6.王都の戦い
我々東軍はいよいよ城攻めの最終段階となったことで、城壁の崩壊を見てすぐに陣地を出て前進する命令が下された。エメリヒ第三王子と東方大公の本陣も、陣地を出てトビシュレットのすぐ後ろ辺りに待機する形を取り、近衛騎士団の我々もそれに付き従う事となった。
西正門に回していたマロカン侯は寡兵にもかかわらず、果敢に城攻めを行っており十分に兵士を引き付けている。
ちなみにこの城攻めの期間で、東方大公の居城であり籠城戦をしているボルダックス城は、その包囲を解かれていた。城攻めを行っているヴィアネッロ侯が、メイズ大公国の軍勢と相対するためだ。
王国の将軍であり、王国の正当な軍を名乗るのであれば、オロール王国の宿敵であるメイズ大公国の兵が我々の土地に足を踏み入れる事を許すわけにはいかない。よって城攻めよりも、メイズ大公国軍との戦いを優先したのだ。
一方南方では、王国領土を広く守るカタラーニ侯に対して、ムタルド教国の動きは少なかった。どうにも、援軍の到着を待っているらしいということであるが、ムタルド教国は我々の内乱を利用して漁夫の利を得ようとするのではなく、全面的に戦争するつもりなのだろうかと周囲では噂されていた。
本来であれば国同士の外交官や使者が、宣戦布告をするはずであるがそれも無いのである。もっとも今の王国にはどちらも正当な国王と名乗る二人が居るのだから、どちらかに肩入れをするような布告の仕方になるか、そもそもお互いへの書状や使者が届かない状況な訳だが。
その状況を打開するために素早く行われたこの王都攻城戦も、まさに決着の時を迎えようとしている。
朝に崩壊した東正門右壁に続いて、夕方頃には左側の城壁も崩壊した。この間に土魔導士や歩兵達の活躍もあり、堀は埋め立てられていて城攻めの準備は完全に整っている。あとは、内側にある民家の連なりである”城壁もどき”が崩れた後に突撃だ。
内城壁を崩すための最後の投石が、1日を通して行われた。内側が生活する空間を持つゆえに、外の城壁程の固さを持たない内城壁は、直ぐに崩壊の兆しが見え始め。夕方となり左右ほぼ同時にその城壁が崩れ去ったところで、もう一度大きな歓声が上がる。これにて、王都はもはや城壁を持たないただの街となってしまったのだ。
そして内城壁が崩れた日の夜、珍しく投石以外の一切の行動なく過ぎ、翌日早朝にオロール王国王都攻めが開始された。
まずもって大勢の弓兵隊と魔導士、それを守る歩兵隊が前進し、城壁の上へと激しい攻撃を浴びせている。それを援護するようにトレビュシェットやオナガー、バリスタの攻撃が続いた。
弓兵隊が位置についたことを確認すると、今度は攻城兵器と共に歩兵隊が前進を始める。これは、攻城塔、破城鎚、城門両脇の崩壊した城壁に向けた5部隊の他に、兵力分散の為に城壁に梯子を掛ける2部隊の合計7部隊がいる。
既に王都西側では攻勢始まっているようで、遠くで響くかウォークライと立ち昇る砂煙が、少し雲のある西の空に見えた。隣では、馬上のエメリヒ第三王子がそれを確認し、全軍を見渡した。
エメリヒ第三王子は、静かに剣を引き抜く。
こちらを向いている者達だが、ひとりも自分と目が合わない……視線の先のエメリヒ第三王子はゆっくりと掲げたその剣に、周囲から視線が集まっている。
「全軍ーーー!!!前へーーーー!!!!」
よっく通った声が、静かな東側の戦場に響き渡った。
割れんばかりのウォークライと、同時に動き始めたトレビュシェットとオナガー、バリスタ。その全ての音が一緒になり、王都に籠る者達を威圧した。その熱にほだされてか、先程までは冷静な顔をしていた近衛騎士達も全力で叫んでいた。もちろん自分もだ。
一挙に伝わる叫びの波が前線へ到達した後、人の海が王都へと動き始めた。
冬が終わり、春の草の匂いが東軍の兵士が踏んだ後から漂ってくる。過ごしやすい天気、魔導士が起こす以外の風も無い。何もしていなくても眠気を誘うような春…川べりに寝転がって昼寝でもしたい気分だ。反対に王都オレンジだけはこの世界で最も居心地の悪い場所だろう。
動き出した兵士が、崩れた城壁、崩れていない城壁、まだ固く閉ざされた門と全てに殺到する。
崩れた城壁の部分では、昨夜の投石の間に崩れた城壁を必死で塞ごうとした痕跡が見える。だが、それも人の波の前では徒労だった。あっという間に城壁の間へと吸い込まれていく兵士達は、王都が巨大な魔獣でもあるかのように見せるほど、人を吸い込んでいった。
城壁に駆けられた梯子、攻城塔からも例外ではなく、城壁の上にいくつか味方の拠点が既に築かれている。そして、破城鎚の到着と共に内側から開く城門……
朝から始まった攻城戦は、昼を過ぎ夕方近くとなった所で外城壁、内城壁共に味方の兵士がその上を満たしている。鉄壁と言われた王都も攻城兵器に囲まれ、援軍無しという状況であればこうも簡単に落ちてしまうものかと、多少ならざる衝撃を受けた。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




