異世界の少女に炭酸飲料を飲ませてみた。
一日遅れで投稿。
ファン。
そんな音がして動き出すローカルトレイン。
通勤ラッシュを過ぎたためか未だに人は多いものの押しつぶされるようなことはない。
それでも、座席はすべて埋まっていて座れそうにはない。
そんな中隣の少女は周りを注意深そうにみている。
もしも本当のこんな慣れていない状態で通勤ラッシュの時に押しつぶされたりしたら対人恐怖症とかにもなりかねない。
まあ、リュナにとっては分からないものだらけだろうからな。興味もあるんだろうな。
「すごい……。こんなにも早く動いているなんて……。」
周りを意識しているのかは解らないがささやき声程度の声がリュナの口から漏れる。
ローカルトレインの最高速度は時速90キロ。高速で走る車両は最先端の制御システムで管理されているために振動は全くない。
ピン~ポン~パン~ポン
突然車内のスピーカーから車内案内の開始のベルが鳴る。
珍しいな。いつもだったらこんなベルならないのにな。
「お客さまにお知らせいたします。本日未明。交通管理局第四地区交通管理課への不正侵入が発生したため、自動管理システムに一部不具合が発生しております。当車両も万一に備え、一部区間を手動運転に切り替え安全運転を心がけておりますが、何かお気づきの点がございましたら車内電話で車掌へとご連絡ください。ご迷惑を謝罪いたしますと共にご協力をお願いいたします。」
ふ~ん。不正侵入ね……。交通管理局の防御が抜かれていたのか……。
保安担当者は何をやっていたんだか。
「ねえ。シュウヤ。今の声は何処で話していたの?周りで話している人なんていなかったし……。拡声の魔法みたいだったけれども、それとは何か違うし……。」
上着の裾を引いて上目遣いで質問をしてくるリュナ。
それに少し心動かされてしまう。
なんというか……。本人にはその気はないんだろうけれども、グッと来るものがあるな~。
「ああ。これはスピーカーっていう機械を通して遠くから多くの人に情報を伝えられるんだよ。まあ、別に意識して使っているようなものじゃないね。ここではあって当たり前のものなんだよ。」
「魔法とはぜんぜん違うんですね。みんなが使える……か。」
少しうつむきながら何かを考え始めるリュナ。
そこに車内アナウンスが入り始める。
「間もなく次の停車駅。第4地区ターミナルへ到着します。他の地区への連絡線、セントラルライナー、エアポートライン、本州高速連絡線はこちらでお乗換です。」
そしてゆっくりとだが確実にかかるブレーキ。
そして、どんなに科学が進んでも発生する物理法則である慣性の法則。
しかし、それは知らなくては何も対処することは出来ない。
故にそれを知らない少女は……。
「……ッ!」
蹈鞴を踏んで転びそうになる。
が……。
「おっと……。大丈夫ですか。」
そう言って倒れこんできた少女を支える恰幅のいい男。
「あ。すみません。リュナしっかりしないと。」
そう言って考えグセの少女を注意しておく。それにしてもこんなクセがあって大丈夫だったのかな?
あまり、治安は良くなかったみたいだしぼーっとしている間にも……。
まあいいか。
「いえいえ。やわら……。ゲフンゲフン。しっかり見ていないと危ないですよ。」
……言いかけたことは聞かなかったことにしておこう。今のはこっちが悪いわけだし……。
列車がターミナルへ入り車内が一瞬暗くなる。
列車はスピードを緩めるためにブレーキの強度を上げてゆく。
今度こそリュナが倒れないように肩を支えて立つ。
やはり慣性の法則になれていないせいなのか、どうしてもリュナの体はふらついてしまう。
そして、何か柔らかいものが腕に押し当てられる。
……これはどうしようもないことだよね?
