1.プロローグ
本作品は、騎士団のアーチャーの続編となります。
気になった方は是非とも前作を呼んでいただけると嬉しいです。
これまで貴族名を現実と同じく名+爵位としている部分や、してない部分が混在していましたが、今作から苗字+爵位に統一しております。
春の終わり。
どこからか土の匂いが漂ってきて、これから降る予定の雨を知らせて来る。調査と実験が終わってから季節は流れ、いつしか変わり目まで来ていた。これから降る長い雨の期間が過ぎれば、うだるような暑さが続く夏になる。
「なに黄昏ているの?」
部屋の入り口から声を掛けられる。今日はルーシーによる貴族教育の日だった。
「黄昏ていませんよ、雨が来そうだなと思って」
「そうね、独特な香り」
隣に並んだルーシーと共に窓の外を眺めていると、空が徐々に黒くなり雨が静かに降り始めた。湿気が多い季節が到来することを知らせる雨に、少し憂鬱な気分になるが、隣で空を興味深そうに眺めるルーシーを見ることが出来るのであれば、そう悪いものではない。
「さぁ!今日も始めましょうか!」
「よろしくお願いします。先生」
一緒に雨を少し眺めいたルーシーが、その時間に終止符を打った。
茶化すように先生と言ったが、魔法学校のようにルーシーが教壇に立つわけではなく、ノルデン城の図書館から借りて来た本を見ながら、顔を突き合わせて話してもらうだけだ。
だが、それが良いとも言える。
「ふふっ、礼儀正しくてよろしい!」
「今日は何をするんですか?」
「それじゃあ、今日は我らが”オロール王国”の歴史と、この”ベルディグリ大陸”に存在する国々の話をしましょう」
これまでは、挨拶の礼儀や食事のマナーや舞踏会の作法等様々なことをやってきたが、今日からは少し趣向が違うらしい。
「リデルさんはこの大陸の歴史について、どれくらいご存じですか?」
ルーシーの質問に、今では遠い記憶となった魔法学校の授業を思い出してみた。
「えーっと……150年くらい前まで、オロール”王国”と”スプルース”帝国”は一つの国家だという事を習いました。そこから分裂と連合を繰り返して今の形になったと聞いています」
「そう!その通り、大陸の3分の2を占める巨大な一つの国家だったのよ。それが王と跡取りが相次いで亡くなったことで、次期国王の座を巡る内乱が起きた」
ルーシーの口から流れるように出て来る歴史の語りで、魔法学校の風景と共に授業の記憶が思い出される。
巨大な王国が崩壊した後に世界に訪れたのは、周辺国家も巻き込んでの長い戦乱の世だった。
大小100以上と言われる国に分かれた大陸は、約100年前に大陸の東で興ったオロール王国と、西の覇者となったスプルース帝国の登場で徐々に今の形になる。
王国は大陸中央部に僅かな領地しか持たず、戦乱の荒波を乗り越えるだけで精いっぱいだった貴族を、初代国王が策略と同盟と婚姻を駆使して勢力を広げ、先代の国王が旧王都を掌握した後、国を20年かけて豊かにした。そして現国王が豊かな国力を武器にして、獅子王と呼ばれるに至るほどまで勢力を拡大する。
一方の帝国は旧王国の西の端に駐屯していた将軍と軍隊が発祥で、武力をもって順番に敵を撃滅することで皇帝による完全な支配を実現した。その過程で当時新興宗教だった”人間の誇り教”を利用し軍力をさらに強化し、大陸の西側4分の3を支配するに至る。
この二つの勢力がぶつかったのはここ20年程で、先日停戦が行われるまで大小さまざまな戦闘があった。
「……という感じね。聞いてる?」
「はい、聞いてますよ」
授業の記憶と共に、魔法学校にいた気の良い奴が今どうしているのか気になったが、わざわざ口には出さない。
「うーん、ならいいけど」
「先生、お次の話はなんですか?」
「じゃあ……今、この大陸の国家について知っていることを話してみて」
「わかりました」
自分の記憶力は悪くないのかもしれない。歴史の授業に続いて行われた地理の記憶が直ぐに出て来た。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。