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3.第三王子


「それは、どういうことだ?静観しろと?」


 物音ひとつしない空間に辺境伯の言葉が響いた。


「いえ、私は辺境伯が第三の勢力を作るべきだと思います」

「”貴様”今、何と言った」


 辺境伯から、今まで見た事のない鋭い視線を浴びせられた。


「ですから……辺境伯が新しい勢力を作るべきだと申し上げました」


 自分の言葉を完全に聞き切る前に、辺境伯が立ち上がり、剣を抜きながらゆったりと自分に迫って来た。抜き身の剣と辺境伯から発される怒気からは、辺境伯が本気で自分の事を切ろうとしている事が伝わって来る。


「この私に、王国を裏切れと申すか?」


 この辺境伯領に来たときに「辺境伯になる為には王国に対する高い忠誠心を持ってないといけない」と騎士団長が言っていた。その忠誠心を傷つけられたことに対して、静かな怒りを露わにする辺境伯は、自分から視線を外すことなく更に言葉を続けた。


「弁明をしてみろ。事と場合によっては貴様をこの場で斬る」


 ここで先程の言葉を取り下げても状況は悪い方向に進むだけだ。その怒りに対して臆することなく、自分の意見を言わなければならない。


「はい。私は第三王子……エメリヒ第三王子を王として擁立すべきだと思います」


 辺境伯が自分に向けていた剣先を僅かに下に下げたのが見えた。そして第三王子を擁立すべきと主張した自分の意見に騒めきが広がる。


「第三王子だと?」

「はい。第一王子は貴族以外を人間とも思っていない方です。盗賊を討つ際に王国民ごと焼き殺したのを知っています。第二王子は優柔不断が過ぎて自らの意思で決定することが出来ません。後ろ盾の二つの大公家に王国は握られるでしょう……それに比べてエメリヒ第三王子は聡明で明るく、身分の差なく人に接する素晴らしい方です。その上、剣も上手く軍の指揮も上手い……これ以上の国王はいないかと」


 前にマルセラが言っていた事と、自分が知っている事を合わせて話した。


「私も数年前に会ったことがあるので、聡明で明るいというのは同意しよう。だが、剣や軍の指揮も上手いのかは分からないのではないか?」


 確かに第三王子は大軍の指揮官として動いたことはないが、私の初陣は第三王子の指揮の下で戦い、その時に指揮のうまさと、敵を斬り伏せる剣の腕を目の当たりにしたのだ。補佐としてついていた熟練の指揮官である貴族達も第三王子本人の目の前だけでなく、陰でも天才だと褒めているのを見た。

 そのことを説明すると、ついに辺境伯の剣先は向き、顎に手を当てて思案を始める。


「リデル騎士爵、何を言っているんだね?第三王子がどういう生まれか知っているだろう?」


 辺境伯は一考の余地ありと見ている様だが、他の貴族たちは同意していない様だ。


「はい……存じ上げております。妾の子で後ろ盾も何もないと」

「そうだ。もし君の言う通り、我々が第三王子を擁立したとしよう。どこに他の勢力と戦える軍隊がいる?我々だけでは戦えないぞ」

「……はい」


 ベゴニア子爵の言葉に続いてバーミリオン男爵も言葉を繋ぐ。


「政治的にも後ろ盾がない第三王子は、王国の東の果てに身柄を放逐されている。そもそもどうやって接触するのだ?」

「それは……私が向かいます!」

「リデル騎士爵、君は北方大公の領地を横切り、更に山と北方樹海に挟まれた隘路を通り、東の果ての港町に行けると言うのか?」

「はい」


 北方樹海を利用することで、第一王子の勢力に悟られず接触することが可能だと思い、この提案をしたので、自信を持って答えることが出来た。


「第三王子にその意思があるのかというのも問題だぞ?」


 今回の会議には体調の万全でないローガン・マクナイト男爵も参加しているが懐疑的な様子だ。


「それを確かめてからでも遅くはないかと」

「いや、待て!そもそもの話だ!我々だけでは戦えない……北方の周辺貴族は北方大公と第一王子に味方しているから、書状を送る事も出来ないのだ。どう頑張っても無理だ」


 諭すように自分を説得するローガン男爵の意見が正しいのは分かっている。どうしても戦力差の部分は反論できない所だった。大人しく引き下がるしかないだろう。


「差し出がましい事を言いました」


 静かに座り直したが、辺境伯は地面に剣を突き立ててまだ思案している様子で動く気配がない。


「リデル騎士爵、君は本当に第三王子と接触できると思うか?」


 思案を終えた辺境伯が剣の柄に両手を置き、自分の目を見つめた。


「正直なところを申し上げれば、幽閉されていたり外部と接触できない状態の場合は分かりません……」

「流石に傍流と言えど歴とした王子だ。そんな扱いは無いだろう」

「でしたら接触できると思います」

「そうか……」

「辺境伯!ご再考ください!我々には後ろ盾がありません!」


 辺境伯が第三王子の可能性を考えているのを察して、他の貴族たちが慌てて止めに入る。


「いや、後ろ盾があるかもしれないぞ」

「「え?」」


 自分も含めて数人から驚きの声が出てしまう。


「東方大公、フロレンツ・バーガンディー公爵だ」

「……東方大公ですか?」


 東方大公は今回の動乱でどこに属すことも発表していない。現在はいわば完全に中立と言ってもいい勢力だ。だが、それに同意するほど貴族達も簡単ではない。


「ですが……東方大公が味方になるとも限らないのでは?」

「確かにそうだが、後ろ盾になるならという話だ。我々カーマイン辺境伯家とバーガンディー公爵家は古くからの付き合いでな、人となりはよく知っている。望みが無い事もない」

「どうやって第三王子と接触させるのですか?地理的にはかなり遠いかと」

「それはこれから皆で考えればよい」

「……では、辺境伯は第三王子を擁立する……と?」

「今のところは、な」


はじめまして。都津トツ 稜太郎リョウタロウと申します!


再訪の方々、また来てくださり感謝です!


今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。


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