5.崩壊
休日を何もすることなく終えた自分は、それから何日もエメリヒ第三王子の近衛として動いている。
堅牢な造りである王都の城壁が簡単に崩れる訳も無く、土の形状を操作する事しか出来ない土魔導士まで駆り出され、投石に使う石を掘り出す作業をさせられ、休日を終えても更に5日間の投石を続けていた。
そして6日目、王都の城壁にようやく崩壊の兆しが見られ始めた。
投石が続けられていた城壁の外側、石積みの部分が完全に崩壊し、内部の土が露出しているのだ。その土にもひびが入り、間もなく崩壊するだろうことがいよいよ誰の目からも明らかになり始めた。
ついに攻城戦の最終段階へと突入する段階となった東軍は、準備を整えていて布陣も包囲から突入へと変えつつある。とはいえ崩壊するのは東正門両脇の2か所のみなので、それ以外の場所は普通の城攻めと同じ形をとる。
「これじゃあ、風魔導士も形無しだな」
ヘルムを小脇に抱えながら、野太い声で話しかけて来たのはカールだった。ゆっくりと自分の隣に馬首を並べて口角を上げこちらを見ている。
「なんだ?風魔導士の15覚醒ごときに、嫌味のつもりか?」
いくら風魔導士と言えど、トレビュシェットやオナガーで投擲される重い物体の軌道を変える事は不可能だ。かなりの力を使っても、バリスタの矢を逸らすところまでが限界だろう。
攻城戦に風魔導士は重要であるが、それはあくまで大きな兵器が使われていない時だけだ。本来準備に相当の時間がかかる攻城兵器をこちらに持ち込んでいなければ、これも年単位で続く攻城戦になる事は間違いない。
「いんやぁ?嬉しいかと思ってな」
「別に、思うところはないよ」
今更、7覚醒の風魔導士に嫉妬などしないし、王都を守ろうと魔力を使う彼らに「ざまぁみろ」とも言う気はない。いや…王都の魔法学校に通ってた時に、15覚醒を馬鹿にする魔導士は属性問わずいた。
やっぱり「ざまぁみろ」だ。カールに嘘を吐いた。
「いくら便利屋といえど、俺達の出番は無さそうですね」
カールの反対側、自分の右側にエドガーとサルキが並んだ。「お陰で今回は楽できそうだな」と返すも、2人は口々に「大して功にならない所で奮戦している」や、「俺達が目立つことは出来ねぇな」などと好き勝手言い合っていた。そもそも近衛騎士団は王を守る為の者達で、目立つ状況というのはかなり危機的な状況なのだ。威力偵察で敵騎士団と交戦している時以外、ただ味方の戦闘を眺める今の状態が、本来の役割とも言える。
「失礼します」
振り向くとそこには、負傷しているトルガーの代理をしているウラシヌがいた。ウラシヌはゆっくりと、瞼を閉じて何かを噛みしめている表情をしている。「さあ、今から戦だ」という場面で、何か起きたのだろうか?
「トルガー副団長が、亡くなったそうです」
「……そうか」
ルイジア関に撤退する道中、殿を務めて右肘から先を失ったトルガーは、その傷が癒える事は無く日に日に弱っていた。タリヴェンド城で最後に見舞いをした時は、体重を失いきっており寝床から起き上がれない状態で、どうにも手の施しようがなかったのだ。
「彼には、近衛第二騎士団全員が助けられた……彼は、極彩色の世界に行っただろう……色彩の神々の加護があらんことを」
リデル・ホワイトの名の通り首に巻き付けていた白色の布の端を切り取り、手近な松明を見つけて静かに火をつけて空に流した。これが、真実の色教徒の簡易的な死者の弔い方である。同様に他の者達がそれぞれ身に着けた色のついた布に火をつけて風に流している。
暫くトルガーを思う静かな時間を過ごした後、誰からともなく「弔い合戦だな」と聞こえて来た。いち早く王都を陥落させ、この都の守護神たるオレンジの神々に、此度の王国内乱で命を失った者達の加護を祈る事にしよう。
「崩れるぞぉーーー!!!!」
静かに祈りを捧げていた我々のもとに、前線から大きな声が届いた。
その声に誘われて顔を上げると、王都の城壁の右側に走る亀裂が徐々に大きくなり、その隙間から砂埃を吐き出していた。そこにひとつ、ふたつ、みっつと更にトレビュシェットの弾が命中すると一挙にそこが崩壊し、盛大な土埃を上げた。
「「「「「うおぉぉぉおーーーーー!!!!」」」」」
東軍の大歓声が辺り一帯に響き渡り、その声がようやく収まったと思ったら、土埃が収まった先に現れた崩壊した城壁を見て、更なる大歓声が沸き上がった。
ついに鉄壁の王都の城壁に、突破口が出来たのだ。
右側に向いていたトレビュシェットが、今度は城門の左側へと狙いを変えて投擲を始める。
オナガーやバリスタの射撃に守られた歩兵部隊が前進を開始した。今から始まるのは城攻めの準備段階である堀の埋め立てだ。これにより我々の道を確保する。勿論攻城塔が取り付く他の場所や、破城鎚が向かう事になる跳ね橋の下も同様に埋め立てられる。邪魔になる跳ね橋は後々、火魔導士が接近して完全に燃やし切る予定だ。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




