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13.無茶


 大小の切り傷はあるが、ひとりの犠牲も出すことなく城内へと無事帰還した。我々の偵察任務はこれにて終わった。エメリヒ第三王子の言う通り、これも威力偵察だったかもしれない。


 正門の裏で馬を降りると、城壁の上へから声が掛かる。エメリヒ第三王子だった。


「王国近衛第二騎士団、只今戻りました!報告いたします!」


 諸侯は自分達の戦いを見ていたようで、この場に来れる貴族は全員が北正門の上に居た。であれば、我々の動きと敵の動きは全て見えていた筈。だが、報告までが伝統で通例だ。

 自分が”前の”近衛第三騎士団にいた頃。昔の記憶にある、近衛第三騎士団長のようにエメリヒ第三王子の前で跪いて見せる。


「ご苦労であった。報告を受けよう」


 その伝統に則った形式を察したエメリヒ第三王子は、わざとらしく鷹揚に口調を合わせている。


「近衛第二騎士団は、北正門より出撃し敵右翼と交戦いたしました。敵の士気は高く、食料、装備などの補給事情は良好…しかし、敵の練度は低く、隊伍はばらけ、動きも悪い状態です。敵と比べ、我々の方が練度で圧倒しております!」


 勢い込んで報告したものの、エメリヒ第三王子の後ろに並ぶ諸侯の反応は良いとは言えなかった。


「よく敵の実情を見極めてくれた」


 更に、エメリヒ第三王子の反応も良くは無かった。


「次は、敵左翼に威力偵察を行え」

「……はっ!い、今からでしょうか」


 エメリヒ第三王子が静かに頷いたのを見て、その場で立ち眩みを起こし、しゃがみ込んでしまいそうになる。

 確かに今回の偵察では先頭のカールを始め、多少の小さい傷を受けた者はいるが、負傷者という程のものは一人も出ていない。だが、それはそれとして今やらなければならない理由は何だろうか?自分達近衛第二騎士団でなければならない理由は何だろうかと問いただしたくなる。


「敵はまだ態勢が整ってない上に、反対の左翼側に右翼の状況が知らされれるのは時間がかかる。知らされてからでは、十分に我々を迎え撃つ準備が出来るだろう」

「であれば……」


 思わず口から「近衛第一騎士団にお任せしては?」と言葉を繋ぎそうになり、慌てて口を閉じた。王命に逆らう上に、自分達が臆病と呼ばれる事態を招きかねない不名誉な言葉だ。


「…今すぐに向かいましょう」


 あぁ、また無茶な用件を受けてしまった。もはや、我々は王の小間使いだ。


 まずは下で待っている近衛第二騎士団に、城壁の上でエメリヒ第三王子に言われた言葉を伝える。無論の事、皆の表情は「本気ですか!?」と言いたげだが声が十分届く城壁の上から見守る”エメリヒ王”の手前言う事が出来ない。


「南正門へ行くぞ、近衛第二騎士団…前進」


 先程までの高揚感も元気もない、皆渋々と言った様子で自分の後ろに付いて動き始めた。


「団長!」


 城壁が建物の影に消えて、自分達のみが道を歩く段階となって、後ろから皆を代表してアントンが声を上げた。「なんだ?」と形式上返すものの、彼らの言いたい事は聞かなくても分かっている。

 それぞれの口から漏れ出る文句を、それなりにあしらい、命令だからと宥めるしかない。普段文句を言わないエドガーやカンブリーなんかも声を上げている。


「…分かった!お前らの言い分は十分わかる。だがな、これ以上の文句は言わせない…これは王命で、我々は王の側近たる近衛第二騎士団だ!覚悟が無いならこの場で辞去し、元の部隊に戻るがいい」


 自分の後ろから聞こえていた声が止んだ。横目で後ろを一度確認すると、皆一様に口を噤んで、下を見るか明後日の方向を向いている。少し言い過ぎたかと思うが、団長として皆を窘めなければならない場面だ。

 それに、文句を言いたいのはこちらも同じなのだ。自分が後ろに従う立場だったら、それはそれは大きな声で喚いていただろう。


「いないのか?では、この話は終わりだ。次の任務に集中しろ」



 我々が南正門に到達した時には、いつの間にか諸侯が先回りしていた。馬の交換に戻った時間に、追い抜かされたのだろう。


 今度も北正門の時と同じ隊形、同じ門裏で待っている状況だ。

 抗議の意味を込めて、今度は城壁の上にいる筈のエメリヒ第三王子を見る事はしなかった。


「近衛第二騎士団…進め!!進め!!!進め!!!」


 つい先程と同じく南門を勢いよく飛び出した我々は、同じ機動で同じように南軍最左翼を狙った。

 こちらは、右翼と比べて若干木柵の設置が進んでいるが、それでも大して状況は変わらない。目の前の左翼軍は、北軍の生き残りのうち南軍に付いた者達と、ヴィアネッロ侯配下貴族の混成部隊だった。


「ふむ」


 手応えが無い。

 正直豪放磊落・猛攻のヴィアネッロ侯の配下もいると聞いて、多少の苦戦を予想していたのだが、右翼軍と大して変わらない練度だった。それに混成軍のせいか、動きが更にバラバラだ。

 特にヴィアネッロ侯の配下は無理な戦闘と移動を重ねたからか、士気もあまり高くないように感じる。


 犠牲をを全く出さずに、剣を空振りしたような感覚のまま偵察を終えて、このことをエメリヒ第三王子に報告すると、彼は城壁の下に見える南軍を見渡して静かに頷いた。


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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