【最終回?】思いは永遠に ある男の手記
本日はエイプリルフール。ウソにも真にもなる日
2148年4月1日
彼女がこの世界に現れてから今年で18年が過ぎた。
18年。
この月日は子どもが大人になるまでの月日と同等であり、また大きな変革の月日でもあった。
多次元世界理論による異世界の認識にはじまり、「魔法的科学技術」通称魔術が異世界の知識により確立し、地球人で初めての「魔法的科学技術取り扱い技師」通称魔術師となったこと。
その理論研究中に彼女が帝国、旧名称連邦非加盟諸国コメリカに招待という名の誘拐事件は生々しく記憶にのこっている。
彼女を学術研究技術都市防衛部の特殊部隊と共に奪還しに行ったあの緊張感は忘れることは出来ない。
そして、そこから始まった長きに渡る戦いの日々も。
2130年12月24日
この日を誰も忘れることは出来ないだろう。聖母マリアから救世主キリストが生まれたとされる日。
地球上での最後の世界戦争。第三次世界大戦の始まりであった。
連邦非加盟諸国コメリカからの一方的通達は我々地球連邦を脅かすものであった。
「我々コメリカは真の世界平和を目指すために、連邦非加盟諸国のリーダーとしてここに帝国の樹立を宣言し地球連邦に対し宣戦布告を行う」
その数分後には連邦と旧名称連邦非加盟諸国ポーチュナとの間の勢力境界線監視基地を重力子収束砲で破壊。大規模な侵略行為が確認されることとなった。
帝国は破竹の勢いで各地の主要都市を攻略していった。
最大侵略時には連邦の75%が帝国軍によって制圧されることとなった。
学術研究技術都市もその力の暴力に耐えることは出来なかった。
最新鋭の都市外周兵器は鉄の嵐とも思えるほどのミサイル飽和攻撃に耐えることも出来なかったし、都市防衛部のパワードスーツでも数の暴力には耐えることは出来なかった。
かくして帝国の手に渡った学術研究技術都市であったが技術局の変態たちはそんな事では諦めなかった。何とかして奪還しようとしていた。
たしかに帝国軍の都市制圧は自分たちから見ていても見事とも思えるものであった。
無抵抗の市民には手を出すことはないが反抗の意思を見せたものには容赦なくその牙を向く。
移動手段、通信手段、インフラ設備すべてを破壊しながら重要拠点を制圧してゆく。
私たちがいる都市中央部の技術局を残しあっという間に制圧をしてしまった。
一応戦争の規則なのだろうか帝国軍は圧倒的な武力全てを技術局へあわせながらも降伏勧告を行って来た。
本来ならばこれ以上の被害を出さないためにも入り口を開放して降伏を受け入れるのが当たり前なのだろう。
帝国軍の司令官もそう考えていたかもしてない。
実際のところ技術局が下した決断はcode0000
すなわち敵に研究データがわたらないようにするということだった。
別にこれは正しいことだと思う。ここの技術が使われれば被害が増えるのは分かりきっているのだから。
しかし……。技術局にもともと仕掛けてあった自爆装置を起動させるのはやり過ぎだったと思う。
局員がすべて非常通路で退避したあと研究データを万が一にも回収できないようにこの世から消し去る。
合理的であるが危険性が高いものであったはずだ。
そもそも技術局は学術研究技術都市の中心部に位置する場所にある海底岩盤に接触する形で立っており、その他の部分居住区や商業施設がある場所周辺は強靭な海底に引かれたワイヤーで固定されている、いわば浮島のようなものだ。
普通だったらそこを破壊すれば他の市民に影響が出ることも分かっているはずで設計コンセプトに入れないはずである。
だが、技術局局員はいろいろな意味で変態だった。
それについては詳しくは語らない。
なにはともあれ技術局は見事なまでに爆散しその周りにある程度の勢力をまとめていた帝国軍にもある程度の被害を与えることになった。
そして最悪にも海底岩盤を支えていたケーブルは爆発の影響で破壊されてしまった。
その結果として浮島を支えていたものが崩れ一気にバランスが崩壊することとなった。
学術研究技術都市は幾つものブロック構造の集合体である。つまりそれがすべてバラバラになったということである。
そして、学術研究技術都市崩壊が示すことは、彼女をもとの世界へ返すための装置となりうる物すべてが消えて失せたということになる。
もしこのことがなければもっと早く。それこそ数年で帰ることができたかもしれない。
だが起きてしまったことはもう変えることは出来ない。必要なときに必要なことが分かっていれば変えることはできる。でもそれは難しい。
だから、この記録を残す。IFの世界があればその世界へ可能性を託すために。
学術研究都市から辛くも脱出した私たちは幾つものグループに分かれ連邦の中心部でもあるアルプスへ向かった。
彼女とも一緒のグループで脱出をしたが途中帝国軍の追撃を受けた際に別れてしまった。
この後彼女に会うことができたのはそれから数年後のことであった。
再び彼女と出会ったとき私は彼女の変貌ぶりに驚きを隠すことが出来なかった。
何もかもに夢中であった彼女。朗らかでその笑顔に和んだこともあった。
しかし、再びあった彼女にはその欠片も残ってはいなかった。
