが上げた声に反応して、全員の視線が城へと向かった。
視線の先にあるのは、上空を切り裂く大小様々な石と矢…それに新たに加わった甕の中に油を詰めた油甕だ。それらが次々と南軍陣地に降り注ぐ。
これらは我々がこの短い間で塔の上にオナガーを隠して再設置し、広い通路に設置したトレビュシェットから撃ち出されたものだった。これらの姿が見えていなかった為に少しだけであるが、我々の投石の射程圏に南軍は布陣していたのだ。
これらは圧倒的な質量で敵兵を潰し、天幕を潰し、油甕は着弾した周囲に油をばら撒いた……ばら撒き続けた。着弾の度に聞こえる南軍兵の悲鳴に、我々は歓喜した。
2度、3度、4度と繰り返された投石の後、東の正門の上でわずかに煌めく光が自分の目に見える。
そして、聞こえる悲鳴と噴き上げた炎が南軍の前面を包んだ。火炎魔導士が撒き散らされた油甕に向かって、火炎魔法を放ったのだ。これは一般的な守城戦の戦法だった……先にオナガーを破壊していなければ我々も食らう事になったであろう残酷な空からの死だ。
夏の快晴になった空には敵の悲鳴と、黒い煙が吹きあがっていた。
「陛下!!面目ない!!」
合流した東方大公が最初に言った言葉は謝罪だ。
この間にも我々は足を緩めたのみで止めていない…徐々にだが確実に南軍本陣へと迫っていた。これは東方大公麾下の諸侯とその騎兵の優秀さだ。
「どうした!!」
「ヴィアネッロ侯の突撃を止める際に、騎兵を残さなければならなかった」
「猛攻のヴィアネッロ侯!流石と言ったところか!」
どうやら我々東軍の突撃を止めるために、逆に500程度の騎兵で突撃を仕掛けて来たらしく、それが止まらなかったという事らしい。
「よってここに居るのは騎兵1000のみです」
「構わん!さぁ、行くぞ最後の戦だ!!」
エメリヒ王は味方の数が予定より減った兵数を気にする素振りを見せない。
騎兵が1000も減って3000程度という大幅な減少にもだ。もはや、ここまで敵と組み合ったのだ。退く選択肢はないという事であろう。
「隊形を整えろ!」
エメリヒ王の一声で3つの列となっていた部隊と合流した東方大公麾下の軍が再展開を始める。
馬を走らせながらでも、その声に反応した騎兵の動きは滑らかなものだった。徐々に広がり始める3つの列と東方大公の軍は、それぞれの貴族が率いる騎兵隊ごとに突撃隊形である鏃の形へと姿を変えた。更にこれが連なり全体として大きな鏃の形…鋒矢陣形を構成した。
前衛が鏃の形となり、それに続き、守られるシャフトの部分に我々近衛とエメリヒ王が入る。
これの矢の先端は、東方大公軍の先鋒を担って来たマロカン候である。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