そうこうしているうちに列車はターミナルホームの規定位置へと停車をする。
最後にもう一度大きく揺れて完全に列車が停止する。
列車が止まってから扉が開くまでの短い間に扉の近くから離れてちょうど空いた対面式の座席へと足を進める。
扉の前から離れるのと入れ違いで今まで席に座っていた人が立ち上がり扉へと殺到する。
それを席に座らせたリュナは呆然として眺めている。
「何であんなに急いでいるんですか?何かあるんですか?」
「いや。特にないよ。これがここのいつもの光景なんだ。」
そう伝えるがリュナの表情は納得がいかないような感じである。
まあ文化の違いが出てくるわけだな。
価値観の違いとかもあるし仕方ないことだろうな。
ターミナルから第4地区の各地へ行くために乗り込んでくる乗客ですぐに一杯になる。
そんな乗客を横目に見ながらリュナは目を伏せる。
また何か考え込んでいるんだろうな。
そう思いながらも声はかけずに窓の外を眺める。
列車のスピードが上がるに従って、背の高いビルがどんどんと窓の外を流れていく。
そして、何度かの減速がかかる度に軽くだが体が流される感覚がある。
今日は手動運転も入っているんだっけ?あまり上手じゃないな……。
そう言っているうちに再び車内アナウンスが流れてくる。
目的地到着らしい。
いまだに考え込んでいるリュナの肩を叩いてこちら側へ引き戻す。
「次が目的の場所だからね。降りるよ。」
「目的地ですか……。」
列車が環状4号線上の駅に到着する。
「第四役場前。地区役場をご利用の方はお降りください。」
アナウンスと共に数人の人たちが降りて行く。
それに遅れないようにリュナの手を引いてホームへと降りる。
ホームには旧世代の改札は存在しておらず自由に乗り降りができるようになっている。
住民の銀行口座からは毎月必ず交通維持費が引き落とされておりそのお陰で、自由に交通機関は使うことができる。
そのままラッシュ時間を過ぎたにもかかわらずに交通量の多い環状線を横目にしながら整備された公園のような場所へと入る。
「あ……。ここは……。」
リュナが何かほっとしたような表情をしている。
「ここは自然保護地区だ。市民の憩いの場になっている他にこの地区の役場があるんだ。」
「そうなんですか……」
少し疲れたような表情をしているな。
まあ、なれない場所だし仕方ないか。
ポケットから認証機を出して時間を確認してみる。
九時半か。
未だ役場が空くまで少し時間あるしな。少し休んでいってもいいか。
幸いにもここは公園として整備されているため座る場所はいくらでもあるし、飲み物も簡単に買える。
「それじゃ少し休んでから行こうか。」
そんな提案にリュナの表情はパッとかがやく。
「いいんですか?」
「いいんだよ。役場が空くまで未だ時間あるから。」
そう言ってリュナを先導する。
すぐ近くにはちょうどいい木陰と備え付けのテーブルと椅子がある。
そしてその脇には自動販売機も備え付けられている。
リュナは自販機に興味があるのかそれをじっと見つめている。
使い方を見せても問題ないだろう。
そう考えて、認証機をポケットから出して読み取り部分に当てる。
そして適当に飲み物を買おうと思うが……。
何がいいかな?そう思ってサンプルを眺める。
そしてふと思う。
もしかしたらリュナのところには炭酸飲料はないかな?
異世界に来て炭酸飲料をはじめて飲んで驚く……。
見てみたいな。
そういう悪戯心が働いて2本の『コーラ!オレ!!』を選択する。
さてはてどんな反応を返すんだろうな……。
「はいどうぞ。」
そう言ってリュナの前に買ったばかりの缶を置く。
「ありがとうございます。」
そう言って缶を握るがなかなか開けようとしない。缶を上から見たりひっくり返してみたり。揺すってみたり。
……もしかして缶のあけかたがわからないのか?
そう思っているうちにもリュナの缶の調査は続いている。
机に叩きつけていたりさらに振ってみたり。
あがくの果てには……。
「これはすごいわね。いくら叩きつけても壊れたりしないものなんて……。でもこれなら。」
そういって何やら呪文のようなものを唱え始めるリュナ。
とにかくもう止めないとな。
「リュナ。ストップだ。その力は使うなっていっただろう。これがこう開けるんだ。」
キョトンとしているリュナの前でまだ開けていなかった自分の缶を開けて見せる。
そしてそれをリュナの前に置いて、ぼこぼこになった缶はこちらに回収する。
それを誰もいない方へ向けてゆっくりと開ける。
プシュー。
そんな炭酸特有の音をさせながら空いた隙間から褐色の泡が吹き出してくるが、すぐに缶にたまっていた炭酸は抜けて泡が吹き出さなくなる。
そうなったのを確認してリュナの前でプルタブを完全に開ける。
シュポ。
そんな間抜けな音がして最後の悪あがきが発動して泡が一筋天へと舞う。
幸いにも誰もいないところへと落ちたが、あれが服についたりしたらと
思うとあまりよい気持ちではない。
とりあえず……。
「ここにはそういう力はないからつかわないように。空け方が分からなかったら聞いてくれて構わないから。」
リュナはばつの悪そうな顔をして一言。ご迷惑をお掛けしましたと言う。
「まあ。別にいいから。ゆっくりここの暮らしになれていけばいいからね。」
そういってリュナにきれいな缶の方を勧める。
何か言われないうちに今しがた空けた缶の方に口をつける。
結構振っていたから炭酸が抜けているな……。
飲みながらもリュナを観察してみる。
さて。どんな顔をするのかな?
