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12.偵察


「近衛第二騎士団…前進!前進!前進!!」


 カールが光の中へと蹴りだし、自分もそれに続いた。

 日陰から日向に踊り出たことで、目が慣れるのには少し時間がかかる。徐々に晴れる自分の目に映ったのは、包囲陣地の作成を始めている南軍の姿だった。こちらが跳ね橋を落とした事に気付いているのは近場の部隊だけで、他の場所ではまだ作業を続けている。特に目標の敵最右翼、我々から見て左手の部隊は悠長に木柵を建てようとしている最中だった。


「おい、おい」


 馬と人間の荒い息遣いの狭間で誰かが呟いた。

 その言葉には「油断しすぎじゃねぇか?」という続きがある。それほどに南軍はこちらの奇襲を予想していないかのような振る舞いをしている。

 籠城を選んだから出て来ないかと思ったか?臆病風に吹かれたかと思ったか?随分と気楽なものだと思ったのか?だからその油断を見て南の弱兵なんて言われるんだ。南の暖かい空気に漂う緩さから来るものか、もはやそういった気質なのかもしれない。


 我々の姿を確認した正面の敵は何かを叫び仲間を呼んでいる。未だ警鐘は鳴らされていない。


「左へ!!」


 勢いを殺さないために、北正門から出て真っ直ぐ敵陣に突き進んだ我々は、丁度南軍と城壁の中央で一気に左方向へと向きを変える。

 この段階になってようやく南軍の右翼全体が我々の存在に気づき、警鐘が鳴らされた。右翼の軍隊はそのかき鳴らされる音で気づいた様子で、武装せずに木柵の準備をしていた者達が、慌てて陣の内側へと入って行く。

 その姿を横目に見ながら我々はヴァストリバー方面、西へとひたすらに駆けて、南軍最右翼の端に到達した。


「右ぃえぇ!!おらぁ、突撃だぁ!!!!端でのんびりしてる奴らを刈り取れ!!!!」


 一方的な展開を予想し、昂る自分の気合を入れた声に反応して、近衛第二騎士団は右へと向きを変えた。足元はまだ安定している。南軍は河原近くまでは展開していない様子だ。


 先頭を走るカールが、背中の戦鎚のひとつを引き抜き右手に持った。

 凄まじい勢いで近づく敵陣の端には、恐怖の表情で振り返りながら背中を向けて走る南軍の兵士が見える。そして若干陣形が右手側に寄った。


「だらぁ!!!」


 カールの声と共に、血しぶきが上がった。

 右手側を守る騎兵の馬に隠れて敵兵の姿は確認できなかった。だが、死んでいる。間違いなく。


 交じり合う敵の怒号と、味方のウォークライ。戦場で我々が圧倒しているという感覚に背中が粟立った。

 部隊の体勢を立て直そうと、我々の針路方向へ徐々に集まり始める敵兵。その後ろに大声を張って指示を出す男がいた。土木作業をしていたせいか上裸の奴らがいる中で、そいつは鎧と帯剣をした格好だ。

 馬に括り付けた矢筒から一本矢を引き抜いて、そいつに狙いを定めた。自分の右側前方にいるそいつは、狙いづらい事この上ない。だが、そこが弓の扱いの上手さを魅せるところだ。


 狙いは露出した顔面だ。

 自分の馬の揺れ、味方が乗る馬と木柵の切れ間のタイミングがあった時、引き絞った弓から放たれた矢は、敵の眉間に真っ直ぐ進み、吸い込まれる。


「一人目!」


 後ろに続く味方も出来る者は右側の敵を撃ち、出来ない者は帰りに備えて弓を温存している。


「二人目!!」


 今回は少し近めの敵兵恐らく小隊長程度の奴だ。それかリーダシップのある奴…どちらにせよ味方に積極的に声をかけていたのが良くない。


 走りながら、めぼしい指揮官のような奴らに向かって矢を放ち続ける。それと並行し、本来の任務である敵の観察を行った。

 敵の集まりは疎らで統率は緩い…が、兵士の顔に飢えた様子はなく食料には困っていない。それに騎兵の我々に歩兵で対抗しようとするとなれば、部隊の士気は高いだろう。この南軍最右翼は、新たに参加した南方諸侯の軍であるらしい。であれば最後の戦闘はかなり前、統率が緩んでいるのはある程度予想された範囲。


 士気に比べて練度は低い。馬上に向かって繰り出す槍の力は弱く、動きに切れも無い。それに士気に頼りでまとまらず、飛び交う号令の下に適当に個々人ごとに仕掛けて来る所を見ると、練度は予想以上に低いかもしれない。もしくは弱兵の南軍と呼ばれるだけあって元々の素質なのか…集団戦を得意としていた北軍の兵士達とは大きな違いを感じる。


 一つ一つの敵に注目し、観察しながら駆け抜けるとあっという間に敵の最後方まで抜けていた。

 自分から見て右側、南軍の右翼中央方面に砂煙を上げて近づて来る集団が見えた。恐らく、南軍右翼本陣の騎兵だろう。我々が突破した後の追撃を担当するつもりか?残念ながら、我々は敵に囲まれた城に帰らなければならない。


「反転!!」


 自分の声に反応して集団は左へと急速に曲がって行く。

 敵からは少し距離を取った所を駆け抜けながら、正面に目線を向けると王都の高い城壁が見える。それに我々を迎え入れる為にもう一度開き始めた門。

 味方のアーチャーは左側に敵を見る事で撃ちやすくなったために、行きがけの分まで撃ちかけていた。それを見て敵は盾を持ってくることは無い。物陰に隠れるのも遅い。


「これは…予想以上に練度が低い」


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。

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