4.戦間
トレビュシェットが敵オナガーを破壊した事により敵の兵器は沈黙し、我々は更にオナガーやバリスタを設置する隙が生まれた。これにより王都オレンジ東正門前には、合計して30基以上もの攻城兵器が並べられている事になる。更には陣地で建造していた攻城塔と破城鎚の準備が完了した。
それに加えて軍議で決定した通り少数部隊での、西側城壁への奇襲攻撃が行われる。これは、東方大公の股肱の臣であるマロカン侯指揮する3000が、夜半の内に上流から渡河した後に早朝から継続的に行われた。
「流石に硬いっすね」
「フレディか、今日は貴重な休みだぞ?こんな所までどうした?」
この南征が始まって以来初めての休息日を与えられた近衛第二騎士団は、各々自由な時間を過ごしていたが、手持無沙汰だった自分は10基のトレビュシェットの稼働を眺められる場所に陣取って眺めていた。とは言え10基の内整備と修理で動いているのは8基だけだったのだが、それでも十分暇を潰すにはちょうどいい眺めだった。
「いや、暇だったもんで。戦場の陣地で休みなんてやる事ないでしょう?」
「後方にどこから来たのか分からん娼婦がいるだろ」
こういった包囲陣や長期化した戦場によく現れるのが、どこから来たかも分からない商人と職人、娼婦たちだ。商人は嗜好品を売っていて、職人は壊れた装備や武器の修理を行うのに集まって来る。もちろん自分達の軍も職人を帯同させているが、順番待ちが酷いのはいつもの事でこういった職人にも需要はある。
それに男しかいない”軍”といったものは、長期間の従軍になればなるほど”欲”を貯め飢えがちだ。そのために、現地からか他の土地からか娼婦が集まるのもいつもの事だった。そしてこの娼婦という存在を軍の指揮官は追い払うどころか歓迎している節がある。勿論表面上では好ましい顔をしないが、裏では攻略した町や通過した村に対する無用な略奪を防ぐために重要な存在なのだ。”王国”の軍が”王国内”で戦うような場合には特に……
「いやぁ、抵抗が…ね?ありますよね」
「まぁな、ここに居るってことは、俺もそのうちの一人だしな」
女性のじょの字も縁が無かった自分は、どこかそういった体験をするなら好きになった人となどという思いがあった。これを前の近衛の先輩であるマルセラに言ったら大笑いされそうな気がする。まぁ、マルセラは遊び過ぎだったような気もするが。
「リデルさんは、出世街道驀進中ですね」
「なんだ?藪から棒に」
「うちに来たときは、失礼ですけどただの弓兵指導教官だったじゃないですか。それが今や次期王の二人しかいない近衛騎士団長の様な側近中の側近な訳で」
「まだ、俺達が勝った訳じゃないぞ…あと、一応”次期王”じゃなく、王だぞ」
自分も心の中でエメリヒ第三王子と呼ばわっているが、対外的なところや表立った場面では陛下というようにしている。といった事情はあるにせよ、今2人の王が立つオロール王国のうち、その片方の側仕えなどとは1年前…いや、人生で考えた事も無かった。ただの王都から外れた村の猟師の息子が、王候補の隣に立つことになるとは……
少なくともマジックアローという存在が無ければ、この場に居ない事は間違いない。感謝するべきは、ルーシーだろう。彼女がいなければ、今の自分はいない。ルーシーは今頃何をやっているのだろうか……
「そうでしたね!危ない危ない!」
相も変わらず陽気なフレディの声に、頭の中に浮かんだルーシーの顔と声がかき消された。
「俺だけじゃなく俺”達”は、王の側に仕える身になったんだ。少しは気を遣えよ」
「そうですね!ところで、今回の戦は勝てると思います?」
「……俺の話聞いてたか?」
「一応?」
「まぁ…いい。勝てるかどうか?正直分からんよ」
そもそもこの王都攻めが成功に終わるかどうか分からない事、成功したとしても南と東に散っている南軍兵力は自分達東軍よりも多い事、一つ一つの話をフレディにしていく。
「そうですよね…今のこちらが圧倒的に攻めているだけの状況だと、自分達が勝っていると錯覚してしまいます」
「それに一番の問題は……」
余計な事を言いそうになって慌てて口を噤む。
「問題は?」
「いや、何でもない。取り敢えず気にするな」
「はぁ…」
何ぞやと言った顔をするフレディだ。だが、絶対に言えない。
どうにも、エメリヒ第三王子と東方大公の仲が気になるのだ。
正確に言うと、表立って関係が悪いわけではないのだが、なにかが不一致、そして互いにぶつかっている気がする。
エメリヒ第三王子は、まだ言動や行動が王らしいといった訳ではないが、その姿に王としての風格は既にあると言って良い。かたや東方大公は、言動や行動が王らしくその風格は公爵という位に留まるものではない。そして双方共に軍略の意見が一致することが多く、エメリヒ第三王子は歴戦の東方大公に肩を並べ始めるほどの才能がある事は間違いない。
つまり、同じ勢力の中に王の風格を持つ者が2人同時に存在しているのだ…それも、その勢力の指導者とナンバー2として……
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




