4.自覚
土魔導士は倒した。だが、仕事はまだ終わりじゃない。
さらにもう一本、マジックアローを背中から抜き取った。
今までの事を考えたら随分と大盤振る舞いだが、これが最終決戦なのだ。出し惜しみをしている場合じゃなかった。
目標はエメリヒ王子を囲む南軍兵…右側だ。そちらが槍を持つ兵の列が長かった。より大きな被害を与えられるだろう。今度は少し多めの魔力で…槍衾を組み、お誂え向きに縦一列に並んだ奴らを吹き飛ばす。
放とうと思った瞬間だった…いきなり順調に跳ねていた体の下にある馬体が沈み込んだ。
原因は先程まで魔力を掛けられていた地面だった。土魔法によって軟化した地面に馬が足を取られたのだ。唐突にバランスを崩したことで、しっかりと口から「クソ!」と悪態が出る。
目の前には今にもエメリヒ王に向かって、槍を突き出さんとしている兵士が見える。
時間が無いと焦りながら矢を番え直したところで、足元に慣れた馬がやっと体勢を安定させた。
「風よ」
体にかかる衝撃は先程より大きく、足で馬の腹を押さえていなければ落馬していたところだ。
馬上で体勢を戻すと一列に並んでいた南軍兵は、少し…そう、体と思しきものを残して血の海に代わっていた。
ここで自分は自覚する……今ままで射抜いてきた兵士達が王国兵であったことを……
どうにも、帝国兵をマジックアローで吹き飛ばしたのと違う感覚だ。
帝国は自分が生まれた頃から敵で、あいつらは悪で自分達が正義だという気持ちがあるのは間違いなかった。だが、今はどうだ?同じ国の人間を跡形もなく吹き飛ばしたのだ。
遠距離で敵を射抜き、体に矢が刺さる。マジックアローを使い、敵の体に穴が開く。
目に見える血の量が少なかったからか、それとも死んでいないかも知れないと心に言い聞かせる事が出来ていたからか、今、この場……一年を通して戦ってきて、やっとここで際限なく心の中に罪悪感が出て来る。
ヴァルリッカに火を放った時にも、少しの後悔が生まれたが直ぐに消えた。忘れることが出来た。
それは自分が手を下したわけではないような気がしたから。
でも今回は違う……自らの意思で以って、自らの魔力で以って明確に10人以上の王国人を吹き飛ばしたのだ。込み上げる吐き気を抑えることが出来ない。
徐々に馬脚を緩め、体を傾けて胃の内容物を吐き出す横を、味方の騎兵達が走り抜けていった。
僅かに足元のみを視界に捉えたそれは、自分の近衛第二騎士団で東方騎士団から来た者達。普段先頭を切るカールやサルキの獣人達は体が重いからか、今回少し遅れている。
一通り朝飯を吐き出し、馬鎧の右後ろが汚れていた。
自分を追い抜かし先頭に立った騎兵達は、ボウデン騎士団長と共にエメリヒ王の元へと駆け付ける。
先頭を走っていた騎兵は、エメリヒ王に正面から向けられた槍衾に突っ込み、馬体で槍衾を押し込んでいた。勿論、突き刺さった槍は馬の息を止めるだろうが、騎馬の突進を人間が槍の1本や2本で受け止める事など出来る訳がない。左の槍衾の間に割り込んだ騎兵と共に、易々とエメリヒ王の苦境を救っている。
その場に駆け付ける事はどうにも出来ない……なにか卑怯な事をしているような気分になっている。
「おい!どうした!?どこをやられた!?」
もはや速歩程度の速度しか出ていなかった自分に追いついたカールが、他の騎兵達と共に自分を守るように周囲を囲んだ。その中にはサルキの姿も見ることが出来る。それにフレディを始めとする騎乗したアーチャー達も。
「……いや。大丈夫だ」
「おい正直に言え!」
カールは盗賊を連行するかのように、強引に腕を掴む。
自分から何故かを言うまで話さないといった構えだった。
「……あれだよ」
指さした先に広がる血の海は、先程よりも確実に近づいていた。暖かい血の匂いを感じそうなほどだ。
一方のカールはと言えば、それがどうしたといった雰囲気である。
「マジックアローか?」
「そうだ」
「あぁ、そう言う事か……今になって内戦というものを自覚したのか」
静かに頷いた自分を見て、カールは手に持った戦鎚をブンブンと振り回し始め「代わりにやったろうか?団長さんよ?」と冗談を飛ばした。が、その後すぐに真顔に戻る。
「あんたは俺らの指揮官で、信頼されている指揮官だよ。これで勝たなきゃアンタに射抜かれた奴らも報われんだろ」
「随分、独りよがりじゃないか?」
報われるだとか、なんだとかは殺した側が好きかって言ってるだけでしかない。
「それが戦争って奴だろ。お互い独りよがりで戦ってんだ、結局はどっちの主張を押し通す事が出来るかしかない。帝国と王国の戦争の切っ掛けなんて、川の中州がどっちのモノなのかから始まって数十年続いてんだ」
「それはそうだが……」
「勝ちゃ正義だ、勝てば全てが解決する。アンタに付き従ってきた俺らを正義にしてくれよ」
カールの言葉にここで確かにもう一度決意した。
別に自分が誰を殺すだとかはどうでもいい…それを今更振り切れるわけがない。そんなのとっくの昔から、自分が生まれる前から始まっている事なんだ。ただ、今は自分の横に並び、後ろを支え、前を切り開く味方の為に勝たなければならない。
カールには「任せろ」と一言だけ返す。
静かに再び加速を始めた馬の背が、自分の迷いを揺れと共に落としていく。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




