11.南軍
辺り一帯に立ち込める朝霧が晴れると同時に現れた南軍は、息をのむほどの大軍だった。
本当に2万か?と兵士のみならず諸侯まで考えたに違いない。自分も城壁の上から見た時にその眼を疑わざるを得ない。実際後々分かった所でも、2万の軍勢であることに間違いなかったのだが、この時はその数に圧倒された。
王城の攻略準備は昨日をもって整っていた。だが、その攻略計画は延期となった。
「さて、敵は攻城戦の準備を始めた。ここからが、我々の最大のチャンスだ」
敵の姿が見えた後、最初の軍議。重苦しい空気が漂うその部屋の中で、エメリヒ第三王子は反対に明るく言った。それにつられて明るくなる者はいない、むしろ「何故エメリヒ王は元気なのだ」という雰囲気が我々を覆っていた。
「我々には食料が無い、我々には兵力が無い、我々には士気が無い」
エメリヒ第三王子の言葉の通りだ。
「だが、我々には強い兵がいる。我々には優秀な指揮官が居る。我々は敵の油断を誘っている」
エメリヒ第三王子は左に立つ自分の方を向いた。その眼は真剣そのものだが嫌な予感がする。もしや、また面倒事を引き受ける羽目になるのだろうか?
「リデル・ホワイト…近衛第二騎士団を率いて、敵の状態を見て来てくれ」
「威力偵察でしょうか?」
「そうだ」
相手がエメリヒ第三王子でなければ「ふざけるな」と叫んでいるところだ。包囲している敵が目の前にいる状況で威力偵察など聞いたことが無い。最早それは自ら死にに行くようなものではないか。
「出来ません」
自分は近衛第二騎士団50名の命を預かっているのだ。引き受ける訳にはいかなかった。
「何故だ?」
「自ら死にに行くようなものです。交戦の段階になれば間違いなく敵の全軍が動き出し、我々は敵の包囲に擦り潰されてしまいます」
「別に、陣地を構えて敵と正面から当たれと言っている訳ではない」
「それでは威力偵察にならないのではありませんか?」
「敵の練度と士気を見てくれるだけで良い。それを判定するには敵の先鋒と軽く剣戟を交えるのが一番効率的だ。威力偵察と本質的な目的は同じだろう?」
「……左様でございます」
また近衛第二騎士団は嫌な役回りをしなければならないのか、と思わずにいられなかった。本当にやりたくない
「今日、直ぐに出てくれ。我々は城壁の上から見守る」
「……では、まだ跳ね橋が落ちていない北正門から出ます。そのまま敵右翼の端と交戦いたしましょう。弓兵と風魔導士の配置をお願いいたします。我々の魔導士は城内に置いて行きます」
軍議の席を外す事を許られた自分は、自らの部下たちが駐屯する場所に向かった。今日は建物を警衛する任務だったが、それも東方騎士団と交代となる。
部下たちを一か所に集めて魔導士は任務から外し、アーチャーは騎射できる者を近衛第一騎士団と東方騎士団から借り受けて、50人の部隊を編成し直した。
「本気ですか?」
鞍を馬に括り付けていると、隣にエドガーが並び怪訝な顔で聞いて来る。準備を進めているのだから、本当に無茶をするのだが、それをもう一度聞いてみたくなる気持ちもわかる。
「残念ながらな、エメリヒ王の御下命だ」
「…分かりました」
「犠牲は無くしたい…まだ、展開しきっていない敵陣の最右翼の側面を触りに行く」
「目標は?」
「南軍の士気と練度を見ろとさ」
「そうですか……分かりました」
エドガーは言葉では分かったが、理解できないといった表情だ。自分も「ついでに最前線の指揮官くらいの首を飛ばさんと俺の気もすまないな」と思ったことを口にした。敵に八つ当たりさせてもらわないと、この気分は収まらないだろう。
「隊形は楔型で行く」
「了解」
エドガーが自分の側を離れるのと自分の支度が終わるのは同時だった。ヘルムを被り馬に乗る。
馬を促し、北正門へと進み始めると準備を終えた騎士達が、自分の後ろに付いた。急遽ほかの騎士団から送られてきた者達が、焦って準備を進める横をゆっくりと通り過ぎる。彼らも最後尾には間に合うだろう。
「今回も俺が先頭か?」
「あぁ、カールお前だ。お前の小隊が先頭集団を形成する」
隣に並んだのはいつもの顔だが、後ろに付いている東方騎士団から来た者達の顔も見慣れて来た。
また、ルイジア関の時のように敗走し、味方を犠牲に撤退するのは御免だ。今回は近衛第二騎士団として勝たなければならない。
北正門には既にエメリヒ第三王子と諸侯が到着し、門の上から敵を眺めていた。
門の裏に到着し上を見上げると、目が合ったエメリヒ第三王子がゆっくりと頷く。どうやら激励されているらしい。その表情はエメリヒ第三王子を守る近衛第二騎士団を信じて疑わないものだ。なれば、文句はあろうとも自分もそれに応えなければ。
「かいもぉーーーーん!!!」
外でジャラジャラと鎖が滑り落ちる音がする。跳ね橋を城壁側に引き付ける鉄鎖が、送り出されているのだ。そして跳ね橋が勢い良く地面に叩きつけられる音。
内の落とし格子も同じく鉄が擦れる音を響かせて上がっていく。続いて外の鉄門が開かれた。
外は明るい。夏の湿った風が城内に吹き込み自分の顔に当たった。
南軍が踏み折った夏草の匂いがする。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