リュナが缶に口をつける。そして顔を変な感じに歪ませる。
……なんだか可愛いな。
吐こうにも吐けないというような感じでリュナは一口飲んだものを飲み込む。
「なんなんですか~。この変な飲み物は?」
あまりお気に召さなかったかな?
「これは炭酸って言ってそういう感触を楽しむ飲み物なんだ。」
「そうですか……。はじめての感覚でした。」
そうか。そう言って空を見上げる。
空の遥か彼方にスペースプレーンの姿が見えたような気がした。
ピン~ポン~パン~ポン。
そんな間の抜けた音が聞こえてくる。
「だたいま10時をお知らせいたします。現時刻より各地区役場の業務が開始されます。ご用の方は窓口までお越しください。」
おっと。もうそんなに時間がたったのか。
「それじゃそろそろいこうか。」
そう言って椅子から立ち上がる。
リュナも立ち上がってスカートの汚れを払う。
机の上に残った缶を回収してリサイクルホックスへと放り込む。
意外なことになんだかんだ言って全部飲んでいたみたいだ。
そして再び先導して並木道へと入っていった。
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ああ。いい天気だ。
そう思いながら男は帽子を被って扉を空ける。
年老いた体の節々がギシギシと言うが別に痛みなどはない。自分の祖父の時代ぐらいはこの都市になると筆記臨死の痛みに襲われていたらしいが今はそんな事はない。
ここは自然保護区域から続く並木道の中間点。保護区域と区域役場の行政上の境界線である。
そして男……老人の役目と言うと役場へ来る人の目的調査である。
目的を予め聞いておくことによって迅速な対応を行うと言う行政サービスの一環でもある。
そして男の目に一人の男性と金髪の少女…もとい道行く人10人に聞けば6人くらいは「うん。良いんじゃない?」というような少女がならんでこちらへと向かってくる。
さて。今日一発目の仕事か。
意気込みを入れて仕事を開始する。
「ようこそ、第四地区地域役場へ。認証コードをお願いします。」
手元に端末を用意して男がコード認証を行うのを待つ。
男が端末に認証機を当てると、連邦政府人民局の情報サーバーへアクセスされコード認証が行われる。
そして、それが終わると男は、付き添いの少女に認証機を出すようにといいそれを出ささせる。
男から開封されたばかりと見られる新品のリーダーを受け取って端末に当てる。
端末に表示されるのは難民の仮登録が行われていると言うことだ。
別に難民だからと言って差別するわけじゃない。むしろ、被害者か。
つまりこれから本登録なんだろう。
何にしても、幸いなことだ。
多くの難民がいる中でこういうふうに難民登録ができると言うのは幸運としか言えない。
いくら政府が難民を受け入れると言っても、なかにはスパイ活動を行うものだっている。
その為にも、難民保護管理官が保護監督責任を負わなくてはならない。
その監督してもらえる人に会えることがまれなんだから。
「難民の新規登録ですね。入り口入っていただいて二階窓口がそうです。」
「わかりました。ご苦労様です。」
そういうと男と少女は地域役場に向かって歩き始めた。
まだまだ今日と言う日は、始まったばかりである。
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「あれが、その役所なんですか?」
シュウヤの後ろを歩くこと数分。並木道を歩く先に見えてきた物を見て聞く。
高さは、学院の本館の高さと同じくらいだろうか。壁は、つるりとした
石のようなもので作られていて、学院のように凸凹が全くない。
まるで、王都の中心にそびえる王城の城壁のようだ。
「そうだ。此処が第四地区役場。この学術研究技術都市の各地区の自治のまとめ役だな。大元の連邦政府直轄の機関は第一地区にある。まあ、此処は技術局が強いからねあんまり大きな顔はしていないんだけれども……。」
そうして指を刺された方向には昨日窓から見えた塔……あの天まで届くとも見える存在感のある建物がある。
「この島は、全部で23の地区に分かれているんだ。そのひとつひとつにこんな役所があるんだ。まあ、詳しいことは後で説明するよ。……こっちだ。」
シュウヤは建物の中へと入っていく。その姿を追って、リュナも建物の中へと入る。
側面についているガラスからは中の様子がよく見える。ドタバタと動いていて、まるでギルドの本部みたいだ。
受付を待っているのか沢山の人が座っている。
その姿を横目にしながらどの様に作られたのかもさっぱりわからない不思議な階段を登ってゆく。
