神の意志
ある日神は下界を見下ろし、人間が殺し合いを続けている事を憂慮する。
暫し思案した神はある案を思いつき実行に移した。
そして目を付けた男に知恵と思想を密かに刷り込む。
「彼奴だ、彼奴さえいなければ、地球の生物は平和に暮らせるのだ」
神が密かに刷り込んだと思わずそう独り言を呟いた男は、自分が造ったタイムマシンに大量の武器と弾薬に移動用の車を載せ過去に飛んだ。
タイムマシンは数十万年前のアフリカに現れる。
車で走り回って数日後の夜、遂に目指す相手がいる集団を見つけた男は、その集団に機関銃の銃口を向け発砲した。
老若男女区別なく、集団の者たちを次々と射殺していく。
そして集団に属する1人の女性を射殺した時、銃撃していた男の姿が消えタイムマシンも消え去り、射殺された多数の死体のみが大地に転がっていた。
男が射殺した女性はミトコンドリアイブと言われる、全ての人間の先祖となる女性である。
その為、消え去ったのは男やタイムマシンだけでなく、タイムマシンを造る事が出来る程発展した文明とそこに至る歴史も消え去った。
そして地球上には動植物の楽園が広がっていた、何て事は無く。
射殺されたミトコンドリアイブと言われる筈だった女性の子孫に殺され、子孫を残すことが出来なかった筈の別な女性、未来にミトコンドリアイブと言われるようになる女性の子孫が作り上げた歴史と文明が出来上がっていた。
神はその文明に生きるある男にも、密かに知識と思想を刷り込んだ。
その男もタイムマシンを開発し、全ての人間の先祖であるミトコンドリアイブを殺しに過去に飛んで女性を射殺。
そして殺した結果、殺した男もタイムマシンも消え去り、殺した女性の子孫に殺され子孫を残すことが出来なかった、別な女性の子孫が作り上げた歴史と文明が残る。
神はそれを幾度となく繰り返した。
幾十、幾百、幾千、幾万と繰り返され、未来にミトコンドリアイブと言われるようになる女性が次から次へと殺される。
そして最後に残った女性とその子孫が、地球の正当な所有者として神に認められた。
彼らは争いを好まず同族同士での殺し合いを行わない。
その為、幾万と殺されたミトコンドリアイブの子孫たちが文明を発達させた原動力の争いや戦争が一切起こらず、1万年経っても100万年経っても1億年経っても文明が発達せず、石器時代が悠久の年月続く。
神はそれを天上から見下ろし満足げに頷くのであった。