うちのクラスの菊池君。
いつも有り難うございます。
よろしくお願いします。
菊池祭り参加作品になります。
みこと。@【8月8日「鏡の世界」アンソロ発売】様の作品、『「うちのクラスの菊池君」というタイトルがあったので、俺のことかとクリックしてみた』《https://ncode.syosetu.com/n9179ji/》に出てくる、ペンネーム「りんごタルト」さんが書いた「うちのクラスの菊池君。」です。
「おはよ菊池君」
「おはよう、佐々木さん」
同じクラスというだけで、何気なく交わされる挨拶一つが私には高いハードルである。
いいなぁ、佐々木さん。私も気軽に菊池君におはようの挨拶が出来たらいいのに。そして菊池君に「おはよう」って言ってもらいたい。
そのまま菊池君と話しはじめる佐々木さんの事を羨ましく思う。
立ち話をする二人の横を抜けて自分の席に向かう。
好きな人の横を通り過ぎると思うだけで、勝手に心拍数が上がってしまう。
緊張を隠して二人の横を過ぎ、何事もなかったように自分の席に座り読みかけの文庫本を取り出す。
そして読んでいると見せかけて…上目遣いで時折菊池君を眺める。
菊池君、何話しているのかな。
あ、笑った。…その笑顔、私にもくれないかな。
今は見ているだけで精一杯だけど、いつか仲良くなれたら嬉しい。
開け放たれた窓から入る風が、菊池君の少し伸びた髪を揺らしている。
「おはよ悠里、よだれ出ちゃってるよ」
「えっ!?」
前の席に座った親友の陽菜ちゃんに言われて慌てて口元に手をやる。
「嘘だよ」
「もう!陽菜ちゃんってば!揶揄うのやめてよ」
「いやー。今日も変わらず菊池の事好きなんだなって思って」
「わーっ!わーっ!もうっ!本人に聞こえたらどうするの!?」
陽菜ちゃんの口に慌てて人差し指を当てる。
毎日同じように繰り返すやり取り。
呆れた陽菜ちゃんがいつもと違う質問をしてきた。
「いい加減告白しないの?」
想像して自分の顔からボッ!と音をたてて火が出た。
「告白!?そんなムリムリムリ!だってほとんど話したことないし、挨拶だって出来ないし、菊池君凄くかっこいいし、私なんてムリムリムリ…」
両手を振って全力で否定したせいで、机の角にあった消しゴムに手が当たり机から落ちた。
消しゴムはぽんと跳ね、菊池君の足元に転がって行く。
消しゴムに気づいた菊池君がこちらに視線を向ける。
陽菜ちゃんは菊池君に対してニコニコしながら、消しゴムの持ち主である私を指差した。
そしてわざとらしく「あ〜、私さっき担任に呼ばれてたんだ〜。悠里、後でね〜」と言って席を立ち上がった。
「嘘!待って!一人にしないで!!」
小声で言うも「頑張れ!」と小声で返されてしまった。
足元の消しゴムを拾った菊池君がこちらにやって来た。
ああっ!待って!口から心臓が飛び出しそう!
「はい」
「あ、あ、ありがとう…」
なんとか返せたものの、きっと顔は真っ赤だろうし、それなのに頭の中は真っ白でこの先何を話せばいいか全く考えられずに俯く。
「あれ?篠崎さん、これ読んでるの?」
菊池君のその声に顔をあげれば、文庫本を指差していた。
「え?あ、うん。まだ途中だけど…」
「俺も今、同じの読んでるんだよね。まだ途中だけど。どこまで読んだ?」
「ええっ!?…と…主人公が…」
そこから、物語がどんな結末を迎えるかの予測や、他にどんな物を読んでいるかとか、おすすめがあるかなどを話した。
やっと菊池君との会話に慣れた時、始業のチャイムが鳴り出した。
残念そうに菊池君が笑う。
「同じクラスに小説の話しで盛り上がれる人がいるなんて思ってなかった。それ、読み終わったら感想教えてね」
そして、話せて楽しかったと言って軽く手をあげ、自分の席に戻って行った。
その日の授業は全く頭に入らなかった。
菊池君と同じ小説を読んでいたなんて!また話せるなんて!
おすすめの小説はどれにしよう?アレは読んだかな?
ずっとそんな事を考えていた。
「悠里、よだれ出ちゃってるよ」
「えっ!」
「嘘だよ」
「もう!陽菜ちゃんってば!揶揄うのやめてよ」
今日帰ったら文庫本を読破しよう。
そして明日、菊池君におはようの挨拶をしてから感想を話そうと思う。
みこと。さまからいただきました。
言わずもがな、菊池君の事を考えている悠里ちゃんです。
可愛い!
みこと。様、ありがとうございました!