その先には考えられないような光景が広がっていた。
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階段を上がりきると、そこは天井が吹き抜けとなっていて、日がさんさんと入ってくる構造になっている。
リュナはその光景に心惹かれたのか、しばし立ち止まってしまう。
う~ん。やっぱり驚きの連続なんだろうな……。
何度目になるか解らないがリュナの肩を叩いて、意識をこちらへ呼び戻す。
それから難民関連の部署を探すためにホールを見回す。
さてと……難民関係の部署は……あったあった。
目の先には、天井から『難民係』と書かれたプレートが垂れ下がっている。
朝の忙しい時間帯で、他の職員は忙しそうに働いているのに、仕事にもあまり身がはいっていないんだろうか。
難民係のプレートが下がった受付にはパイプを咥えた中年のヒゲオヤジが雑誌をみている。
……明らかにヤル気ねえな。これでイイのか公務員。
リュナを連れて受付の前に行くも、全く反応しない。
行政サービスの担当官がこれでイイのか?
「難民保護管理官の更新をお願いします。」
「あ~はいはい。ここに認証機をよろしくね。」
そう言って雑誌から目をはなさずにトレーを出してくる。
それに認証機を置くと、やっと雑誌から目を離してこちらを見てくる。
あれ?この人どっかで見たような……?
「ん?もしかして、君僕のゼミ取っていた?」
その言葉で思い出す。この人は……
「ムラサメ教授!ムラサメ教授ですよね?」
声が少し大きくなってしまった性か周りで仕事をしていた人や受付に来ていた人たちが驚いてこちらを見てくる。
今でこそ髭面をしているが、その口にあるパイプは忘れられないものだ。
「ああ。教授は首になったよ。あいつら頭固いから……。」
あいつらって……。もしかして何か問題でも起こしたのか?
のんびりとした先生だったけれども生徒からは人気の先生だったのに……。
「査問会の坊ちゃんたちがさ~。教育精神がなっていないとか言い出してね。援護してくれる先生もいたんだけれどもね……。」
……のんびりとしすぎたって言うことなのかな?授業はマイペースでカリキュラムも滅茶苦茶だったけれども。でもいい先生だったのに。
「なに。これは俺の生き方だ。自分の生きたいようにして、のんびり過ごせばいいんだ。自分のやりたい事をやって、それでな。」
パイプのけむりを机の端に向けて吐き出す。そこで動いている小型の集煙機は、それを吸い込んで中のクリーナーを通して綺麗な空気を吐き出す。
それにしても、首になって専門の職に就いたんだろうけども、この態度を貫いていてよくもまあ、解雇されないもんだと思う。
いろいろ圧力もあるだろうに、自分のやり方も変えないし……完璧に我が道を行く人っていうやつだな。
まあ、能力が高いって言うのもあると思うけれども……。
元々大学でも査問会で首になるまで49年間にわたってこのスタイルを貫いてきたらしい。
それに、教授をしながらも難民管理法の第一線で働き続けた実績があるためなのか、他の難民担当官が行う難民登録手続きよりもこの人が行った登録手続きの方が高い確率で難民として認められると言うら
い。
あくまでゼミで聞いた噂であるが。
彼は、トレーの上の認証機を回収して、業務用の読み取り機の上に置く。
そして、彼の目がすうっと細められて、彼の指がキーボードを踊り始める。
その速さは、かなりのスピードだ。本業の自分から見ても速い速度だと思う。
カチャカチャ……。
「はい。これでオシマイ。」
声をかけられたときには目の前に認証機がおかれていた。
いつもはのんびりしているのに仕事早いんだよなこの先生。
「で……。今日の用事は何なんだ?まさか使いもしない物を更新しに来
ましたとか言うわけじゃないだろう?」
ニヤリとしながら聞いてくる。なんだか貫禄がある笑い方だ。
大学でこの人のゼミを取ったときは使うかどうか分からなかったけれども、急に使うことだってあるんだな。
「そうですね。」
「さてと……それでは、和泉保護管理官。今回保護する難民の名前は?」
さて。これから査問が始まる。まるでゼミの時の模擬査問を思い出す。
「リュナ=ルオフィス。性別は女。年齢は18。」
そのデータを聞きながら目の前の老人は見事なブラインドタッチで入力してくる。
「……!」
画面を見た教授の顔が驚きの表情で固まる。
そして……。
「和泉保護管理官。悪いがそこの彼女と共に来てもらえるか。」
全く予想しなかった回答がされた。
なんで……。ゼミの時の予備査問だったら、この後は何処で保護したとかそう言うのを聞かれるんじゃないのか?