何もかもに無関心となり自分の殻に閉じこもってしまった彼女。
何が悪かったのであろうか。
帝国軍の追撃を受けた時に手を離してしまったことか。
それとも目の前で彼女の誘拐を止めることが出来なかったことか。
なによりもあんなプログラムを産み出してしまったことなのだろうか。
解らない。
それから数年に渡る献身的な介護の結果として彼女に喜怒哀楽の感情が戻り表情も柔らかくなった。
その代償としてか彼女は自分に依存するしか無くなってしまっている。
四六時中とはいわないがそれでも殆どの場合は自分から離れることはない。
無理にでも離そうとするととたんに悲鳴を上げ始める。
私たちは彼女をこの世界から元の世界へ返すということを改めて誓った。
それからというものの私たちの仲間、元技術局のメンバーは帝国軍に見つからないようにして秘密裏にアルプスの地下に時空間干渉装置を創り上げていった。
材料はないないづくし。
帝国の侵略の手は着々と伸びつつあった。
帝国軍の補給基地から必要な物資を命がけで拝借したりいろいろなことをした。
そのなかで数人の命を手にかけたこともあった。
人の命は地球より重い。
この言葉は誰が言ったのだろう。
この戦争を通じてわかったことはあのフレーズは戦争が小康状態の時に言われるものだと。
人の命は利権より軽い。
多分こう言うことなのだろう。
こうして隠れている間にも様々なことが耳に入ってくる。
いわく帝国上層部内でもコメリカ派とポーチュナ派その他幾つもの派閥に分かれている。
そしてそれらがどこの支配をするかでもめている等々。
帝国上層部がもめている間にも着々と連邦は反撃体制を整えてゆく。
技術局のメンバーが集まったことによって作られた魔術兵器とも呼べるクラスターバスター。
魔術の元も言える魔力の永久機関的な性質を生かしたエンジンを積んだ空中要塞グレイプニル。その派生機グレゴール、イリスタ。
戦乱は泥沼状態にあった。
そして今ようやくこれまでの苦労が達成しようとしている。
彼女を元の世界へ戻すための準備が整ったのだ。
18年かかったがようやくこれまでの苦労が実を結ぶ。
多くの仲間達の思いが完成する。
だが、時間はない。
帝国軍はここで何かの兵器を開発していると思っているらしくすでに圧倒的兵力がこちらに向かってきている。
本当はこれを記す時間も惜しいくらいだが記しておかなくてはならない。
あと1時間ほどでここに帝国軍がやってくるだろう。もうすで起動準備も終わり起動後の心配をしなくてはならない。
これが帝国の手に渡れば利権争いをさらに激化させるものとなるだろう。
だから、リュナを送った後は破壊しなくてはならない。
一応技術局の局員だしな。やっぱりアレをするしか無いだろう。
リュナは薬で眠りについている。
このまま目が覚めればどの様な行動に出るかも解らない。
依存させてしまった上でこの行為は無責任としか言えないだろうがどうしようも無い。
こんな縁もゆかりもない世界で死なせるなんてさせてはならない。
だからなんと思われようともこの世界に連れ込んだ自分が責任を負わなくてはならないだろう。
……だから一緒にリュナと飛ぶ。
それはこの世界に対して不義理を働くということになるが仕方ない。どちらかしかとることは出来ないのだから。
依存する前ならまだしも依存してしまったリュナを元の世界へ返したとしても。自殺するのが落ちだろう。
……そんな事はさせない。連れてきてしまったことでリュナの運命を変えちまったんだ。それの責任をとらなくてはならないだろう。
さて。そろそろ時間だ。
この手記はリュナの帰還のためのゲートがひらくと同時に粒子データとして飛ばされることとなっている。
不確定空間に跳ばされた粒子データは不確定空間にアクセスを行い、確定空間にて誰かが読み取ったときに初めて元の形を取り戻すが、
第五次元とは文字通りの不確定な空間でありその接続場所は確定していない。
だから、まったくの異世界のものがこの文章を読んでいるかもしれないし、もしかしたら平行世界のリュナを呼び出してしまった自分が読むかもしれない。
もしもこの手記を受け取った人がまったく関係ない人ならば訳もわからない謎の文として捨ててしまうかもしれない。それでも構わない。
だが、自分が生きた証として以下のデータを添付する。第五次元空間へのアクセス手段についてのものと、それの基礎理論についてだ。
確率は低いがもしも平行世界の自分へ届いた場合のために詳細なデータや帰還装置についても記録を添付しておく。
これらはすべて私たちの血と汗と涙の塊だ。自分はこれを汚してしまうがこのまま捨ててしまうのでは皆に対して申し訳が立たない。
願わくば正しい使い方がされるよう祈りたい。
添付ファイル
第五次元空間へのアクセスに関する設備等
基礎理論A
基礎理論B
基礎理論C
詳細データα pass 姉の名前
詳細データβpass 彼女の学校名
詳細データγpass 彼女のフルネーム
帰還装置設計図 pass 彼女の魔法特性
地球連邦技術統括本部兼、学術研究技術実験都市総本部時空間研究科魔法的科学研究所副所長 和泉愁也