3.開戦
翌日、日の出から少しして動き出した東軍は、王都東側の平原に兵を進めて陣地の構築を始めた。
陣地用の木材は持ち込みもあるが、半分以上は途中で調達したものだ。これを用いて天幕周辺の木柵や逆茂木を作成し陣を整えた。この間に持ち込んだトレビュシェットは、敵オナガーの届かない範囲で設置された。これの稼働は川岸などから弾を持ち込む準備がある為に翌日からとなる。
この間にヴァルリッカと同様の抜け道が無いのかどうかの探索に、またもや我々近衛第二騎士団が駆り出された。誰かが南軍方と内通者でもおかしくない状況で、自由に動かす事の出来るエメリヒ第三王子直属の近衛騎士団は唯一信頼にたる部隊なのだ。もっとも、我々としてはまた「便利屋扱いかよ」と思わずにはいられなかった。
周辺地域の探索は、東軍の中で王都周辺に土地勘を持つのが自分しか居ない為、自分が主となって動いたのだが、特にそれらしいものは見つからなかった。以前に心当たりのあった森というより、林…程度の樹木がある場所にも一切ない。自分の持つヴァルリッカのような場所はこれのみで、あとは川岸の探索をかけたのだが、上流下流共にそれらしい場所は全くと言って良いほど見当たらなかった。
そもそも十分な幅の河川とそれに接続する河川港を持った王都には、脱出路など必要ないのかも知れない。この探索には丸3日を要し、我々の探索が終わり帰陣する頃に予定より遅れてトレビュシェットの投石が始まった。
「……凄まじいな」
並べられた10基のトレビュシェットの投石は壮観というほかない光景だ。
それ自身が巨大な物体だというのもあるのだが、その巨大な建造物が轟音を立てながら一斉に稼働している。その姿は10人の巨人が一斉に投石を行っているような錯覚をしてしまう。
大きな重りが上から半円を描くと共に落下し、それに弾き出されるように反対側の”石の弾”が大きな弧を描き、トレビュシェットの頂点に達した瞬間に発射される。
石の弾は離れていても聞こえるような風を切る音とともに王城へと一直線に向かい、塔の上にあるオナガー目掛けて落下していく。全てが命中するほどの精度はないが、至近に着弾した者は大きな土埃と破壊音を上げていた。
「これが……攻城戦なのか」
素直な感想が口から出た。
自分が経験した大規模な攻城戦、守城戦はカーマイン辺境伯での一回のみだ。カーマイン辺境伯領のカレリア地峡では、道幅が狭く大規模な攻城兵器は使用されていない。大規模な攻城戦はこれが初と言って良い。
「いやぁ、見事なものですな」
「エドガーもそう思うのか?」
「はい、これ程大規模な城攻めは見た事がありません」
エドガーは30後半で戦場の経験も豊富だ。その彼でも見た事が無いのだから相当な物だろう。
次々にトレビュシェットが稼働し王都の城壁に向かって、投石を続ける様は思わず見とれてしまう程のものである。戦争とその戦闘に似合わない”綺麗”という感想まで浮かんでくる始末だ。
トレビュシェットによる王都オレンジへの投石は、夜を通して行われ途切れる事は無かった。
翌朝になっても、当初の目的でもある敵オナガーの破壊は未だに1基程度に留まってることから、トレビュシェットはそこまでの精度の良さを持っていないようだった。
多少精度が悪くとも、それも連日続けばある程度オナガーの破壊は進み、包囲開始から6日目を数える頃には東正門周辺の敵オナガーはすべて破壊されていた。
「王都守備兵の大体の配置が判明いたしました」
軍議の場でエメリヒ第三王子に東方大公が発した。
「ほう」
「不確定な情報ですが、南軍の兵力は1万ではなく7000程度、中州砦に1500、西砦に1500、王城区画に4000の配置です」
「随分と西に兵力を割いているな」
「我々の流言飛語が効いたのでしょう」
我々がヴァルリッカを落城させた際に、ある程度まとまった数の市民をあえて逃していた。
その中には我々配下の兵を紛れ込ませた上で、「ヴァルリッカは川からの奇襲で落城した。東軍は水軍を持っている」や「何もない平原に兵を伏せて、油断した所を夜中に急襲し落城した」だとかの噂を流したのだ。
これによって少数でも兵力の分散を起こしたいという狙いが我々にはあった。そして、その目論見は見事に成功していたようだ。ヴァルリッカからの難民を受け入れた王都の中では、今頃様々な噂が広がっているだろう。これに昼夜問わずの投石も相まって、相当な負担を強いる事が出来ている筈だ。
「であれば、それを利用しない手はないな…実際に兵を少し対岸へ渡して、夜襲を仕掛けよう。流石に水軍を用意することは出来ないがな」
東方大公は我が意を得たりといった風に「はい、陛下の仰せのままに」と同意したが、この状況は傍目から見たら家庭教師の指導を受ける貴族の息子といったものだ。
確かに優れた軍略家であり、武将であり、貴族である東方大公の目線からではエメリヒ第三王子は未熟なのかもしれないが、出会った当初よりも少し尊重していないようにも感じる。当のエメリヒ第三王子は大して気にしている様子はないようだが……
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