「いや。そんな目で見られても……。こちらとしても、予想外だからな……。」
そう言って席から立ち上がって受付横の職員用の扉を開く。
教授が立った瞬間に、周囲からざわめきが聞こえてくる。
「嘘……だろ。あのじいさんが就業時間中に座席から動くなんて……。それどころかまともに仕事するなんて……」
「ありえない……。ここへ来てから3年。一度も動いたことなかったのに……」
「これは……。戦争になるかもしれない……。」
「イモービル・グランパが……。」
散々な言われようじゃないですか……。教授。
自分の専攻のはずなのに仕事全然して無かったんですか?
「ん?違うよ。たまたまここに難民登録に来る人がいなかっただけさ。論文とかは学会に出しているしね。」
言いたいことを察したのか質問する前に答えが出てくる。
仕事がなかったから自分の自由にしていたってことか?
なんともまあ……。
そうして教授の後ろについて職員の机をすり抜けていく。
リュナが珍しそうにして周りを見回しているが、空気をよんでいるのか惚けっと突っ立ったりはしない。
そして事務室を抜けて廊下へと入る。床には赤い絨毯が敷き詰められていて足音はほとんどしない。
金使ってるな……。民間企業だと節約節約って言っていたのに……。
前の職場を思い出す。良い同僚だったのにな……。
そう考えながらも黙々と教授の後ろを付いていく。
そしてその廊下の一番先の部屋の前で教授は立ち止まった。
「部屋に入って待っていてくれ。話を通してくるから。」
そう言って踵を返して廊下をもどっていく。
もうすぐ70になろうとしているはずなのにものすごい健脚ぶりだな。
そして少し不安そうにしているリュナに声をかける。
「それじゃ入って待っていようか。」
そして、部屋の扉を押し開けた。
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シュウヤが部屋を開いた瞬間に漂ってくる異臭を私の鼻は捉える。
いや。違う。これは異臭というよりも……。
あまりに濃厚すぎる香水の匂い。
よく王宮課程の人たちが寄って集って、付けているようなものだ。
少しならば品がいいで済むのになんでああいう人たちはやたら付けたがるのかしら?
シュウヤはそんな匂いを気にしないように部屋へと入っていく。
置いて行かれては困るので部屋の中へと一緒に入る。
「ねえ。シュウヤ……変な匂いでいっぱいよね。ここ。」
そう言うとシュウヤは困ったような顔をして頭を掻いている。
「変な匂いって言っちゃだめだよ。この香水をやたらめったら付ける人に心当たりはなくはないから……。」
そうやらシュウヤの知り合いだったらしい。
悪いこと言ったかしら……。
「……先輩。隠れてないで出てきてください。」
! 誰か人が隠れているの?
シュウヤにはあまり使うなって言われていたけれども……。
小声で感覚を鋭敏にする呪文を唱える。
すると、微かにではあるがリュナの回りに風の動きが発生して、その動きで何かがいることがわかる。
「そこの部屋のすみ!誰かいるでしょう。」
そこに向けて指を突きつけてみる。
すると……。
「ハハハハッハハハハハッハハハハハハハッハ。まさかこんなに簡単にわかってしまうなんてね。」
高笑いと共に部屋のすみがぼやけて人の輪郭をとりはじめる。
そして今まで壁が見えていたはずなのにそこに人が現れる。
「ようこそ異なる理が支配する世界からの来訪者。我々は君を歓迎する。」
体のボディーがはっきり出ている若い男の声が聞こえてきた。